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大阪府歯科保険医協会の新聞04年7月25日号に掲載された、西村博史・税理士の記事を掲載します。


消費税と医療福祉を問う


 与党や民主党などは「福祉、年金、医療」を錦の御旗に消費税増税を検討しています。消費税増税で福祉医療は実現するのか、税の実務家として、その解決できない問題点を検討します。

弱者に負担、逆進性の実態

 下表は、収入階級別の消費税負担率です。これによると、生活保護、母子世帯、老人世帯などが多く所属する年収200万円までの世帯は、3%を超える負担(年間約8万円)であるのに対して、1500万円を超える階級では、1.36%の負担(年間約18万9000円)であり、割合にして2.5倍の負担率となっています。政府税制調査会の「少子高齢社会における税制のあり方(2003(平成15)年6月17日)」では、「これに関連し、所得に対する逆進性の問題については、消費税という一税目のみを取り上げて議論すべきものではなく、税制全体、さらには社会保障制度等の歳出面を含めた財政全体で判断していくことが必要である。」としています。しかし、こうした弱者に過酷な税を増税するのは勿論、それを財源として社会福祉に支出するのは、本末転倒の政策であるのは明らかです。


表 収入階級別消費税負担率(総務省「家計調査動向」2003より)

年間収入階級(円) 300万円 400万円 500万円 600万円 700万円 800万円 900万円 "1,000万円" 1250万円 1500万円
200万円未満 350万未満 450万未満 550万未満 650万未満 750万未満 900万未満 "1,000万未満" 1250万未満 1500万未満
消費税負担率(%) 3.42 3.00 2.79 2.41 2.29 2.18 2.01 1.94 1.90 1.68 1.36


益税解消の影で切り捨てられる「損税」問題

 個人は、2005(平成17)年から基準期間の課税売上が1000万を超える場合には、消費税の課税業者となり、併せて簡易課税制度についても改悪が実行されました。消費税施行以来、限界控除などの小規模事業者に認められていた特例も次々廃止されるなど、「益税」解消を大義として中小業者の特例は大幅に縮減されてきたことになります。しかし、消費税は、「転嫁」つまり価格に上乗せできない場合には事業者の所得から支払う「損税」となりますが、その実態については殆ど解明されていません。わずかな政府調査資料によると、今回新たに課税業者となる売上げ3000万以下の中小業者では、約70%から50%が「完全に転嫁できない」と回答しています。市場の力関係の中で不可避的に発生する「損税」問題は、中小業者の負担により切り捨てられようとしています。

福祉に使われなかった消費税

 消費税の15年間の税収合計は、2003年度までの累計で約138兆円となっています。他方社会保障関係費は導入当初に比較すると55兆円の増加に止まります。また、この間の法人税、法人住民税、法人事業税の税収減は約131兆円となっています。この数値からは、消費税は必ずしも社会保障や福祉財源使途に使用されたとは言えず、法人税等の減税、減収の補完として費消されてきたとも言えます。

 そして、より本質的な事は、国民が税負担の見合としてどれだけの受益を受けているかという問題です。高齢化社会論では、負担の増大という財政側からの議論ばかりが横行しています。しかし、家計や国民経済からみてはたして租税と社会保障の負担率から社会保障給付(受給)率を控除した純負担率がどのようになるかが実は大きな問題であると考えます。日本は国際的にみて給付率が低いため純負担率がアメリカや欧米諸国に比べて高いとの試算例があります。ますます増加する負担と削減される年金や医療保障で今後純負担率が更に低下する事が懸念されます。

少子高齢化社会論と消費税

 少子高齢化社会に対応するための財源として消費税が必要であるというのが政府の主張です。しかし、総務省データーを検討すると、非労働力人口は増加の一途をたどり15歳以上の人口の39%、4285万人に達していること。昭和28年当時はその割合は、約30%であったこと。現在約10人に4人が非労働力人口となっていること。とりわけ、女性の非労働力人口は、女性の労働力人口2732万人を上回る2916万人となっていること。が判ります。

 少子高齢化と同時に進行しているのは、非労働力人口増加、特に国際的にも低い女性の有業率の実態です。また意外にも女性の有業率が高い国では、出生率が高いという統計が試算されています。ドイツ、イタリア、日本の出生率の低下が国際的にも際だっています。社会保障の進んだ国では女性の有業率が高く同時に出生率が高いという事実は、少子高齢化の本質的解決のために、ゆがんだ財政を根本から転換し、社会保障を国の政策の中心に据える事こそがまず重要である事を物語っているのではないでしょうか。

消費税のゼロ税率化を考える

 現在保険診療報酬は消費税法では「非課税」となっています。しかし、仕入れに係る消費税は医療機関の負担となっています。診療報酬改定時にこの「損税」相当は手当てされているというのが当局の見解ですが、結果的に国民に「損税」部分を負担させた事になります。国際的には、イギリスなどいくつかの国が食料品など生活必須の消費に対してゼロ税率を採用しています。この制度を採用することにより本当の「非課税」が実現します。

 本質的に弱者いじめの消費税は廃止されるべきであるというのが筆者の意見です。しかし医療、食料品など生活に直結する消費にゼロ税率適用を求めることは、消費税の逆進性を緩和するための最も有効な方法であると考えています。