ホーム

 

産経新聞6月14日付けに掲載された
「納税者の視点で見直せ 開業医と勤務医の診療報酬配分」に関する抗議と要望


2009年6月18日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

初夏の候、貴職におかれましては、ご健勝のことと拝察いたします。
私ども全国保険医団体連合会(略称:保団連。会員数10万3千人)は、全国の開業医師・歯科医師で構成する団体です。
さて、貴職が執筆された表記の記事は、医療現場の実態を誤認するなど、地域医療の再生に向けた課題の本質をすり替えるものです。財政制度等審議会が6月3日に発表した「建議」の主張を鵜呑みにした記事に抗議するとともに、当会との懇談を要望するものです。

第1に、診療報酬に関する認識です。診療報酬とは、健康保険が利く医療について、その範囲・内容と費用を全国一律の基準で決めたものです。すなわち、@病気やけがの治療や検査などの全国共通の公定価格、A保険が利く医療の範囲を決める、B保険が利く医療の治療方法を決める、C医療機関の水準、医師や看護師の人員配置に対応した公定価格を決める−という4つの役割を持っています。記事中の診療報酬は医師の給与であるという短絡的な指摘は、読者に誤解を与えるものです。

第2に、医師の絶対数が不足していることは、政府も認めているところです。医師の偏在の大元は、政府の長年にわたる医療費抑制策と、その帰結であるOECD水準に13万人不足している医師の絶対数の不足がもたらしたものです。この本質をすり替えて、偏在が本質であるとする記事は、読者に誤解を与えるものです。

臨床研修医を対象に行ったアンケート調査(東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座 調査研究班)では、医師不足地域で「短期間」または「長期間」の就労をしてもいいと回答した研修医は91.2%にのぼり、就労条件で最も多かったのは「休暇がとれる勤務体制」でした。このことからも、医師の本格的な養成と医師が安心して働ける環境改善に思いきって公費を投入することが、医師不足・偏在への本質的な解決策です。

第3に、中医協の医療経済実態調査では、開業医(個人立医科無床診療所)の収支差額(可処分所得ではない)は、2001年以降減少傾向にあり、2007年医療経済実態調査では開業医の最頻収支差額と勤務医の年収はいずれも1400万円台で同じ水準です(別紙参照)。記事は、給与の年収格差が2倍だと述べていますが、医療経済実態調査の結果を正確に引用せずに、読者に誤解を与えるものです。

労働時間について言えば、当会が実施した「大阪の開業医の経営・労働実態調査」では、週当たりの平均労働時間は40歳代から70歳代までどの年代でも50時間を超え、60歳代、70歳代でも勤務医の平均従業時間を大きく上回っています。時間外労働時間に至っては過労死ラインの月60時間をどの年代も超えています(別紙参照)。また、厚生労働省の医療施設動態調査によれば、昨年1年間(08年2月〜09年1月)で全国26都道府県において医科診療所が減少する事態となっています。総数でも前年1月と比べて08年で652、09年はわずか4の実増にとどまり減少の兆しが見えます(別紙参照)。

医療費総枠を拡大せずに、診療所から急性期病院へ診療報酬を振り向ける「財政中立」の手法では、根本問題は何ら解決しないことは、2008年改定以降も勤務医の過重労働がほとんど改善されていないことからも明らかです。勤務医の労働環境の改善と地域医療を支える診療所の役割を診療報酬で正当に評価することが必要です。

第4に、診療報酬は02年度改定からの4回連続の引き下げで、厚生労働省発表の改定率でもマイナス7.53%(01年度対比)となっています(別紙参照)。地域医療を支える中小病院や診療所の経営状況は深刻化し、歯科医療は“ワーキングプア歯科医”に象徴されるように危機的な状況に陥っています。医療の質と安全が脅かされている中、医療機関の従事者と年齢分布も職種も異なり、低賃金・不安定雇用の非正規雇用者が3分の1超を占める民間雇用労働者や公務員と比較して、診療報酬総額を抑制することは、公的医療保険の給付を縮小し、地域医療の再生に逆行するものです。