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【特集 第30回医療研】シンポジウムの概要

(全国保険医新聞2015年12月5日号より)

 

 保団連は10月10、11日、東京都内で「今、改めて考える―第一線医療・医学の創造」をメインテーマに第30回医療研究フォーラムを開催した。11日には「患者本位の診療体制を構築する」「大震災と医療・社会保障」「本来の高齢者医療に立ち返る」の3テーマでシンポジウムを行った。各シンポジウムの概要を紹介する。

 

シンポジウムT 患者本位の診療報酬体制を構築する

 シンポジウムTは「患者本位の診療報酬体制を構築する―明日から始める医科歯科連携」をテーマに開催された。現在、医科・歯科隣接医学への関心が高まると同時に、日常診療における「医科歯科連携」を推進すべく各界はさまざまな取り組みを行ってきたが、診療現場をみると、「医科歯科連携」が進んでいるとは言い難く、このシンポジウムでは、「医科歯科連携」の取り組みに関して、これまで以上に現場に即した実践と議論となった。
 基調講演は筑波大学医学医療系顎口腔外科学教授(石岡第一病院口腔外科)の萩原敏之氏。医科歯科連携を必要とする医療、介護ニーズとその現状について、医科歯科共通の代表的疾患、医科疾患治療で歯科の支持療法が必要な疾患、歯科口腔疾患で医科の理解と助けが必要な疾患などいずれも医科歯科連携が必要であると述べた。また周術期では半数以上が周術期口腔機能訓練を行えなかったり、薬剤関連顎骨壊死での休薬についての医科歯科のコンセンサスが得られなかったりなどの現実を指摘した。
 パネリストの堀田修氏(堀田修クリニック院長)はまず口腔と全身疾患「木を見て森も見る医療」の提言で、総医療費の増大の打開策は疾病予防と根本治療の導入ということで、IgA腎症の原因は慢性上咽頭炎(口腔内症状は舌痛症、多発性過敏症)の処置により病態が改善するとした。人間全体を俯瞰しなければならないとのことだ。
 次は市原透氏(豊橋医療センター院長)。「病院における歯科の重要性―当病院で歯科口腔外科を閉鎖しない理由」と題して、一般病院は歯科を赤字削減目的で廃止するのではなく病院経営の必要経費として考え存続させるべきと、患者本位の診療体制の構築のために、歯科・歯科口腔外科の必要性、医科歯科の重要性を切に訴えていただいた。
 最後に三辺正人氏(神奈川歯科大学口腔科学歯周病学分野教授)。「糖尿病歯周病医科歯科連携の有用性―連携手帳を用いた取り組み」と題して、歯周病リスク自己チェック票と唾液潜血検査の併用で重度歯周病患者を医科でスクリーニングできる、この判定に基づく医科歯科連携により歯科受診率の向上、脂質代謝、口腔清掃が改善できるなど、連携手帳をツールとして未受診・治療中断糖尿病患者のスクリーニングが有用、さらに血糖スクリーニング検査を併用すれば、より高い確率で糖尿病のスクリーニングの可能性があるなど、医科歯科連携の必要性を示した。
 フロア討論では、「中核病院で歯科治療を担当しそれなりの結果が出ても居宅に戻ったあとのフォローが困難」など、積極的な討論が行われ、医科歯科連携の重要性が確認できた。医科の出席がもう少し多ければよかったと思う。(保団連理事 賀来進)

 

シンポジウムU 大震災と医療・社会保障

 シンポジウムUは、「大震災と医療・社会保障―被災者本位の復興めざして」 をテーマに開催した。阪神・淡路大震災から20年、東日本大震災から4年半。これまでを振り返りながら、あらためて被災者本位の復興と医療・社会保障のあり方を討論した。
 基調講演は、兵庫県立大学防災教育センター長の室ア益輝氏。「基本的人権こそ、復興、再建の要」であることを力説した。破壊され失われたものを回復させることが基本になるが、もともと地域社会が持っていた歪みなどを顕在化させるのも災害の本質であると指摘し、真の復興には「世直し」が必要になることを明らかにした。
 次いで、4人のパネリストが発言した。
 兵庫の広川恵一氏は、阪神・淡路大震災以来20 年にわたり、東日本大震災においてもさまざまな支援活動に取り組んできた経験から、被災地での経験交流を中心に、みんなで知恵を絞る場を持つことの大切さを報告した。
 岩手の井上博夫氏は、岩手県沿岸部など、医療過疎に苦しんできた中で震災に遭遇した被災地の現状をデータに基づいて報告された。財政から医療を考える逆立ちした国の政策ではますます地域医療は崩壊に向かうことを告発した。
 宮城の水戸部秀利氏は、被災者を対象とする東北メディカルメガバンク事業の問題点を鋭く突く発言をした。震災前からの国家戦略をどさくさに紛れて強行したものであることを立証したうえで、医学研究の倫理規定にも反することを批判的に解説した。
 福島の渡辺瑞也氏は、原発事故により再開を断念せざるを得なくなった民間病院の苦悩を報告した。あらためて、医療は地域社会と共に存在するものであることを痛感したと述べ、二度と同じ被害をもたらさないためには原発の廃絶以外の道はないと主張した。
 シンポジウムを通じて、阪神・淡路大震災と東日本大震災との違い、東北の被災地3県の違いが比較できた。震災によってもたらされる災難、歪みはさまざまな顔を持っている。それぞれの個別の事情に寄り添った対策が求められることが明らかになった。時あたかも「地域包括ケア」が議論されているが、地域医療を良くしていく上で参考になる討論があった。
 大震災の経験から導き出された教訓の数々は貴重なものである。その教訓が共有化されていくことを望みたい。残念なことに参加者が40人と少なかった。「風化させない」と叫んでみても、大震災の記憶が薄らいでいくことは防止できない。大事なことは記録を遺していくことである。このシンポジウムがその一端として今後役立てられていくことを願いたい。(保団連理事 井上博之)

 

シンポジウムV 「本来の高齢者医療」 に立ち返る

 シンポジウムVでは「『本来の高齢者医療』に立ち返る」と題して現在の高齢者医療の実態と政府の方針、さらに今後のあるべき高齢者医療について基調講演、特別講演を二人のパネリストを交えて展開した。国立長寿医療研究センター名誉総長・大島伸一氏が「超高齢者社会の医療のかたち、国のかたち」と題して基調講演した。高齢化のスピードが世界に例を見ない勢いで進んでいる日本の状況を踏まえて、今までの医療は治す医療に主眼が置かれたために起こった現象だとし、これからの医療は地域包括ケア研究会報告書や社会保障制度改革国民会議報告書に提言されているように「病院で治す」から「地域全体で治し・支える」医療に転換しなければならない時期に来ていると述べた。
 NHK大型企画開発センター・チーフプロデューサーの板垣淑子氏は「病院に行くことさえできない『老後破産』の現実」と題して特別講演した。NHKスペシャルの中で現代の日本は「ひとりで生きる老後」が当たり前になっている時代に入っている。その中で「老後破産」しているケースなど以前では見られなった現象が起きていると報告した。
 パネリストとして、保団連理事であり、熊本市・くすのきクリニック院長の板井八重子氏が「社会保障としての在宅医療めざして」と題して在宅医療の現実と問題点について講演した。最近在宅患者から直接「もうこれ以上長生きして、家族に迷惑かけたくない」と言われるケースが増えてきたなど、今後の在宅医療のあり方に問題点が多くなってきていると報告した。
 次にクリニックふれあい早稲田・保健師の高杉春代氏が「ともに歩む認知症医療とケア」と題して日頃の認知症ケアについて報告した。ここ数年で認知症外来が3倍に増え、地域での「認知症ケア」の問題点が多岐にわたってきており、「自分史の取り組み」の中で「その人らしい人生」をサポートしているとの報告だった。今回は政府政策立案者・マスコミ・開業医・保健師の立場でさまざまな角度から「高齢者医療」について意見を聞いた。演者全てに共通するのは、いずれも日本の「高齢者医療」は今大きな分岐点に来ており、今後早急に何とかしなければならないと訴えていた点である。保団連としても「高齢者医療」について本気で提言していかなければならない時に来たと実感した。(保団連理事 中島幸裕)

以上