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【医療と戦争】医療者が徴用される日

全国保険医新聞2016年2月25日号より)

 

憲法による自衛隊の海外活動への歯止めを取り払う安保関連法が来月にも施行される。
新連載では医療と戦争の関わりをさまざまな角度から探る(随時掲載)。
今号では、東京新聞論説兼編集委員半田滋氏の寄稿「医療者が徴用される日」を掲載。

 

 イラク戦争で中東へ派遣され、後遺症の残る大怪我をした自衛隊員がいる事実はあまり知られていない。

 元三等空曹の男性は、2006年7月、派遣先のクウェートの空軍基地で長距離の最中に、後ろから来た米軍の大型バスにはねられ、左半身を強打した。激しい痛みから横になる毎日が続いたが、帰国できたのは2カ月も後だった。症状は固定してしまい、身体障害者四級に認定された。
男性は「クウェートでは指揮官の一等空佐が何度も様子を見にきました。繰り返し早期帰国を願い出たのに、無視されたのです」と振り返る。

 男性が事故に遭った06 年7月は、航空自衛隊の空輸活動が変わる節目だった。空輸対象だった陸上自衛隊がイラクから全員撤収、武装した米兵のバグダッドへの空輸が始まった。翌8月、米軍は掃討作戦を開始、米軍の戦闘行動を支えるための空輸だった。

 自衛隊の「事故隠し」のような対応をみる限り、男性の事故が明らかになれば、米軍との連携に不都合が出ると考えたのだろう。個人が国策の犠牲になるのは、太平洋戦争で終わりのはずだった。まして米軍のための犠牲とすれば、隊員より米国が大事ということになる。

 安倍晋三内閣は自衛隊の海外活動を拡大する安全保障関連法を成立させた。米軍など他国軍への後方支援にいつでも自衛隊を派遣できることになった。男性のような犠牲者が増える可能性は高い。

 だが、自衛隊に外科、整形外科といった専門医はあまりおらず、専門性の高い看護師も少ない。民間医療機関の協力がない限り、今後の海外活動はおぼつかないことになる。希望者がいなければ、防衛省は医療機関に医師と看護師の派遣を求めるだろう。事実上の徴用がいつ始まっても不思議ではないのだ。(半田滋・東京新聞論説兼編集委員)

半田 滋氏

半田滋(はんだ・しげる)


1955(昭和30)年生まれ。東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。92年より防衛庁取材を担当している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。

以上