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残された課題、新たな課題
―被災各県の会長・理事長に聞く―

全国保険医新聞2016年3月15日号より)

 

 東日本大震災から5年。真の復興のために今、何が求められているのか。被災地が抱えている課題やこれまでの保険医協会の取り組みなどについて、宮城、岩手、福島各協会の会長・理事長に聞いた。

被災者の中に格差の広がり

宮城県保険医協会理事長 井上 博之

 あの日まで、想像もしていなかった大災害でした。被災した人々だけでなく、遠くから見守っていた人にとっても、決して忘れ得ない記憶となりました。5年経っても。
 想定外の事態に対処しきれず、復興は遅れに遅れています。それでも、被災地は少しずつ姿を変えています。喜ばしいことですが、被災者の心情には複雑なものがあります。

「免除が続かなければ自殺」

 宮城協会は、最近も、被災者の医療費窓口負担免除に関するアンケートを実施しました。意見欄にはたくさんの書き込みがありました。「免除のおかげで今があると思います。終わったら回数も減らします。年金が年100万だけですので食費だけです。仮設住宅のおかげで生きています」
感謝と先行きの不安が入り交じった意見が多数でした。
 「免除が続かない場合には自殺するつもりです。現在ものすごく不安な状態です」他にも自殺をほのめかす記入がありました。今すぐ飛んで行きたい気持ちにかられましたが、アンケートは無記名でした。
 意見を全部読んでみて、想像以上に、格差が広がっていたと感じました。これまであまり表出してなかった追い詰められた人々の声が聞こえました。
 宮城県での医療費についての被災者支援はジグザグの道を辿ってきました。そこで示されたものは、窓口負担免除によって受診増が見られたように、震災前からの受診抑制の存在でした。さらには、途中免除打ち切り期間があり、窓口負担ゼロの効用も示唆されました。いま、来年度の医療費窓口負担免除が一部市町だけの実施となる事態に直面しています。同じ被災者なのに、医療保険の種類や収入のレベルによって分けられるだけでなく、住む場所で差をつけられる事態が迫っています。

被災者に寄り添い活動強化を

 宮城協会は、国、県、市町村に対して、要望を重ねてきました。医療費窓口負担の問題は、被災者自身の問題です。被災者支援に取り組んでいる支援団体の課題でもあります。現在も一緒になって、免除の継続・拡充の運動を行っています。
5年も経ったのだから…という論調も聞こえてきます。国や自治体は一区切りをつけたいのかもしれませんが、被災者は問題を抱えたまま、6年目に入ろうとしています。被災者に寄り添う視点を一層鮮明にして、協会も活動強化を図りたいと考えています。

 

生活再建の道のり遠く

岩手県保険医協会会長 南部 淑文

 東日本大震災から5年経ちました。被災地では、土地のかさ上げ等が着々と進められ、昨年末時点で、仮設住居の居住者はピーク時の半数、約2万2,000人まで減少しました。今次の岩手県議会では、史上2番目の規模となる「本格復興完遂」予算を可決し、本格復興の最終年と位置づけた意気込みを表しました。しかし、行政のいう「復興完遂」とは、道路、港湾、復興住宅等のいわゆるハード面であるといえます。地域によっては未だ8割の方が仮設住宅から出られないなど、復興の進展の格差も著明になってきております。ハード面だけの復興ではなく、雇用等の被災者の生活再建に関わるソフト面の状況をみると、復興完遂までは遠い道のりです。

医師不足などに国の支援必要

 岩手協会では、せめて被災者が経済的な心配をしないで受診できるよう、震災直後より、窓口負担免除の取り組みを続けています。これまでに5回の被災者アンケートを実施し、その結果を知事等に届け、現在、国保と後期高齢者に関しては、本年12月までの窓口負担免除が決定しています。しかし、同じ被災者であっても、行政の一方的な判断によって、社保の方は免除対象外となっているため、被災者からも不公平だという声は調査のたびに上がっております。
 また、本県沿岸部の震災前からの特徴ですが、不十分な公共交通網、長年にわたる医師不足などの宿弊も未解決のままです。自治体だけでは解決できず、国の支援が必要であるゆえんです。

今日明日の生活に不安

 例えば、街づくりが遅れている地域では、計画実施の前に、震災前なら誰も住まないような土地に既に住宅を構える被災者が点在しています。このままでは、新しい街と住宅地の乖離も懸念され、当初予定していた商店街を中心とする街づくり構想も破綻しかねません。仮設住宅での環境は、決して快適なものではありませんが、そもそも、経済的に余裕のない被災者には、制度面から新居についても悠長に待つことは許されないのです。アンケートにも、今日明日の生活に窮することや健康不安を訴える切実な声が多数寄せられております。
 私たちは被災県の医療団体として、被災者の生活再建には、窓口負担免除が必要な措置であると考えており、引き続き取り組みに尽力してまいります。今後も、ご支援をよろしくお願いいたします。

 

エコー検診体制整備が必要

福島県保険医協会理事長 松本 純

 あれから5年を迎える今、避難生活者は福島県内の仮設住宅や借り上げ住宅に約6万人、県外での避難生活は4万人におよびます。その影響は子どもを含め各世代にあらわれています。
 県内のプールやグランドでは除染の効果もあり避難指示区域以外で使用制限をかけているところはなくなりました。しかし県土の70%を占める山林の除染はいまだに手つかずで、子どもの成長にとって大切な里山での遊びは制限せざるを得ません。
 運動不足や心理的影響によると思われる子どもの肥満率は全国と比べて高く、教育関係をはじめに対策に取り組んでいるところです。
 福島県では震災関連死がすでに直接死を上回り、震災関連自殺者数も岩手・宮城両県に比して引き続き突出していることも大きな問題です。これらの実態は「震災関連」ではなく「原発関連」とすべきものにほかなりません。

甲状腺エコー検診受診率の向上を

 原発事故当時18歳以下の福島県民37万人の甲状腺エコー検診が、この春からは3巡目に入ります。これまでは福島県立医大や全国の専門医・技師の応援により福島県内の小中高校での集団検診として進めてきました。受診率は1巡目では80%超でしたが、2巡目では60%台にとどまりそうです。
 20歳を過ぎると検診は5年ごとですが、進学や就職、県外転出等でさらに受診率が低下することが懸念されます。身近で甲状腺エコー検診を受け何でも相談できる医療機関を増やすことが急務です。私の診療所でも甲状腺超音波検査認定医の資格を得て検診を受託する準備を進めているところです。

検診結果の解釈は慎重に

 これまで発表された甲状腺がんないしその疑いの人数については、何と比べて多いとみるのかについては議論の分かれるところです。しかしエコーレベルでの小児甲状腺がんの進展機序は不明なことが多く、他の固形がんとはかなり異なります。臨床レベル発見率との違いを考慮しないと、多発が始まっているのかどうかの疫学的解釈にも間違いが出てきます。冷静さと慎重さをお願いしたいところです。希望があれば全国どこでも負担なく甲状腺エコー検診を受けることができるように願いたいと思います。

以上