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価値ある日本の皆保険
―俳優 榎木孝明さんにインタビュー―

全国保険医新聞2016年4月25日号より)

 

 本紙に連載していた小説を原作とする映画「いしゃ先生」(平山あや主演)は、今年1月から全国で順次公開されている。昭和初期から戦後にかけ、山形県西川町大井沢で活躍した女性医師・志田周子の半生を描いたもの。保団連は、国民皆保険を守る取り組みの一環として映画の普及に協力し、自主上映も呼び掛けている。周子の父親・荘次郎を演じた俳優の榎木孝明さんに、インタビューした(聞き手編集部)。

 「周子の父親は重要な役割を果たした人。演じることができて嬉しかった」と語る榎木孝明さん。荘次郎は、尋常小学校の校長から村長となり、医師のいなかった大井沢に悲願の診療所を建て、周子を医師として呼び寄せた。しかし、患者はなかなか訪れない。「当時、日本の各地に同じ状況があったのではないでしょうか。自分も鹿児島の片田舎で育ったから、緊密な人間関係がある一方で、新しいものをなかなか受け入れない村の雰囲気は実感として分かります。その時代に医療の大切さを見抜いていた荘次郎も周子も、先見の明があったと思います」。
 映画では、周子が「何人も等しく医者にかかれる世の中が私の夢」と語るシーンがある。TPPの医療への影響なども議論される中、榎木さんが日本の医療制度について思うことは們「皆保険は価値ある制度だと思う。米国では貧困層と富裕層で受けられる医療が違うなどと聞くと、日本は恵まれていると感じます。皆保険を充実させ、お金のかかる最先端医療も皆が受けられるようになってほしい」

映画 「いしゃ先生」―現代とは違う家族愛の形

家族が今よりも親密だった時代

 無医村の大井沢に医師を呼ぶことが夢だった荘次郎は、東京で医師になったばかりの周子を電報で呼び出し、「3年だけお前の人生を俺にくれ」と頼みます。

 荘次郎は、東京でもっと学びたいという周子の気持ちを知りながら頭を下げます。周子はふるさとで医療の必要性をひしひしと感じていた父親の願いを理解しており、医学を学ばせてもらったからには応えなければと受け入れる。現代なら、親子が互いの生き方に干渉しないようにと考えるから、荘次郎はああいうことを頼めないと思うし、周子も受け入れないでしょう。二人は、家族が今よりも親密だった時代の父娘関係といえるのではないでしょうか。
演じる上でも、そうした時代の親子関係がかもし出す空気感のようなものを意識しました。映画から、今とは違う家族愛のあり方を感じてもらえたら素敵ですね。

父娘が葛藤を乗り越えて

 周子はふるさとでの診療を続けながら、恋人がおり、最先端の医療を学べる東京への思いで揺れ動きますね。

 周子の葛藤を平山さんは非常にうまく表現しています。その娘を見ている荘次郎も、娘に好きな男性と結婚させてやりたい、最先端の医療を学ばせてやりたい、一方で、周子がいなければふるさとの医療の担い手がいなくなってしまう、ものすごい葛藤を抱えているんです。

 そんな二人が戦後になってからお互いの思いを語り合う場面があります。

 私がとても好きなシーンです。父娘が二人、川べりを歩きながら、ぼそぼそとお互いの心情を話す。荘次郎は、周子にふるさとにとどまってもらうしかなかった現実を理解しながら、一方で娘の人生を犠牲にしてしまったかもしれないという後悔に近い思いを抱えている。そんな父親の気持ちを娘はわかっている。私は子どもが3人いて、思春期の娘とのコミュニケーションが難しかったりもするのですが、いつかあんな風にお互いを心から理解して語り合いたいと憧れます。

医師を「先生」と呼ぶ理由

 榎木さんにとって、医師とはどんな存在ですか。

 私は先生という言葉が好きでないのですが、教師と医者だけは先生と呼びます。自分の大切なものを託す人達だからです。医者にはそれだけ期待していて、医療技術の面でも人格的にも、尊敬できる存在であって欲しい。私の義理の兄が医者だったのですが、ネパールの無医村でボランティアをしたりしていて、本当に尊敬できる人でした。

映画「いしゃ先生」で、伝えたいことは。

医師というと、変わりゆく医療の進歩を追いかける姿が注目されがちだと思います。ですがこの映画で、地域で地道に住民の健康を守る医師の大切さに気付いてもらえたら嬉しいですね。

 

えのき・たかあき
1956年 1月 5日生まれ。鹿児島県伊佐市出身。武蔵野美術大学デザイン科に学ぶ。
劇団四季に入団し、81年に『オンディーヌ』で初主演。83年に劇団四季を退団し、84年NHK朝の連続テレビ小説『ロマンス』主演でテレビデビュー。
その後、俳優として、映画、テレビ、舞台で活躍。フジテレビ『浅見光彦』シリーズ(95年〜)、テレビ朝日系ドラマ『相棒14』、NHK大河ドラマ『篤姫』『八重の桜』『真田丸』他、映画『天と地と』『スクール・オブ・ナーシング』『セーラー服と機関銃〜卒業〜』などに出演。
旅を好み、アジア各地を中心に世界の風景を描き続ける。毎年、全国各地で個展を開催。