ホームニュースリリース・保団連の活動保団連の活動など 目次

 

良質な医療を良質な就労環境で
―第46回夏季セミナーを開催―

全国保険医新聞2016年7月15日号より)


夏季セミナーのもよう

 

 全国保険医団体連合会は、7月2、3日に第46回夏季セミナーを開催した。44の保険医協会・医会から385人が参加した。

医療人としての「力」つける―

 住江会長は開会あいさつで、「安倍政権の下ではあいかわらずサプライサイドの政策ばかりで国民生活は無視されている。その結果、企業は内部留保を溜め込んだが、国民には還元されず、実質賃金は下がり続けている」と批判。また、昨年9月に成立した安保法制は米国の世界戦略への参加が目的だが、愛する夫や孫が戦争に駆り出されるのは許せないというのが多くの国民の感情だろうと語った。さらに、こうした国民生活の破壊を許さないための取り組みは広がっており、われわれも医療人、国民として参加していく、その力をつけるための夏季セミナーにしようと呼び掛けた。
 1日目の全体会では、斉藤みち子副会長が基調提案し、中日新聞社代表取締役社長の小出宣昭氏が記念講演した。2日目の午前には、経済政策、平和・外交問題、医療のICT化、医療提供体制再編、歯科医療をテーマに5つの講座が開かれた。
 午後には「かかりつけ」機能をテーマにシンポジウムが行われた。コーディネーターに庄子育子氏(日経BP社医療局編集委員・日経ビジネス編集委員)、パネリストに岡田孝弘氏(オカダ外科医院院長・在宅医ネットよこはま代表)、佐々木勝忠氏(岩手県奥州市国保衣川歯科診療所)、高見国生氏(認知症の人と家族の会代表理事)を招き、活発な議論がされた。


 

基調提案する
斉藤副会長

斉藤副会長が基調提案

 基調提案で斉藤みち子副会長は、日本の医療者が置かれている過酷な労働実態を指摘。良質な医療を提供するためには医療現場の改善が必要と訴え、政府の進める医療従事者削減の方向性を許さない声を広げようと呼び掛けた。

日本の医療現場の過重労働

 斉藤氏は冒頭で4月に発生した熊本地震に触れ、入院機能が崩壊した病院からの重症患者受け入れや建物が損壊している中での診療再開などの医療関係者の献身的な活動を報告した。その上で、日常の医療サービスで既に日本の医療従事者は尋常でない過重労働下にあると指摘。開業女性医師・歯科医師の約3割が、開業後の産前休暇「ゼロ」と回答した保団連女性部によるアンケート調査の結果や、開業医の1カ月の平均労働時間が一般労働者の約1.5倍であることを示す2008年に保団連が実施した「開業医の経営・労働実態調査」などのデータを挙げた。

医療現場の改善が必要

 斉藤氏は、医療従事者の献身的な努力だけでは安心で良質な医療は実現できないと問題提起。医療事故や投薬ミスを防ぎ、国民の命を守るためには、日常化している医療現場の過重労働を改善し、医療関係者の良質な就労環境を維持することが必要と強調した。
 政府の「骨太の方針2016」では、医療費抑制策の一環として医師・歯科医師をはじめとする医療従事者削減の方向性が示された。厚労省の検討会では、医師需給は30年代半ばに均衡すると推計されている。斉藤氏は、医療従事者の削減は医師らの就労環境のさらなる悪化をもたらし医療崩壊につながるとし、厚労省の推計は実態を反映していないと批判した。

患者とともに 輝ける医療を

 「私の夢は、何人も等しく医者にかかれる世の中がくること…その日まで、故郷の村でがんばってみようと思います」。斉藤氏は最後に、映画「いしゃ先生」の主人公・志田周子の言葉を引いた。無医村で地域医療に生涯を捧げた志田周子は、国民皆保険が実現した翌年の1961年に亡くなった。
 斉藤氏は国民皆保険の内容を充実させたことで日本は世界一の長寿国となったが、その裏には多くの「いしゃ先生」のたゆまぬ努力があったと述べ、現在政府が進めている医療費抑制や医療従事者削減の方向性に対して、「医療崩壊をさせない」との声を広げ、患者・国民、医療者が輝ける医療・社会保障を共に目指していこうと呼び掛けた。

 


講演する小出中日新聞社社長

政治をチェック メディアの基本

中日新聞社社長 小出宣昭氏が記念講演

 夏季セミナーでは、中日新聞社代表取締役社長の小出宣昭氏が記念講演。長年の記者としての経験に基づきジャーナリズムのあり方、日本国憲法の評価、世界情勢の見方などを語った。

 中日新聞社発行の「東京新聞」は、雑誌「プレジデント」での外国人特派員による「日本のマスコミ信頼度ランキング」で第1位となった。小出氏は講演の最初にこの記事を紹介し、権力と距離をとって政治をチェックするのがメディアの基本中の基本と強調した。

「大手紙は腰が引けている」

 日本には新聞を規制する法律はなく、特定の勢力による独占を防ぐため、特例で新聞社の株は非公開とされている。新聞に対して憲法21条が保障する表現の自由を貫徹するための国家的保障が徹底しているといえる。小出氏は、最近の大手の新聞社はこの環境を生かしきれていない、政治をチェックする姿勢から腰が引けているのではと疑問を呈した。
 小出氏は、戦後の70年間の日本を、「ノーベル賞受賞者を26人も輩出するなど、素晴らしい文化国家を作ってきた」と評価。この時代を根底で支えてきたのが日本国憲法であり、戦後、軍国主義が消滅して共有する価値を失った日本人のバイブルのような役割を果たしてきたと語った。
 一方で、日本国憲法の「平和主義」は若干誤解されているとも指摘。過去の戦争を反省し、二度と戦争をしないという加害者としての平和論が盛り込まれているが、多くの人には理解されておらず、そのために戦後70年が経過しても中韓との関係がぎくしゃくしていると述べた。

危険な"本音の時代"

 今の世界情勢を小出氏は「『本音の時代』に入った」と表現した。米国大統領の有力候補のドナルド・トランプ氏の発言は、米国の人々がこれまで腹の中に押し込めてきた「有色人種の移民が俺たちの仕事を奪うのが嫌」という本音が表れたもの。英国のEU離脱は「もともとつながりの深かった英連邦や、英語が通じる米国とだけ仲良くしたい」という、英国の本音の表れだ。
 小出氏はこれを危険な動きと指摘。デモクラシーとは、生まれつき不平等な人間たちが、法の前では平等だというフィクションを共有し、その実現に向けて努力するものだが、本音の時代は、デモクラシーの否定につながりかねないと懸念を示した。

以上