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【原発問題学習交流会】安全確保が最優先
―柏崎刈羽原発で 米山隆一新潟県知事―

全国保険医新聞2017年5月5・15日号より)

 

 全国保険医団体連合会が4月16日に東京都内で開催した原発問題学習交流会で、新潟県知事の米山隆一氏が記念講演した。米山氏は、県内柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働が争点となった昨年10月の県知事選で、再稼働に慎重な立場を示して当選した。講演では参加した医師・歯科医師、市民ら200人を前に、「県民の安全が確保されない限り、再稼働はさせない」と強調した。

 

再稼働の必要ない

 米山氏は、福島第一原発事故の対応費用が50兆〜70兆円に上るとする民間シンクタンクの試算を紹介し、「いつ事故処理が終わるかもわからない。もう一度事故が起きれば、日本は財政上も人手の面でも対応不可能になってしまう」と訴えた。
 また、原発が停止していることで生じるとされる経済的な損失について、県内の農業や製造業の活性化で補完できるとの見方を示し、「再稼働しなくても代償することは可能」とした。

 

「権限ない」では困る

 九州電力川内原発1号機の再稼働を容認した鹿児島県知事が、「私に再稼働させるかどうかの権限はない」と述べたことに触れ、「『権限がない』ということでは困る」「法的にも知事には住民の安全を守る義務がある」と指摘。「県、立地自治体、東電の間で結ぶ協定を根拠に、住民の安全が確保されなければ運転停止を求められる」と話した。
 そのうえで米山氏は、@福島原発事故の原因A健康と生活への影響B安全な避難方法―の検証を県で進め、安全が確保されない限り再稼働は認めないと説明した。
 福島協会理事長の松本純氏、新潟医会会長の高畑輿四夫氏が、再稼働を迫る政治的圧力や知事選の工夫に関して発言。「首都圏反原発連合」のミサオ・レッドウルフ氏は、脱原発を望む市民にとって米山氏は「大きな希望の星になっている」と話した。

 

米山隆一・新潟県知事 講演要旨

 

よねやま・りゅういち

新潟県知事、医師、弁護士。1992年東京大学医学部卒業。2000年東京大学大学院医学系研究科単位取得退学。1999年独立行政法人放射線医学総合研究所勤務。2003年ハーバード大学付属マサチューセッツ総合病院研究員。同年医学博士号取得。2005年東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師兼務。1997年司法試験合格

税収超える事故対応費用

 私は、実はもともと福島の原発事故以後も、原発再稼働してもいいのではないかと考えていました。日本は技術があるのだし、あんなに安全と言っていたのだから、福島第一原発も3年や5年で何らかの処理ができると思っていました。
 しかし、事故から6年が経ち、対応費用を国は当初10兆円と見積もったのが20兆円に増え、このほど民間シンクタンク「日本経済研究センター」が総額50兆〜70兆円に上るとの試算結果をまとめました。日本の1年の予算は100兆円程で、税収が約50兆円です。50兆〜70兆円というのは、1年間分の税収を全部使うということです。
 一方、事故の収束については、もはやいつ処理が終わるか分からないというのが現状でしょう。こういう状況で、もう一度事故が起きると、日本は財政上も、人手の面でもまったく対応不可能になってしまいます。
 そういう理由で、私は「きちんと検証しなければ再稼働はできない」という話をしています。こう言いますと、「日本の電力、経済はどうなるのか」と言われる方が多いのですが、電力は今後とも原発なしで十分供給できます。
 日本の電力発電量は原発の停止前から低下しています。その一番の理由は、電力消費量の割合が大きい照明がLEDに取って代わられるなど、省エネ技術が非常に発達したことです。その上今後の人口減少もありますから、電力需要は今後とも減少が見込まれており、発電能力に対して需要の方が小さいので、原発を動かさなくても電力が足りないという事態はまず生じないのです。
 ではなぜ東電が原発再稼働に躍起になるのか。柏崎刈羽原発は、稼働していなくても施設の維持に大体年間1000億円くらいかかります。再稼働しなければ維持管理のコストが回収できず、赤字も脱却できないということですね。
 柏崎刈羽原発は非常に地域経済への貢献が大きいという話も聞かれます。稼働すれば1600億円分の利益を生み出すと。しかし、1600億円というと新潟県の農業分野で得られる売り上げの約60%ほどで、製造業分野の約10%です。農業や製造業が活性化すれば柏崎刈羽原発を再稼働しなくても代償することは可能です。

 

再稼働を判断する権限はあるか

 私としては、福島原発事故を検証し安全性などの確認をする前に、再稼働について話をすることはできないと考えるのですが、これが大問題なわけです。同じ原発立地県、鹿児島の三反園訓(みたぞのさとし)知事が「再稼働させるかどうかの権限はない」と言ってしまったが、そういうことでは困ってしまいます。
 新潟県と立地周辺自治体と東電は、周辺地域の安全確保に関する協定書を作成しています。この協定書の第10条では、発電所の運転、保守および管理の状況等について、特に必要と認めた場合に、県と自治体は発電所への立ち入り調査を行うことができるとされています。第14条では立ち入り調査等で問題があると認めたとき、県や自治体は国を通じて東電に原子炉の運転停止を含む適切な措置を講ずることを求めるとしています。ただし、特に必要と認めたときは、直接東電にそれを求めるとされています。
 つまり、安全ではないと分かったら、運転を停止してくださいと直接言えると書いてあり、それぞれの押印もあります。これを権限と言わずして何というのでしょうか。
 協定を拘束力のない「紳士協定」だという見解もありますが、これには反対です。有名な法律専門雑誌『ジュリスト』(1975年2月1日号)に掲載された「原子力発電所の安全協定」という論文でも筆者はこの協定を公法上の契約としています。

 

新潟県が進める3つの検証

 新潟県では福島原発事故の原因や影響に関する3つの検証を進めています。検証総括委員会の下に、事故原因を検証する「技術委員会」、健康と生活への影響を検証する「健康・生活委員会」、安全な避難方法を検証する「避難委員会」を置きます。
 事故原因や再稼働に向けた検証は原子力規制委員会が行うのだから必要ないという意見もありますが、ダブルチェックが必要だと考えています。
 県知事には法的にも県民の安全を確保する義務があります。その上で、一番重要なのは避難委員会です。原発事故時の避難計画は安全のベースであり、知事が作成するものです。
 安全な避難計画を立てるには技術的な問題が前提になります。事故の原因とプロセスを明らかにしなければ、どの時点でどういう風に逃げればいいかがわからない。その上で、万一の事故で格納容器ベント(※)や水素爆発が起こった際、生活や健康にどのような影響があるのか、こうした問題を机上の空論ではなく、福島原発事故の実測に基づいてシミュレーションしなければなりません。
 これらの科学的な根拠に基づく避難計画を立てて訓練する、避難訓練をまた検証する、そういう作業を2〜3回やって初めて安全と言えるわけです。避難訓練をするには準備に1年は必要なので、少なくとも3年はかかるでしょう。

 

最後は県知事として判断

 私は医師でもありますし、プライドを持って科学者でもあると思っています。科学と事実に基づく議論をすべきだと思っています。各委員会で科学的な議論を活発にしてもらって、検証総括委員会では、政治的な決断が必要になる最後の決定を行うことになります。最終的に結論を出すのは政治家だと思っているので、私が県知事として結論を出すことを想定しています。
 原発推進派の人からは時間稼ぎをしているとよく言われますが、福島原発事故が起こってから6年間もこれをちゃんとやってこなかったことの方が問題です。今やっていることは遅きに失しているくらいの話だと思います。
 私は安全確保に関する検証がきちんと終わらない限り再稼動は認められないという立場を堅持して、県政を運営してまいります。

※格納容器の破損等を避けるため、放射性物質を含む気体の一部を外部に排出させて圧力を下げる緊急措置

■参加者の声■

新潟県保険医会 大西洋司

 初めて、米山県知事の講演を聞いた。演題は「福島原発事故から6年―原発立地県の知事として、医師として、弁護士として」だった。
 講演では、新潟県、柏崎市、刈羽村と東電が交わしている柏崎刈羽原子力発電所周辺地域の安全確保に関する協定書で、(1)新潟県は柏崎刈羽原発に対し、立ち入り検査ができること、(2)その結果、安全が確保されないと認めた時は、国を通じて、東電に対し、再稼働を拒否できることを法律的に明らかにされた。弁護士でもあるため法律の世界を、分かりやすく説得力を持って話された。「『再稼働に対する慎重路線の継続』の訴えが、知事選の勝因」と語られたことが印象に残った。現在の再稼働に慎重な政策を続けてもらうには、県民の働き掛けが大切だと思った。

 

東京保険医協会 佐藤一樹

 私とは医療事故訴訟や安全関連学会で既知の米山隆一医師弁護士は対田中真紀子氏らとの国選で4連敗。原発再稼働容認の立場から翻って知事を勝ち取った。立場転換の理由は、10兆円10年と推測された福島原発処理費用が、現在では50兆ないし税収の倍にあたる100兆円、返済は100年と再評価され、あと1回の事故で日本は完全破産し、世界中の信頼を失うからというクールなもの。県と東電の安全協定等を法的根拠に、知事権限で原発再稼働を判断すると表明。原発電力供給量はLED普及などによる電力需要低下で補える程度であり、ウランも100年ほどで枯渇すること、天然ガスの発電効率向上によって近い将来、京都議定書が求めるCO2排出基準もクリアできるなど、公的資料を用いて論理的に詳説した。

以上