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核兵器の非人道性 医療者の訴え重要
―ノーベル平和賞受賞記念インタビュー―

 

全国保険医新聞2017年12月5日号より)

 

 

川崎 哲 氏

 今年のノーベル平和賞は、核兵器廃絶国際キャンペーン「ICAN」が受賞した。7月に成立した核兵器禁止条約に向けた取り組みが評価された。保団連が事務局団体を務める反核医師の会は、ICANの設立当初から参加するとともに取り組みを日本に紹介し、共に核兵器廃絶に向けた運動を展開してきた。ICAN国際運営委員の川崎哲(あきら)氏に、反核医師の会共同代表の飯田哲夫氏(保団連副会長)が、核廃絶運動の中での医療者の役割、今後の核廃絶に向けたビジョンなどを聞いた(日本でICANの普及に尽力した松井和夫氏の寄稿、ICAN設立の中心メンバーのティルマン・ラフ氏のメッセージなども下部に掲載)。

 

聞き手 飯田哲夫 保団連副会長

飯田 ICANのノーベル平和賞受賞は、共に活動してきた反核医師の会としても非常にうれしく思っています。

川崎 ICANは、核廃絶運動に取り組む世界中のNGOの連合体です。条約によって核兵器を禁止し、廃絶する。この1点で一致した101カ国の468団体が参加しています。
 賞を選考する委員会には、核兵器の非人道性を訴え続けてきたことと、条約という枠組みを提起したという2点を評価していただきました。

飯田 ICANでは、発足時から医師や歯科医師が重要な役割を果たしてきました。

川崎 ICANは、2007年にIPPNW(核戦争防止国際医師会議)の中から生まれ、反核医師の会はかなり早い時期から参加していました。JPPNW(IPPNW日本支部)も参加しています。

飯田 JPPNW代表支部長でもある日本医師会の横倉義武会長は、11月の反核医師の会主催のつどいへ、医師の立場から核兵器の悲劇を発信し続ける義務があるとするメッセージを寄せていただきました。

川崎 命と健康に関する問題に日々取り組んでいる医療者の皆さんが核兵器の非人道性を訴えれば、運動の大きな力になります。政治勢力や国家が同じことを言っても、必ず対抗する勢力があるので議論が行き詰まってしまうのです。
 政治的なことは抜きにして人道的観点から核兵器は廃絶しかないのだ、と訴え核廃絶運動の先頭に立つ医療者の役割は、非常に重要です。

 

日本政府に条約の批准を迫る

飯田 今のところ、核保有国や核の傘の下にいる国々が核兵器禁止条約に署名する動きはありません。

川崎 核の傘の下にある国のうち、特に核廃絶を求める世論が政府に影響を及ぼし得る国、たとえばNATO加盟国だが人道主義や平和主義の強いノルウェーや、国際的にみても反核団体の多い日本のような国で活動を活性化させ、政府に条約の批准を迫っていきたいと思っています。
 日本政府は「核兵器保有国と非保有国の橋渡しをする」として条約に反対しています。唯一の戦争被爆国なのだから、単なる「橋渡し」ではなく、核廃絶の先頭に立つべきです。政府関係者と話すと、彼らは、いざとなったら米国の核兵器で北朝鮮の脅威から日本を守ってもらおうと考えているように感じます。

 

核抑止論は「安全神話」

飯田 北朝鮮によるミサイル発射や核開発は絶対に許せません。しかし、北朝鮮の脅威に米国の核で対抗しようとする核抑止論も間違っていると思います。
川崎 核兵器は、使用されなくても事故やヒューマンエラーで発射、爆発してしまう可能性があり、放射能は海を越えて拡散します。核抑止論は、こんな危険な兵器による軍拡競争につながり、突き詰めればすべての国が核兵器を持たなければ危険ということになってしまう議論です。
 また核兵器では、テロの脅威に対応できません。米国は「9.11」のテロが起こった当時、1万発の核兵器を持っていました。それでも自分の命を捨てることを辞さないテロリストが飛行機に乗り込めば、国家に大変な打撃を与えられます。
 核抑止論は安全神話に似ていて、信じていれば心地よいですが、その根拠は薄弱です。

飯田 12月10日のノーベル平和賞授賞式には、どのように臨みますか。

川崎 被爆者と共に授賞式に参加します。被爆国の人々の思いを背負っていくという、非常に重い責任を感じています。
 授賞式をテレビなど中継で見る世界中の人々に核兵器の問題をあらためて知ってもらい、さらに運動を広げたい。授賞式が新たなスタートです。

 


ICANノーベル賞受賞は誇り
反核医師の会 国内の運動普及に尽力

 

 保団連が事務局団体を務める反核医師の会は、ノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)に参加し、日本での運動を広めるために尽力してきた。2007年のICAN立ち上げ直後に、設立の中心になったティルマン・ラフ医師を日本に招いた反核医師の会常任世話人(当時)の松井和夫氏に、反核医師の会が果たしてきた役割を紹介してもらった。

 

 反核医師の会は、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)パートナーとして多くの役割を果たしてきた。ICANリーフレット日本語版作成の後援、講演会の開催、核廃絶NGO連絡会への参加、外務省への要請、ニュースを通した会員への啓発などである。ICANのノーベル平和賞受賞を喜ぶとともに、反核医師の会がパートナーとしてICANに初期から積極的に協力してきたことを誇りに思う。

 

07年にICAN設立者を招聘

 2006年、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のメーリングリストでは07年4月立ち上げ予定のICANが話題となっていた。しかし、画期的な企画だろうとは理解できても、今までのIPPNW運動との違いや組織的にどういうものか、全く分からなかった。
 07年、反核医師の会は設立20周年ということで海外から記念総会の講演者を招聘することになった。
 今後の反核医師の会とIPPNWの関係を考えると、これからのIPPNWを担いかつICANに詳しい方を招きたかった。そこでアシュフォード元IPPNW会長に相談したところ、推薦されたのが医師でICAN設立の中心人物であるティルマン・ラフ氏(現IPPNW共同代表)であった。ティルマン氏には京都での反核医師の会総会(9月23日)で「核は廃絶できる」という題でICANを中心に講演いただいた。京都以外にも和歌山など全国各地でもICANについて講演していただいた。
 反核医師の会はICAN設立直後に、設立のキーパーソンから直接キャンペーンの詳細を聞く機会を持つことができたのである。それがきっかけで反核医師の会はICANに賛同し、それ以来パートナーとして前記のような協力をしてきた。

 

核禁条約参加へ 政府に働き掛けを

 ラフ氏からICANの話を聞き、感銘を受け核廃絶はできると確信を強めた方が大多数だと思うが、10年後に本当に核禁止条約が実現するとは思ってもみなかった。うれしい限りである。私たちがICANに賛同し協力してきた背景には彼の人柄によるところも大きいと思う。温厚で謙虚、それでいて核廃絶や原発問題に関しては一切妥協せず全力で取り組む姿勢は敬服に値する。
 条約が実現したことは大きな前進であるが、核保有国や日本を含む核依存国はすべて条約に反対しており、「核のない世界」実現はまだまだ前途多難である。
 今、ICANがノーベル平和賞を受賞し核廃絶が大きな関心を集めている。禁止条約を事実上の国際的規範にするためには、もっと多くの国の条約参加が必要だ。そして、国内では、日本政府に禁止条約への参加を働き掛けること、北東アジア非核地帯の実現を目指すことなどが重要である。この好機を生かそうではないか。医師としてできることはたくさんある。

(非核平和部員・反核医師の会世話人 松井和夫)

 


日本に厳しい国際世論 核禁条約不参加で

 

 7月に成立した核兵器禁止条約に、日本は、「核保有国と非保有国の『橋渡し』の役割を果たす」として参加していない。
 ICANのノーベル平和賞受賞も契機となって、世界各国が核廃絶に向けて前進しようとする中、唯一の戦争被爆国である日本の後ろ向きの姿勢が顕著になっている。
 日本は1994年以後、毎年国連で核廃絶決議を提案している。今年はその内容に少なくない国から批判が表明された。決議案が核兵器禁止条約に言及せず、核兵器の非人道性を巡る表現が弱まるなど核軍縮の国際的到達点から大きく後退したためだ。10月28日に採択されたものの、昨年より賛成票が減り(23票減)、棄権が増えて(10票)、日本に対する国際世論の厳しさが露になった。
 日本政府の姿勢は「橋渡し」どころか、核廃絶に向けた国際社会の結束を分断するものでしかない。核兵器禁止条約に参加することで、「橋渡し」の役割を果たすべきだ。

 


核廃絶に向けさらに連帯を

ICAN設立メンバー
核戦争防止国際医師会議共同代表

ティルマン・ラフ氏

 

 

 2007年にICAN設立の中心メンバーの一人となり、現在、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)共同代表のティルマン・ラフ氏(写真)が、11月に開催された反核医師の会のつどいに寄せたビデオメッセージの一部を紹介する。

 

ティルマン・ラフ氏

 私は過去10年余にわたって反核医師の会のご招待により、日本での多くの会議に参加し、日本の同胞の方々とお会いし、意見交換する機会に恵まれました。その際に、反核医師の会が、核による暴力と無差別の放射能汚染のない、健康で自由で安全な未来を求めて、常に力強く、真摯に活動していることに、深い感銘を受けました。

 先ごろ歴史上極めて重要な大きな進展がありました。国際法として包括的に核兵器を禁止する条約を、私たちは初めて手に入れたのです。核兵器は、人道的見地から決して受け入れられないことを成文化したこの条約が発効すれば、核兵器の保有、開発、使用、配備、威嚇としての使用、そしてこれらの活動への支援はすべて、この国際法の禁じるところとなります。

 この核兵器禁止条約こそが、世界の健康と民主主義という、人類共通の理想に対する新たな、強力な主張となります。その交渉において、無条件の核廃絶を求めて大きな役割を果たしたのが世界の市民社会でした。条約の発効後も、核兵器の速やかな廃絶に向けて、市民社会はその役割を果たし続けるでしょう。

 皆さん方の日本における運動は、被爆者と核実験被害者の声を届けるという、重要な役割を果たしてこられました。核の生き証人である彼らの語るストーリーは、頭ではなく心でこの問題に向き合うよう、力強く人々に語りかけます。核は、抽象化された地政学の巨大なチェス盤上の小さな駒ではなく、無差別に人々を傷つける歴史上最悪の破壊者であることを訴えます。この世界に核の居場所はありません。

 核兵器廃絶という最も緊急の使命達成に向けて、また、無差別の放射能による暴力という脅威をこの地球上からなくすために、皆さん方と今まで以上に連帯することを希望します。

以上