第32回全国保険医写真展 入賞・入選作品評

写真家・小松健一氏(全国保険医写真展審査員長)による講評
☆会長賞 
「今日も耕す」 鈴江 純史 (徳島協会)

 撮影場所は徳島県の山間部。小さな段々畑を耕しながら、一生懸命生きているということがお母さんの表情から伝わってくる。曲がった指先、手や顔の一筋一筋の皺からも農業の厳しさを感じることができる。やせた土地で育てている「みょうが」も見え、土地柄の環境も分かる。曼殊沙華の花が畑の隅に一輪だけ咲いていることを作者は見逃さず、お母さんに花を添えるように撮っている。畑が斜めに走る画面構成のバランスも良い。心にしみる会長賞にふさわしい作品である。

☆審査委員長賞 
「また走れたよ!夏の阿蘇谷」 濵武 諭 (熊本協会)

 絵画のように見えるメルヘン的な作品。流し撮りがうまくいっている。広々とした草原や一面菜の花畑のような黄色の絨毯の感じも美しい。そこに真っ赤な2両編成の電車がたまたま通過した、絶妙なバランスで撮影している。シャッターチャンスが良い。電車を左側3分の2の場所で撮っており絶妙の位置だ。これは中心でも右側でもだめで、この位置だからこそ、動きのある作品になっている。「撮り鉄」の中でも素晴らしい作品だと思う。

☆特選 
「雪中訪問」 板橋 幹城 (奈良協会)

 雪深い京都の嵐山で撮影している。左側の山中に社のようなものが見える。大雪が降りやんだ朝という感じだ。寒いので雪が木や枝についたままになっている嵐山の山深い雰囲気を表現している。そうした時に赴いて撮った作者の努力が大事だ。船下りが有名な保津川もきちんと入れて撮っているところも良い。風景写真だが単なるネイチャー写真でなく、人々の営みや文化、歴史のようなものを感じさせる。人間との関わりのある風景写真として撮ったことが特選に選ばれた要因である。

☆特選 
「生きる」 藤野 佳世 (徳島協会) 

 サギのような大きな1羽の鳥が瞬間的に魚を口にくわえている瞬間を撮った。背景は暗くつぶれているので、暗闇の中から浮き上がるように鳥が立っている姿を真正面から撮っている。インパクトがあり、なおかつフォトジェニックな写真に仕上がった。まるで鳥にスタジオでモデルになってもらったように仕上げているのがユニークだ。鳥類の写真は、動いていたり、枝にとまっていたりするものが多く、こうした鳥の作品はあまり見ない。

☆特選 
「山里に朝が来た」 工藤 美千代 (徳島協会)

 老農夫が写っているが、会長賞とは対照的に、顔でなく石垣の畑の中の1つの典型として写している。作者は、先祖達が少しでも耕作面を広げようと、山肌を耕しながら石垣を組み築き上げてきた歴史に感動し、そこに的を絞って撮った所が成功した。朝の陽ざしを上手く捉えており、左上に家がちらっと見えるところも良い。こうした場所が年々少なくなってきており、祖先たちが生きてきた記録として残すことは大事だと思う。作者の思いに深く共感した。

☆入選 
「パノラマビュー・オープンエアー」 渡辺 吉明(東京歯科協会)

 渋谷のスクランブルスクエアの展望台から撮影したという。多くの人が写っているが皆それぞれバラバラで、写真を撮っている人もいれば、恋人と話をしている人などもいる。それがまるで宙にいるような感じで、ガラスの塀がほとんどみえず向こう側に落ちるのではないかという不安を感じさせる。望遠で引っ張って撮っているので、人々や街も近く、富士山も近くにあるように見えるので不思議な光景だ。都会の中でもこういう一隅があるのだという面白いモチーフを発見した写真だと思う。

☆入選 
「降りしきる雪」 坂野 昭八 (岐阜協会) 

 奥飛騨の雪深い郡上八幡の吹雪の中を、向こうから列車がくる。前照灯しか見えないような猛吹雪の中に、たまたま左側の山の中から、1つの鳥影が飛び出してきた瞬間を捉えている。雪の中の列車の写真を撮ろうと思っていたところに鳥が飛び込んできた、その絶妙なシャッターチャンス、なかなか出会えない瞬間をよく押さえた。悪条件の天候で画面が少し荒れているが、それをも超えた迫力がこの作品にはある。

☆入選 
「仲良し」 中澤 仁 (愛知協会)

 岐阜県飛騨市上岡町で鉱山の廃線利用の施設。レールの上を走る自転車に恋人たちが二人で乗っている。手前のトンネルの空間をうまく取り入れている。秋が深まり、紅葉も落ち切り、裸木になっているが、それが良かったのだろう。良い時季を撮った。「仲良し」という感じがよく出ている。男性が下を向いてしまっているが、二人が手を繋ぐ、あるいは顔を見合わせている瞬間などが撮れればもう少し上位にいった可能性もある。

☆入選 
「桜花と石仏」(2枚組) 前田 利信 (大阪協会)

 片方は散りゆく桜とお地蔵様たちを撮っている。もう一方は満開の桜の中に大仏がいる2枚を組み写真にしている所がみそだ。どんなに満開に優雅に花開いても、やがては散り、土にかえるという仏教の教えを2枚で表すことを狙ったところが良い。作者は、平家物語の「驕れる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし…」という無常観を感じ取り、2枚の写真で表したのではないかと思う。

☆入選 
「揺れる」 西内 健 (徳島協会)

 徳島の有名な「祖谷のかずら橋」である。自生の蔓で作った吊り橋で観光地としても最近有名になっている。周りの紅葉が燃えるように美しく、女性たちがこわごわと渡ってくるところを撮っている。こうした遠い昔からの祖先たちの暮らしや文化を継承していることに眼を向けて撮ったことが、この作品のポイントだと思う。

☆入選 
「着地-ウルトラC」 原国 政裕 (沖縄協会) 

 僕の子どもの頃はみたことがないような面白い滑り台だ。滑り落ちた瞬間に子どもがひっくり返り頭から地面について足を広げた瞬間が面白く撮れている。次の子が階段を上がっている。子どもは楽しがり何度でも滑る。一発でこうした瞬間は撮れないと思うので、おそらく滑り台の前で、子どもが滑り台から降りてきて色々な形で飛び出してくる瞬間をねばり強く狙っていたからこそ、「ウルトラC」の瞬間が撮れたのだと思う。努力賞である。
WEB写真展入場
WEB写真展について
受賞作一覧
WEB写真展について
  • 会長賞
  • 審査委員長賞
  • 特選
  • 入選
Copyright © Hodanren All rights Reserved.