世界から見た日本のジェンダー平等
●安倍政権は「女性が輝く社会」を目標に掲げ、企業における女性の登用、子育て支援、ODA要綱などにおいて、一定の政策が進んだ。しかしながら、国際比較を見ると、日本の男女間の格差は非常に大きく、先進国では最悪の状況となっている。国連女性差別撤廃委員会は日本に対し、最重要課題として、民法(家族法)の改正とポジティブ・アクションの導入を勧告している。さらに、世界共通の課題として「女性に対する暴力」の廃絶があり、取組みを加速することが求められている。
林 陽子
女性医師は両立意識から脱却してキャリア形成を
●女性医師支援というと、短時間勤務、復職支援、育児支援が主たる事業として挙げられる。状況次第で必要ではあるが、医師というプロフェッションを育成する上で、これだけで良いのかは常に問う必要がある。女性の社会的役割意識を前提としたこれらの支援事業には、新しい時代を築く視点がない。医師として生きることを選択した以上、その選択を中心に自らの時間を自らの責任でどう使っていくかの工夫と覚悟が新しい貢献の仕方を創り出すのではないだろうか。
桃井眞里子
対談 女性が活躍する医療に向けて
─すべての医師・歯科医師の問題として議論を
● 医師・歯科医師における女性の割合は年々高まり、医学部生の3割以上、歯学部生の4割以上が女性となっているが、全体としてはOECD 諸国中最低レベルであり、他の職種同様に、出産・育児・介護等で仕事を辞めるケースが多くみられるこの問題に全国保険医団体連合会としてどう向き合っていくべきか。住江憲勇会長、板井八重子・女性部部長の両氏に聞いた。(聞き手:出版部)
住江憲勇 × 板井八重子
女性医師が働き続けられる職場の実践と課題
●男女雇用機会均等法施行から間もなく30年。現在は女性医学部生が3割、女性医師が半分を占める職場もある。女性が結婚・出産を断念し、男性の3倍頑張らなくとも働き続けられる職場、単身者の荷重負担で成り立つ「子育て女性の支援」でもなく、女性のキャリア中断を前提としたリワークでもない職場とは、実際にどのような取り組みを行っているのだろうか――。取材先探しは、パイオニア探しだった。男女ともにキャリアとワークライフバランスを大切にした、医師の働き方の次世代モデルの事例を紹介する。
中村 純
官邸発「女性が輝く社会」はホンモノか
─欠落する標準労働者像の転換
● 「女性が輝く社会」をうたったアベノミクスの女性活躍政策が話題になって久しい。少子化による労働力不足と、グローバル化の中での男性雇用の不安定化によって、女性が働ける仕組みなしでは日本社会も立ち行かなくなりつつある。そうした事実に政府がようやく気づいた、ということだろうか。だが、官邸が繰り出す一連の「女性が輝く」政策は、本当に女性を輝かせるのか。そこに欠けているのは、女性医療従事者をも悩ませている「標準労働者像=妻がいる男性」の働き方を転換させていく視点だ。
竹信三恵子
孤独死の現状とその対策
◆自宅で誰にも看取られずに数日間その死が発見されない通称、「孤独死(「孤立死」)」と言われる事例が、年間約3万人にのぼるとされている。
◆人が最期を迎える場所としては、病院や施設が8 割以上を占めるものの、自宅で亡くなる人も一定数存在し、その死が発見されるまで1カ月以上も要するケースは少なくない。
◆独居高齢者が増える中、孤独死の数は増えていくと予測され、早期発見・早期対応を迫られる中、地域の見守り活動の促進、公衆衛生学的なアプローチなどが求められる。
結城康博
一般外来に必要な精神医学(上)
●うつ病など多数の精神疾患が、一般外来を初診し、抗不安薬や抗うつ薬の使用により治療が行われている。診療科に関わらず、初診時の診断と対処が、患者の予後を左右するため、一般外来が精神科医療に果たす役割は大きい。
●精神疾患の診断について、近年汎用されている操作診断と精神科において旧来用いられてきた精神疾患の伝統的病因分類について対置し、事例とともに、心因性、内因性、外因性の病因に分類する意義について述べた。
郭 哲次
小児歯科医療の勘どころ
─みんなで考えよう子どもたちの口の健康─
第5回 根管治療、口腔外科、予防の実際
●今回は、根管治療、口腔外科、予防などの歯科臨床の実際について述べる。教科書ではないので、小児歯科からの視点で注意すべき点やヒントなどを中心に記述する。また、過日であるが、東京歯科保険医協会の学術研究会で同テーマについて講演をした際に、一般開業医が小児の歯科治療でよく悩む点について頂いた質問にお答えしたが、それをもとに選択して記述する。
丸山進一郎
(新)音に道をたずねながら歩く
第1回 オーネット・コールマン 黒人ビートの彷徨
■ 「音に道をたずねながら歩く」というのは、耳慣れない言い方だと思う。「道をたずねながら、我々は歩く」という、メキシコ南部で生きる先住民たちのメッセージから浮かんだ言葉である。21年前、貧しく押し込められたインディオたちが「サパティスタ民族解放軍」として立ち上がった。この寸言は、混沌としたこの世界をどう変えていくか─その来るべき姿や方法を共に探しながら歩もう、と世界中に呼びかけた一節である。先住民たちには「道」という言い方が土に染み入るように響くという。
■ ある時代を音楽と共に過ごした人たちは、その音感が今も体の中で疼いている。それぞれが「音に道をたずねながら歩いた」日々の記憶を心に秘めているはずだ。サパティスタや私たちの旅も、そして音楽の放浪も終わることはない。だらかもう一度、音たちに道をたずねてみたい。別の世界へ向かう獣道の歩み方を音楽に聴いてみたいと思うのである。
平井 玄