2016・No.1223
月刊保団連 9
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「道」
立憲主義─政治を憲法に従わせて自由を守る
青井未帆
特集
「終末期医療の国民的議論」に向けて
「安楽死・尊厳死」をめぐる言説の歴史的・社会的背景

● 自分らしく、人間らしく、尊厳ある最期を迎えたい――誰もがもつ素朴な願い。重度障害者は安楽死させるべき――大量殺害事件の容疑者が動機としたと報じられる言葉。両者をつなぐ「安楽死・尊厳死」論の歴史的・社会的背景をたどると、人間の価値をその生産性ではかり、生産性の低い生命の人為的終結の法的・倫理的な正当化を試みてきた史実に行きあたる。そこには権利と義務の錯綜があり、その実務を担うのは医療従事者である。私たちは、いま、どこへ行こうとしているのか歴史から学びたい。

大谷いづみ
ケアの資源配分という難問に向けて
─英国での医療配給論をめぐって

●複雑なケアの必要に対応する体制づくりは資源配分の問題であるが、日本の医療制度ではそれは臨床に遇する医療専門職・機関に降りかかり、また隠れたものとして行われていく構図になっている。英国では、議会統制の予算のもとで資源配分が行われるので、継続的な検討課題として医療の配給が議論されてきた。そこでは選択というあからまさな様式だけでない多様な配給の様式が指摘されている。そうした医療配給論をその制度的特徴をみながら紹介し、日本への示唆を探った。

松田亮三
終末期医療にもエビデンスを
─意思決定・施策・鎮静について─
●終末期医療についても日本を含む世界各国で多くの実証研究が行われるようになっている。例えば、終末期の意思決定支援(アドバンスケアプランニング)が患者の将来に大きな影響を与えることがコホート研究や介入試験で明らかにされている。死亡直前期の耐え難い苦痛に対して実施されることがある苦痛緩和のための鎮静(セデーション)については、よい・よくないという視点からの議論もある一方で、鎮静が生命予後に影響を及ぼしていないということを実証研究が示している。施策については、終末期のパスであるLiverpool Care Pathwayを導入したものの結局は取りやめとなった英国の教訓を生かして、薬物開発と同じように臨床試験やコホート研究を実施して効果を確かめながら行うべきである。終末期医療のあり方を議論するのと同じくらいの情熱をもって、国内外に蓄積されたエビデンスを知っておく必要がある。
森田達也
高齢者における終末期医療
●高齢者の医療の特徴は、「手術はしないで」「入院はせず、在宅あるいは施設で可能な範囲で」「転院はせず入院中の病院で可能な範囲で」など、「限定医療」であることが多い。終末期医療は、その延長線上にある。リアルタイムの本人の意思が確認できないことが多く、その場合は家族の果たす役割が大きい。医療従事者は、高齢者医療の選択に際しては、家族が患者にとって最善の選択ができるように適切な情報を提供することに徹し、決定に際しては中立を守るべきである。
横内正利
がん患者の立場から考える終末期医療
●わが国では、がん対策推進基本計画における「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」や、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」などによる施策が進められてきたが、がん医療に関わる医療者、患者や家族の誤解、がん医療提供体制の問題などがあり、緩和ケアや終末期医療が十分に提供されてこなかった。加えて、医療費削減の観点から終末期医療や高齢者医療が論じられると、がん患者や家族の安易な切り捨てにつながりかねないと考える。
天野慎介
シリーズ
経営・税務誌上相談433
相続における宅地の評価方法
益子良一
雇用問題Q&A 177
試用期間中といえども解雇は簡単ではない
曽我 浩
診療研究
知って得する! 実地医科・歯科の薬剤情報
第1回 多剤処方の問題点と対処のありかた
●疾患ごとのガイドラインが整備され、標準的な治療・質の高い医療が等しく受けられるのは、日本が誇る国民皆保険と医学の研究・技術的進歩の賜物である。
●一方で高齢者は身体機能の衰えとともに、複数の疾患を抱えることが多く、疾患毎にガイドラインに則った治療薬を選択すると、薬の種類が膨大になってしまう。薬が増えるほど、有害事象や相互作用の確率も上昇し、その対応にまた薬が増える、という現象が稀ではなく見られる。
●このような現象を「ポリファーマシー」と呼んでおり、われわれはその是正に取り組んでいるが、処方医のみならず、他の医療職や患者に対しても、不要な薬の危険性と非経済性について、情報提供し理解を求める活動が必要である。
平井みどり
シリーズ 心電図の生き字引
診断の実際─ 10 ─
三原純司・関口守衛
文化
文学の中の「歯」にまつわる話(第2回)
中井 護
投稿
福島・子どもの甲状腺がんについて考える
金谷邦夫
会員
書評
『バーニー・サンダース自伝』
平田米里
本棚
文化・交流 各地の文化活動 ─26─
「男性の装いの基本」を学ぶ
保団連文化部長 山本晴章
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 川端一歩
VOICE
─7月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内