2018・No.1276
月刊保団連 9
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「道」
「第29 回反核医師のつどい in 長崎」開催にあたって
本田孝也
特集
子どもの口腔崩壊を防ぐために
歯を残すこと、失うことは何を意味するのか
 子どもの口腔崩壊から考える

●学校歯科検診の現場では、子どものう蝕が急激に減少する一方で、噛むことが困難な「口腔崩壊」の子どもが少なからず存在するという二極化の様相を呈することが報告された。歯の喪失は運動、学習能力の低下を招き、将来の健康を損なう要因になる。このような口腔の健康格差を生み出す構造的要因として貧困が存在する。う蝕の放置を自己責任に転嫁せず、社会的な対策を講じる必要がある。

足立了平
成長段階に応じて口腔機能を育てるために
 離乳準備期から幼児食期まで
●適切な口腔機能を身につけないと、口呼吸になったり、よく噛まないで食事をする癖がついてしまうなど、後々、健康を損なう要因になりかねない。ひと口に咀嚼といっても、歯、舌、頬、唇などの動きが複雑に絡みあっていると言われているが、この口腔機能を身につけるためには、離乳準備期から幼児食期までの間の各時期において、どのようなことを心がける必要があるか、一般臨床医が遭遇する場を想定してまとめてみた。
丸山進一郎
学校歯科治療調査の広がりと課題
●全国21の保険医協会・医会で学校歯科治療調査が行われ、2018年4月時点で、保団連はその調査結果を集計し「中間報告」としてまとめた。その結果、受診の指示を受けたにもかかわらず小学生52.1%、中学生66.6%、高校生84.1%、特別支援学校生55.6%が歯科未受診であることが明らかとなったほか、少なくない学校で口腔崩壊の児童・生徒の存在が確認された。本稿では中間報告の結果を紹介するとともに、未受診や口腔崩壊が起きる背景について考える。
賀来 進
口の健康への気付きを子どもたちにどう促すか
 学校健診を健康学習の場に

●国からの「学習指導要領」と全国学力テストのランク付けで翻弄(ほんろう)される学校は時間に追われて土曜授業も復活する現状にある。そのため健診も授業を“つぶさない”短時間の治療要否判定でとどまっている。しかし生徒にとって健診は自分の口の壊れや体の機能を視認し、体感して学ぶ絶好の機会で、自己の身体や尊厳を自覚する健康教育の場となる。教師も健診対象に巻き込むことで、自身の歯周病進行の気付きから教師が生徒に健康を訴えたとき、検出健診は学習健診へと進化する。

岩倉政城
子どもの歯科矯正を保険適用に

小尾直子
フッ化物洗口によるう蝕予防を改めて考える

●フッ化物洗口(以下FMR)の最大効果は、早期の開始年齢と長期の継続年数によって得られる。
●わが国における実績から、4歳より開始し中学生まで継続実施の場合、FMRによるう蝕予防効果は54〜77%と報告されている。
●FMR 終了後、う蝕予防や喪失歯の抑制に一定の恩恵が継続する。

小林清吾・ 田口千恵子・佐久間汐子・田浦勝彦
論考
水俣病に挑んだ石牟礼道子と2人の医師

─『苦海浄土』から考える全人的医療

◆今年2月10日、作家の石牟礼道子が亡くなった。水俣病が広く知られる契機となった石牟礼の小説『苦海浄土 わが水俣病』(1969年)は医師の協力で成り立っている。石牟礼は細川一医師から資料提供を受け、原田正純医師から医学用語を学ぶなど入念な準備・取材を重ねた。
◆刊行の頃、水俣病闘争が始まる。石牟礼がリードし渡辺京二が補佐した闘争は、患者(基層民)の側に立って近代を問う史上類のない闘争だった。闘争後も石牟礼と原田の「魂の対話」を求める交流は続いた。
米本浩二
性同一性障害への性別適合手術の保険適用の意義と今後の課題
◆2018年4月より、性自認(心の性)と身体の性(あるいは、それにより割り当てられた性)とが異なり悩む性同一性障害当事者への手術療法が保険適用となった。しかし、ホルモン療法は自費診療のため、多くの当事者の手術療法は、混合診療の観点から保険診療となっていない。また、診療拠点の不足から依然として、海外へ渡航して手術を受ける当事者も少なくない。安全で有効な診療を行うため、また、診療拠点を増加させるためGID(性同一性障害)学会は認定医制度を創設し研修セミナーを定期的に開催している。
中塚幹也
診療研究
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)をどう使いこなすか

第1回 適応、慎重投与・禁忌、減量基準を熟知する

●非弁膜症性心房細動(NVAF)患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症予防の適応を取った直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が4剤登場して大変便利になったが、固定用量でモニタリングできないため、各薬剤の禁忌、慎重投与、減量基準を熟知した上で有効活用する必要がある。急性期治療を行いながら再発予防を行っている脳卒中を専門とする神経内科医(stroke neurologist)の立場からDOACについて3回に渡って解説する。
橋本洋一郎
子どもたちの発達と口腔
インクルーシブ診療を目指して(3)
●機能矯正の術前術中で、口呼吸の有無や睡眠時の状態などの症状、および口腔・咽頭部の形態などがどのように変化・改善したかを検討した。
●指吸や歯ぎしり、睡眠、弄舌は6〜9割が改善し、口呼吸、姿勢の改善は5割ほどだったが、授業中に落ち着いて話を聞けた、夜尿がなくなった等の報告が多く寄せられた。機能矯正により、歯並びだけでなく、睡眠障害をはじめ様々な症状を改善させ、子どもの発達にもアプローチできる可能性がある
北村義久
文化
神楽 ─「祭り」に見る祈りと世界観
第2回 混在する古い芸能と神事の痕跡
■全国各地で多様な姿で伝承されてきた地域の祭りに「神楽」がある。そこには、日本列島で生きてきた人々が、五穀豊穣を祈り喜び、自然災害や疫病などに翻弄されてきた中で形づくられた世界観が現れている。今回は民間で行われる里神楽を「巫女神楽」「採物神楽」「湯立神楽」「獅子神楽」の4つに分類。大陸からもたらされ、この列島で盛んに演じられてきた古い芸能や神事の痕跡を探る。さまざまな要素が渾然一体となって演じられる神楽には、豊穣な歴史の記憶が刻まれているのだ。
三上敏視
まなざしの力
第9回 大田昌秀(2) 本土への問い

渡辺 考
シリーズ
経営・税務誌上相談 457
税務代理権限証書
益子良一
雇用問題Q&A 201
働き方法成立後、中小医療機関はどんな対応が必要か
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 植竹団扇
書評
本田宏著『Dr. 本田の社会保障切り捨て日本への処方せん』
仲里尚實
VOICE
─7月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内