インタビュー
日常診療における介護者支援と高齢者虐待防止
高齢者虐待の防止に向けて、私たち医師・歯科医師が日々の臨床においてできることは何だろうか。虐待につながりやすい認知症の専門科に限らず、さまざまな診療科の主治医やかかりつけ医として、介護者の支援にかかわることの重要性や、考慮すべき点について、大阪市で「ものわすれクリニック」を開業する精神科医の松本一生先生に聞いた。 (聞き手=出版部長 宇都宮健弘)
松本一生さん
孤立する介護家族の苦悩
●在宅、施設を問わずさまざまな介護の現場を歩き、介護される者や家族の苦悩に触れてきた。とくに老親と同居する元「独身貴族」たちの介護体験は、介護のもつ特異な面が顕著に表れているようだった。一方、自らにも「介護」が降りかかってくる。
●介護は突然やって来る。そのことを肌身で感じつつ、いま一度在宅における介護について考えてみたい。
山村基毅
高齢者虐待の現状と今後の課題
●家庭内における高齢者の虐待件数は1万6384件と増加しており、加害者は息子や夫など男性が多い。発生要因は介護疲れやストレスが最も多く、虐待者の障害や経済的困窮など多岐にわたっており、防止に向けた家族支援が重要な課題である。施設等の虐待件数は452件と増加しており、加害者は介護職員が最も多く、男性による虐待が目立つ。発生要因では、教育・知識・介護技術等の不足が約7割であることから、介護現場の教育とストレスマネジメントが重要な課題である。
加藤伸司
高齢者虐待防止に向けたシステムズ・アプローチによる介護者支援
●養護者による高齢者虐待の困難事例として、被虐待者が自らSOSを出さず関わりを拒否して虐待を否認する、その背景に虐待者と被虐待者間に共依存があるケースを例示した。せっかく分離しても、被虐待者が自らの意志で虐待者の元に戻るなどのエピソードが繰り返されれば、関係者の不全感や消耗感は強い。本稿ではこうした現象をいかに了解し、対応するかについてシステムズ・アプローチを援用し、家庭という最小単位のシステムの改善を目指すこと、システム構成員の自立を優先する方策を述べた。
松下年子
医師がセルフ・ネグレクトに気づくとき
●セルフ・ネグレクトは、生活を維持するために必要な能力・意欲が低下して健康・安全が脅かされる状態に陥ることをいう。しかし本人が支援を「拒否する」ため、発見から支援に結び付けることが難しいが、見方を変えれば、「支援を求める力が欠如している人」とも言える。本稿では、セルフ・ネグレクトについて定義・概念、実態、リスク要因、介入・支援方法、今後の課題について述べる。訪問診療あるいは病院・クリニックなどの診療の場で、医師にセルフ・ネグレクトの人やそのリスクの高い人に気づいていただくことが、早期発見・介入の大きな一歩につながると考える。
岸恵美子
8年目を迎えた福島の現状と生業訴訟が問いかけるもの
◆事故から8年目を迎えたが、事故は収束せず、原状回復もなされず、被害は続いている。しかし、国や電力会社は再稼働を進め、20ミリシーベルト以下は我慢せよ、被害はない、と救済を打ち切り、“福島大丈夫論”とでもいうべき言説が流布されている。
◆こうした中、国と東電を相手取り生業訴訟は取り組まれているが、そこで問われているのは原告に限った話ではない。生業訴訟が問いかけるもの、それは声を上げるということである。
馬奈木厳太郎
子どもの精神発達と社会
第1回 操作的診断の限界と精神発達へのまなざし
◆従来の精神医学は基本的に成人を対象としており、子どもは対象とされてこなかった。しかし、「発達障害」やPTSDが注目されるようになってから、操作的診断だけでは立ちゆかなくなったため、乳幼児からの精神発達を視野に入れる必要性が認識されるようになった。本連載では、そのような背景を踏まえながら、子どもの精神がどのように発達していくのか、また、発達障害児の「生きにくさ」がなぜ生じるのか、その構造やプロセスについて考える。
滝川一廣
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)をどう使いこなすか
●抗凝固療法を開始する場合、ベネフィット(効果)とリスク(副作用)の両者を熟慮して薬剤を選択する。出血性合併症を減らすためにHAS-BLED出血リスクスコアで点数が低くなるような工夫を行う。抗凝固療法には年齢制限はなく、HAS-BLED出血リスクスコアが高いほどワルファリンに比して直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)のnet clinical benefitが高いという。頭蓋内出血や消化管出血のデータから日本人あるいはアジア人ではワルファリンで出血性合併症が増加しDOACで減少するため、DOACは日本人あるいはアジア人向けに開発された薬剤と考えることができる。
橋本洋一郎
口腔がん患者の顎補綴による顎口腔機能回復
─ 20 年間の経験から(1)
●口腔がん患者の顎補綴による顎口腔機能回復および口腔ケアについて、過去20年間の経験から学んだことを述べる。
●今回掲げた症例は、下顎に障害が残った舌癌、口腔底がんの術後であるが、機能回復に大変苦労した症例であり、ほぼ咀嚼筋の回復は難しく胃ろうになることを覚悟で来院された患者である。どうしても口から食べたいという思いが機能回復に繋がり、患者のQOLの向上に大きく貢献できたように思われる。
木村利明
神楽 ─「祭り」に見る祈りと世界観
第3回(最終回) 荒ぶる神々との対話
■全国各地で多様な姿で伝承されてきた地域の祭りに「神楽」がある。そこには、日本列島で生きてきた人々が、五穀豊穣を祈り喜び、自然災害や疫病などに翻弄されてきたなかで形づくられた世界観が現れている。最終回となる今回は、神楽の最中に乱入してくる「荒ぶる神」と「人」との問答から、その土地に生きる知恵などを共同体で共有する機能を見出すとともに、超高齢化社会で後継者の確保が困難化するなかでの継承について考える。
三上敏視
雇用問題Q&A 202
事務長をしている弟が残業代請求で労働基準監督署へ駆け込む
曽我 浩