2019・No.1287
月刊保団連 2
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「道」
私がなぜ社会テーマ専門の広告代理店を立ち上げたか。
山田 英治
特集
当事者の声が切り拓く医療の可能性
当事者が自己決定するために何が必要なのか
——運動と研究の循環によるニーズの顕在化

 当事者運動が「私のことは、私が一番よく知っている」と叫んだときに置き去りにされたのは、「私は、私のことを知らない」という状況に置かれた当事者だった。当事者研究とは、その「私」と「世界」を知るための実践であり、目的論的な態度や価値観をカッコに入れ、責任範囲の再設定を可能にするとともに、多数派の特性に合わせてしつらえられている言語のバリアフリー化を可能にする。当事者運動と当事者研究が互いに補完し合って初めて、可視性の低い障害に対する合理的配慮が可能になる。

熊谷 晋一郎
医療者が患者の声に向き合うため
——ダイアローグの重要性

 患者と医療者の間には「まなざしの違い」や「力の不均衡」などさまざまな障壁が存在する。「対話(ダイアローグ)」は、その障壁に橋を架け、お互いの「声」を聞き合い、応答するという行為の中で患者と医療者が対等に近づくモデルである。そこでは専門家が専門家としての鎧よろいを脱ぎ捨てること、また対話のプロセスそのものを大事にするという「ポリフォニー(多声性)」の精神がある。
 患者の「声」を医療者の専門知に取り込むためには、この「対話(ダイアローグ)」の概念が今後ますます重要となるであろう。

孫 大輔
安心して弱さをさらけ出せる場として
——浦河べてるの家の取り組みから
 精神障がい等を抱える当事者の自助グループ「浦河べてるの家」では、当事者が抱える問題を当事者自身で対処し、当事者同士でエンパワメント(力を引きだすこと)するための様々な活動が行われています。中でも「当事者研究」は大きな注目を集め、現在は日本全国にとどまらず海外まで広まり、その領域も精神保健福祉の領域を超えて幅広い分野にまで広がっています。本稿では、統合失調症当事者としてべてるの家につながり、現在はスタッフとして活動に関わっている筆者が、自らの体験を振り返りながらべてるの家のユニークな活動を紹介します。
伊藤 知之
社会モデルに基づく自閉スペクトラム症の理解と支援
 筆者は当事者研究によって自分の身体的特徴を記述してきた。コミュニケーション障害は、個人に属する欠損とみなされているが、実際は、多数派向けのデザインと少数派との間に生じる齟そ齬である。今後の自閉スペクトラム症の診断および支援は、当事者研究と医学的研究の共同創造を通じて、社会モデルに基づき、インペアメントとディスアビリティを区別して行う必要がある。具体的には情報保障の観点からコミュニケーションを円滑にする環境側の条件を考えるべきである。
綾屋 紗月
パーキンソン病のわたしが直面した介護の現実

 元新聞記者の筆者がパーキンソン病を発症して、約10年経過した。年数が経てば経つほど、苦痛の程度は増す一方。その間、妻による老老介護を経て、現在はサービス付き高齢者住宅で介護サービスを受けながら生活している。本稿では、闘病生活の苦しみや、介護サービスを利用する当事者の立場から介護保険制度について思うことを述べる。

柳 博雄
患者が語る「痛み」や「苦しみ」をどう受け止めるか
 「慢性の痛みの語り」データベース構築を通して

 慢性の痛みに苦しむ患者は、その痛みをなかなか理解してもらえず、本人にかかわる家族や医療者も対応に悩むことが多い。ところが、そんな孤立しがちな当事者の「語り」を共有することで、当事者同士に共感が生まれ、意欲を高め合うことにつながり、家族や医療者にとっても新たな気付きを得ることができる。本稿では、患者の声をデータベース化してインターネット上で公開している「健康と病いの語りデータベース」の取り組みの中から、慢性の痛みを抱える患者の事例を紹介しながら当事者の語りの可能性について述べる。

佐藤 幹代、 佐久間 りか
論考
子どもの精神発達と社会
 第4回(最終回) 社会変化と精神発達の変化
 精神発達も発達のおくれのあり方も時代と社会によって変わる。それに大きくあずかるのは、社会と暮らしとを基礎づける産業構造の変化である。第一次産業を土台とした農業社会が第二次産業を柱とする工業社会に転換し、さらに第三次産業中心の消費社会に発展するにつれて、発達の仕方も変わってきた。それと共に、以前の社会なら問題とならなかった軽い発達のおくれ(非定型性)も、第三次産業社会が求める価値やマナーからは問題視されるようになった。現在の「発達障害」の急増はそれによっている。
滝川 一廣
診療研究
在宅における創傷・褥瘡のケア法
 〜簡単で効果的な方法

 穴あきポリエチレンや食品用ラップを用いるラップ療法ならびに紙おむつ、生理用ナプキン等を用いた創傷治療法はその素材が手に入りやすく簡易なやり方であることから在宅の傷ケアに対して極めて有用である。施行にあたっては、創からの滲出液をよく観察して適切な素材を選択する方法論を身につけるべきであり、合併症を避けるためには創が過湿潤状態にならないことに特に留意すべきである。

水原 章浩
カロリー制限でもない、糖質制限でもない
 第3の糖尿病食「朝フル・まご和食」

 糖尿病の標準的食事療法はカロリー制限を主とした食である。近年、糖質制限食が注目され、日本糖尿病学会は「糖尿病食事療法のための食品交換表第7版」で糖質の摂取を50〜60%と幅をもたせた。一方、伝統的な和食にエドワード・ハウエルの提唱する酵素栄養学をとり入れた「朝フル・まご和食」が糖尿病に極めて有効であることが判明した。新たに診断された2型糖尿病では、「朝フル・まご和食」の遵守のみで半年以内にHbA1c6.5%以下にできる可能性がある。

上瀬 英彦
文化
ビタミン発見物語
第1回 江戸患(わずら)い
    —脚気とビタミンB1

・ 江戸時代中期以降のわが国の大都会では「脚気」が蔓延し、死亡することも多く、「江戸患い」と恐れられた。
・ 明治期になっても軍隊で罹患者が続出し国防上の大問題となった。海軍では疫学的研究を生かして食事の改善(麦飯の導入など)により予防効果を得たが、陸軍は「脚気伝染病説」を奉じて白米食に固執したため多数の病死者を出し続けた。
・ 1897年にオランダ人医師クリスチャン・エイクマンが米糠中に未知の栄養素が存在することを発見、1910年に鈴木梅太郎がそれを濃縮分離してオリザニンと命名した。後のビタミンB1=チアミンである。

笠原 浩
まなざしの力

第13回 大田 堯 優しい目の向こうの強靭さ

渡辺 考
シリーズ
経営・税務誌上相談 461
相続税申告書の作成について
益子 良一
雇用問題 205
勤務中にスマホを見るスタッフの給料減額は可能か
曽我 浩
第30回全国保険医写真展
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 植竹団扇
VOICE
―12月号を読んで―
編集後記・次号のご案内