インタビュー 生活保護の限界を超えるために
●戦後の日本の社会保障は、企業福祉と家族福祉を前提として、そこで生じる不足を補うような形で整えられてきた。しかし近年、雇用の不安定化を背景に、企業福祉が縮小し家族に負担がのしかかる中で、従来の社会保障制度で対応できないような多様な社会的困難が生じている。このような時代の中で、最後のセーフティネットとして機能するために生活保護はどうあるべきなのか。また、生活保護では対応できない問題にどう対応すればよいのか。生活困窮者の支援活動を行ってきた稲葉剛氏に聞いた。(聞き手・構成:編集部)
稲葉 剛
生活保護法の「改正」は何が問題なのか
●日本の生活保護は本当に「権利」になっているのだろうか。残念ながら、生活保護に対するバッシングはいまだに後を絶たない。そればかりではなく、政府自らが逆に権利性を弱めるような生活保護法の「改正」や、生活保護基準の引き下げを相次いで実行してきた。本稿では、2度にわたる法「改正」を中心に、ここ数年間の生活保護に関する動きについて概説する。そして、生活保護が権利となり、誰もが安心して生活できる社会にするために問題を提起したい。
田川英信
医療から「排除」される人々と無料低額診療事業
―生活保護・医療扶助と統合し生活困窮者医療へ
●医療保険料や診療時一部負担金の上昇と、生活保護基準の引き下げや運用締め付けによる「医療からの排除」に対して、市民の受療権を補完し保障する重要な制度として「無料低額診療事業」がある。小論では、この事業の有効性や現状と課題を指摘する。また生活保護の医療扶助を生活保護から切り出し単体として制度化し、無料低額診療事業と合体させて、新たに生活困窮者医療制度として再編成することを提案する。
吉永 純
口の中から見える社会的困難
―「歯科酷書」の口腔崩壊の事例から
●2008年ごろから気になり出した、若者や子どもたちの口の中に見られる異常事態を、私たちは「口腔崩壊」という言葉で表現しました。その実態を、2009年に全日本民主医療機関連合会の歯科部は冊子「歯科酷書」で告発。現在、第3段まで発行しています。これらの事例からは、経済的に困窮した人々が口腔崩壊に至った背景には様々な社会的困難があり、安易な自己責任論で片づけてはならないことが分かります。本稿では歯科酷書の中から事例を紹介し、社会的困難と口腔の健康格差について考察していきます。
岩下明夫
医師だからこそできるケースワーク
―「知っトクパンフ」の活用
●生活保護をはじめ様々な社会保障制度が整っているのにもかかわらず、支援を必要とする人々に周知が徹底されていない。また、申請しなければ利用できないため、制度を知らないまま、貧困から抜け出せない人々が数多く存在している。保団連では、これらの制度を周知するため『知らないと大損!知ってトクする!医療・介護・税金の負担軽減策(略称:知っトクパンフ)』を発行している。本稿では、この「知っトクパンフ」を活用することで、生活困窮者を支援につなげた事例を紹介し、医療者にどのようなケースワークができるのかを考える。
竹田智雄
兵庫県保険医協会
「国民健康保険自治体アンケート」の取り組みについて
●国民健康保険の保険料が高すぎるため、滞納に陥り、満足に医療を受けられず死亡する例も見られるようになっている。こうした中で、兵庫県保険医協会は県内の自治体に対して「国民健康保険自治体アンケート」を実施している。本稿では、このアンケート結果から県内の加入世帯がおかれている状況を概観した上で、国保の都道府県単位化の問題点を指摘し、公費投入により国保料を抜本的に引き下げることを提言する。
川西敏雄
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の適正使用
第1回 ベンゾジアゼピン受容体の歴史と働き
●長年、抗不安作用や鎮静効果を求めて薬剤研究がなされてきた。しかし、いずれも効果的でなかったり、依存性が高かったりしたために継続使用できるものが発売されなかった。そんな中、1955年、ようやく最初のベンゾジアゼピン系薬物が作られた。抗不安、抗筋弛緩作用、抗けいれん作用と多彩な症状改善が認められるものであった。こうしてベンゾジアゼピン系薬物は、精神科的にも整形外科的にも今までにない効果を人々にもたらした。その薬剤が現在では適正使用を叫ばれる存在となった。一体なぜなのか。
清水聖保
高齢者の口腔機能管理に必要な基礎知識
第3回 口腔機能低下
●超高齢社会において求められる歯科医療とは、「治す医療」から、「よりよく生きるための医療」に変わりつつある。高齢者はフレイルの段階を経て要介護状態になるため、早期の発見と対処が必要である。そしてフレイルに影響を与えるオーラルフレイルを予防するため、かかりつけ歯科医として口腔機能管理について考えたい。
煖エ一也
史上最高に面白いエンターテインメント
「ファウスト」を遊ぶ
第2回 暴走する欲望の果てに
●ゲーテの『ファウスト』に、観衆を楽しませる工夫と仕掛けが随所に盛り込まれていることはあまり知られていない。そんな視点から『ファウスト』を読み返すと、硬直していたイメージが解き放たれ、生き生きとしたイメージが広がってくる。ゲーテひと筋60年のドイツ文学者が、『ファウスト』を存分に楽しむためのポイントを伝授するこの連載の2回目は、悪魔メフィストとの賭けに出たファウストの、時空を超えた冒険の結末までをご紹介。さて、ファウストの運命やいかに?(編集部)
中野和朗
雇用問題 213
始業ぎりぎりに出勤し通勤費も要求するパートスタッフへの対応
曽我 浩
書評
二木 立著『地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク』
宇都宮健弘
書評
医療・福祉問題研究会編『医療・福祉と人権 地域からの発信』
平田米里