2019・No.1307
月刊保団連 12
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「道」
避難者を患者にしない「避難所TKB」の徹底を
水谷嘉浩
特集
ひきこもりの長期化と孤立する人々
医療者として「ひきこもり」に関わるために
―その現状・理解・支援
●2019年、川崎市と東京都練馬区で起きた事件をきっかけに、「ひきこもり」に対する注目が集まったが、あたかも、ひきこもりが犯罪の直接的な原因であるかのように伝える報道が目立つなど、誤った理解も広まっている。本稿では、ひきこもりとはどのような状態であるのか、またその状態が心身の健康にどのような影響を与えるのかを述べるとともに、段階的対応やオープンダイアローグなどを紹介しながら、当事者の社会参加を支援する上で医療者はどのように関われば良いのかを考える。
斎藤 環
働くことができない若者たちと孤立
―就労支援の限界を超えるため

●働かない状態が長期化して、ひきこもりになる人々も少なくない。しかし、「ニート」という言葉とともに、若年無業者の存在が注目されてから十数年経過しているのにもかかわらず、国の対応は十分とはいえず、無業者の高齢化も進んでいる。「怠なまけている」「甘えだ」と言われることもあるが、筆者らが行った調査などからは、働く意欲がありながらも誰にも相談できず孤立した若者たちの姿が浮かび上がってくる。本稿では、従来の就労支援では解決できなくなった若年無業者の支援のあり方を考える。

工藤 啓
8050 問題と日本型福祉社会
―家族主義と雇用環境の変化から考える
● 「ひきこもり」とされる人々の8〜9割は必ずしも自宅に閉じこもっているわけではなく、買い物等のための外出程度はできるが、家族以外で人間関係はなく社会的に孤立している。一方、当事者の生活を支える家族は、出口の見えない「8050問題」に大きな不安を抱えている。本稿では、約100万人とも言われるひきこもり状態にある人々が生み出されてきた背景を考えるとともに、これらの人々が孤立から脱し、社会参加できるためには何が必要なのかを考える。
関水徹平
歯科医療における社会的ひきこもり者への対応
●ひきこもりの状態は、歯科保健医療サービスとの近接性を阻害する要因となり、歯科疾患の発症や進行リスクが重複しやすい環境と考えられる。加えて社会参加が困難というその特徴は、歯科を含めた保健医療的ケアを一層困難なものにし、ハイリスク者を潜在化させる要因となっている。本稿では、歯科保健医療活動を通して社会的ひきこもり者支援に携わった事例を紹介し、当事者の歯科臨床的な傾向や、医療関係者が共有すべき支援の実態について考察する。
小松楓セ
孤立する人々の居場所をどうつくるのか
―当事者が自らの意思で行動するために
●私は20年以上にわたって、数えきれないほどの「ひきこもり」状態にある本人や家族たちと関わり続けてきた。ときには、取材という領域を超えて、ひきこもり当事者が孤立させられていく過程で封じ込まれ、ずっと言えずにいたこと、心の奥底にある本当のことなどを1つ1つ言葉にしていく作業を重ねてきた。「ひきこもり」という社会的孤立の要因は、本人の努力不足、自己責任だとする周囲の空気にある。本稿では、これまでインタビューしてきた数多くの人々や、7年にわたる対話の場を通じて、彼らを孤立に追いやってきたこの社会の課題を浮き彫りにする。
池上正樹
レポート
国際エイズ会議2019 ワクチン・治療薬に注目
●2019年7月、中米・メキシコシティで「第10回国際エイズ学会・HIV科学会議」(IAS2019)が開かれHIV感染者や医師・歯科医師、国連関係者、政治指導者ら140カ国6000人が参加。演題はワクチン開発や、埋め込み型HIV治療薬、最新の研究成果など1300に上った。難民やLGBT等の性的マイノリティなど人権問題、歯科関連、いかに健康を維持すべく食べるか等の発表もあった。2020年の国際エイズ会議IAS2020の米国開催はエイズ流行の終しゅう焉えんに向け重要な節目になる。「正しい知識を知り行動しよう」との発言が相次いだ。
杉山正隆
診療研究
長期血糖コントロールと糖尿病細小血管症、
大血管症、がん、認知機能障害の関係
●20年以上当クリニックに通院した110人の糖尿病患者の血糖コントロール状態別に網膜症、大血管症、がん、認知機能低下の発症頻度を調べた。
●網膜症のみ血糖コントロールに相関した。大血管症、認知機能低下はコントロール良好群に発症が少ない傾向があったが、有意差はつかなかった。がんは血糖コントロールに関係なかった。
伊藤眞一
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の適正使用
第3回 多剤処方の回避とベンゾ系薬剤の減薬
●医師は、患者の望むことをなんとかしたいと思い、それが不眠や不安という症状であればなおさら改善のために薬物療法を行う。しかも効果の早いベンゾジアゼピン受容体作動薬を優先して処方してしまう現状がある。この現状がもたらす有害事象を改めて考えてみる。その上で特に高齢者のポリファーマシーの回避、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の減薬に取り組んでいけたら本来の適正使用ができるのではないか。
清水聖保
シリーズ
経営・税務誌上相談 471
消費税の軽減税率
益子良一
雇用問題 215
台風で出勤できない職員への賃金は
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉 植竹団扇
総目次
VOICE
―10月号を読んで―
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内