2020・No.1321
月刊保団連 4
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「道」
「秩序化」する災害ボランティア
渥美公秀
特集
高齢者の終末期医療
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)が目指すもの
──「事前指示」「医師の免責」という誤解
●アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、人生の最終段階における医療とケアの意思決定支援の方途である。ACPは最期まで患者の意思を尊重するために、事前指示の不足を補って発展してきた。患者・家族側と医療・ケアチーム側との丁寧な対話のプロセスが核となる。患者の意思を「点」ではなく「線」でフォローし、家族らの理解も「線」で得ようとする取り組みである。しかし現状では、事前指示書に患者側のサインを得ることをACPと称したり、医師を免責するためにACPを実施しようとするなどという誤解もみられる。ACPの適切な理解と普及には今後の展開が待たれる。
会田薫子
「人生会議」は毒か、薬か
──患者・家族の懸念
●厚労省は「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を推進するため、「人生会議」という愛称をつけ、PRポスターを作成したが、患者団体や遺族らから一斉に抗議の声が上がった。「人生会議」は患者や家族の苦痛を和らげる薬になることが期待されるが、やりようによっては死を促す毒にもなり得る。
●患者・家族の懸念や、趣旨をよく理解していない医療者による弊害、財政と国民の命の価値をセットで語る政治家たちの姿など、「人生会議」をめぐる様々な現場を追った。
岩永直子
疾患別の終末期医療の必要性
●終末期疾患の苦痛のなかには、多くの疾患に共通するものがある。しかし、苦痛を疾患別に分けてアセスメントすると、提供できる医療の幅が広がることもある。本稿では、2つのトピックスに分けて説明する。1つ目は予後予測、2つ目は使用できる薬剤についてである。高齢化が進む日本において、単疾患の患者は減少し、多疾患共存で死去する患者が増えていく。疾患別の終末期を理解した上で、多疾患併存患者を、癌や非癌に関わらず、残された時間を踏まえてマネジメントしていくことが、今後の医療者には必要だろう。
松本衣里
在宅看取りの実践と課題
●全国で在宅看取りを行う医療機関は診療所の6.9%、病院の4.7%と非常に少ない。看取りに限らず「在宅は大変」という印象が強いようだが、医師としてのやりがいを強く感じる仕事の一つである。
●終末期医療について患者や家族の意向を自然なかたちで把握するには、在宅医療が必要になってから在宅専門の医療機関が関わるのではなく、普段から外来で診ているかかりつけ医が、在宅になっても診るのが理想的だ。すなわち、かかりつけ医が担う在宅医療の普及こそ、本人が望む在宅死を実現するカギである。印象深かった在宅看取りの事例を通して、高齢者終末期医療のやりがいや難しさを考えたい。
嶋田一郎
早すぎる「最終段階」の判断を危惧
──厚労省ガイドラインを読んで
●多死社会を迎え、医療・介護関係者だけでなく、多くの市民が人生の終わりの時期をどう過ごすか強い関心を持っている。2018年に改訂された「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、最終段階の医療行為について繰り返しの話し合いを求めている。早すぎる人生の最終段階の判断で、高齢者の希望する医療を提供しないまま看取ることを危惧する。人生会議では、本人の意思を尊重し、有意義な時期を過ごすための話し合いが求められる。
北村龍男
論考
台風豪雨で被災した町の病院から学ぶ
──自然災害に強い病院づくり
●宮城県丸森町は2019年10月の台風19号で泥水の湖となり2日間孤立した。病院は断水、全通信遮断、1階全域の18cm浸水で、一夜にして安全な医療が提供できない危機に陥り、全患者を移送、地域医療の命綱から患者が消えた。この経験から、想定外の想定、減災に対する高い意識、ハード面とソフト面の常設状況の検証と改変、中枢機能のバックアップや代替供給能の備え、被災時診療継続計画の作成、指揮系統の共有化、発災時の職員確保と帰宅困難職員への配慮、形骸化させない事前訓練など、学ぶべきことが多い。
八巻孝之
診療研究
総合病院での呼吸器専門医による全科胸部X線読影の試み
─2018年1年間の経験─
●中規模以上の総合病院で呼吸器専門医が全科の胸部X線を読影した場合、診療への貢献はどの程度なのか1年間の経験をまとめた。今回は肺癌発見の視点に限定した。当院の外来通院症例の胸部X線、あるいは入院時施行の胸部X線で読影結果が肺癌発見につながった例は、延べ1万3725回の読影から9例であった。肺癌発見率は0.065%で全国の肺癌検診発見率(2015年)の0.06%と同等であった。
草K芳明
口腔がんの早期発見と病診連携
第2回 検査・診断と外科的切除
●口腔癌をどのように治療していくのか、診断と、口腔癌の最も原則治療である外科的切除について説明する。
●口腔癌は通常、肉眼でがん組織が確認できるが、確定診断や浸潤状態、転移の有無を確認するには、組織生検やMRI、造影CTが必須である。また遺伝子診断も患者の治療および予後に大きく貢献する。
●切除範囲の識別は、ヨード生体染色が有用である。頸部のリンパ節転移がある場合、舌や下顎では原発巣と頸部のリンパ節を一塊に切除することが原則だが、歯肉や口蓋部にできた癌では一塊で切除することができないため、この部位では口腔内蛍光観察装置を利用するのが良い。
野口一馬
身体抑制歯科治療の国際的な比較研究
国民的合意を得て事故を防止するために
●子供の権利条約や障害者の権利条約によってこの10年間、身体抑制歯科治療に急激な変化が起きている。本稿では主として、日本、英国、米国の学会の指針を比較検討した。身体抑制歯科治療には切迫性・非代替性・一時性が条件とされ、ルーティンな治療の手段としては許容されない。患者の権利と安全のため、鎮静法の研究・研鑽(けんさん)と同時に全身麻酔歯科治療可能な施設の普及が必要である。
木舩敏郎
文化
江戸のお医者さん
第4回 落語に見る江戸の町医者たち(その1)
●前回は医者にとっての「診立て=診断能力」の重要性を述べたが、見通しがロクに立たないような「ヤブ医者」でも、懸命に患者に尽くそうと努力する者はそれなりに頼りにされていたに違いない。古典落語に登場する町医者たちは、日々の生活に追われる庶民の仲間として、愛される存在でもあったようだ。さまざまな演者の噺(はなし)を筆者なりに要約したことをお断りしておく。
笠原 浩
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 475
寡婦(寡夫)控除と未婚のひとり親の税制上の措置
益子良一
雇用問題 219
新型コロナウイルスの感染が心配なスタッフへの対応
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
ドクターのつぶやき川柳 年間賞2019
〈選者〉植竹団扇
VOICE
─2月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内