2020・No.1328
月刊保団連 8
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巻頭グラフ
『はだしのゲン』に見る戦後の混乱期
 中沢啓治氏(1939年-2012年)の長編マンガ『はだしのゲン』は、主人公の中岡元(ゲン)が戦中戦後をたくましく生き抜く姿が感動を呼び、長い年月にわたって読み継がれてきた。このマンガで、戦争や原爆の恐ろしさを知ったという人も多い。とりわけ原爆投下のむごたらしさが印象的だが、実は戦後に多くのページが割かれている。戦争が終わっても、容易に平和が訪れたわけではなかった。終戦間際から戦後の過酷な混乱期を人々はどう生き延びたのか、紙芝居版『はだしのゲン』に描かれた場面を通して振り返る。(文・構成:編集部 協力:中沢ミサヨ、はだしのゲンをひろめる会)
「道」
「コロナ後」の世界と「正義感」の行方
梅谷 薫
特集
敗戦後の混乱期を生き抜いた人々
──75回目の夏を迎えて
敗戦直後の人々と民主主義
生まれ変わるための「通過儀礼」
●戦後日本の原点とも言える「ポツダム宣言」では、日本に民主主義国家として生まれ変わることが求められていたが、占領軍は日本の過去に民主主義的な傾向があったと認識していた。決してゼロからのスタートとは考えられていなかった。とはいえ、軍国主義から民主主義への転換は大きな変化をもたらすことになり、ときに抑圧されてきた不満が噴き出すなど、国民の感情を煽るような形で進められることもあった。本稿では、戦後日本の国民が民主主義を理解し、受け入れるためには、どのような「通過儀礼」が必要だったのかを考える。
保阪正康
兵士たちの沈黙と戦後日本社会
●戦争を体験した世代が大きく減少している。特に兵士としての体験を持つ人々の数は、現在2万人前後にまで減少している。しかし、戦後の日本社会は、彼らの沈黙の意味や内面的な葛藤を理解しながら、元兵士たちの戦争体験に正面から向き合ってきたとは言えないだろう。この論考では、凄惨(せいさん)な戦場の現実を明らかにしつつ、彼らの戦後史をたどり、戦争体験の持つ意味について考える。
吉田 裕
隠匿物資の横流しに狂奔するエリート
●敗戦直後、日本を破滅に導いた戦争指導者たち──すなわち軍人・官僚・政治家の多くが真っ先に着手したことは何だったか。それは、「本土決戦」を理由に国民から徴収した膨大な物資を横領し、隠匿し、ひそかに闇市に流して巨利をむさぼることだった。国民の窮状を放置して、自らの保身と利権のために奔走したエリートの犯罪を決して忘れてはならない。国民の監視がなければ、権力者は再び同じ犯罪をくり返すだろう。
貴志謙介
混乱期をさまよう人々の行方
焼跡・ヤミ市と戦後社会の形成
●敗戦直後、多くの人々が地位や職業を失い、新しい地位や職業を求めてさまよっていた。ヤミ市に活路を見いだした人々、農村の実家に戻って農業を手伝った人々、新たに事業を始めた人々。それは個人にとっては生活の再建であり、社会全体にとっては戦後復興の過程だった。しかし戦争は、すべての人々を平等には扱わなかった。貧しい人々ほど、徴兵されることが多く、戦死・戦災死することも多く、生活の再建が困難だった。格差社会と呼ばれるようになった現代日本への教訓である。
橋本健二
戦争孤児の過酷な生い立ち
戦後史の空白と「時代の空気」
●戦争で親を失い路上生活を強いられ、「駅の子」「浮浪児」などと呼ばれた戦争孤児。飢えと寒さ。物乞いや盗み。彼らにとって終戦は、生きるための闘いの始まりだった。しかし、国も大人たちも彼らを放置し、やがては彼らを蔑み、排除さえするようになっていった。「過去を知られるのが怖い」と多くが口を閉ざしてきたため、「駅の子」たちの経験は戦後史の空白ともなってきた。駅の子として2年以上にわたって路上生活を続けた小倉勇さんの証言を中心に紹介する。
中村光博
鼎談
漫画『フラジャイル』から考える
遺伝子医療と新薬開発の光と影
 漫画『フラジャイル』(原作:草水敏、漫画:恵三朗)は、日本にわずか2000人しかいない病理医を主人公に新しい視点から医療を捉えており、「未来は始まっている編」(単行本15〜17巻)では急速に発展する遺伝子医療の現状を描いている。一般読者はもとより医療者からも支持を集めており、医療エンターテインメントとして高く評価される作品だ。今回は原作者の草水敏氏をお招きし、新たながん治療や遺伝子検査の開発に携わってきた名古屋大学名誉教授の小島勢二氏と、保団連政策部長の竹田智雄理事とともに、先進医療の実態や変化を迫られる創薬体制の問題などについて語り合った。(文・構成:編集部)
草水 敏・竹田智雄・小島勢二
診療研究
AMR対策と抗菌薬適正使用
─小児科クリニックにおける抗菌薬適正使用の実践─
第3回 保険薬局と連携した処方実態の可視化
●米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は、自分自身の抗菌薬処方を省みることが抗菌薬の適切な処方に繋がるとしている。しかし、身近な抗菌薬処方の実態を簡便に把握する方法は見当たらない。広く行える可能性のある活動として、抗菌薬使用状況、処方傾向を自己確認できる方法として「保険薬局と連携したクリニックにおける抗菌薬処方セルフチェック」を考え実践した。抗菌薬処方の可視化に繋がり有用であったが、考えられる問題点についても言及した。
黒崎知道
失われた歯周組織を取り戻す
第2回 歯周外科治療
●前回は歯周病治療の土台となる歯周基本治療のコツについて説明した。歯周基本治療を行った後に、深い歯周ポケットが残存した場合は、歯周外科手術を行う必要があり、その中でも歯周組織再生療法を用いると、一度失われた歯周組織を元の状態に回復することができる。歯周組織再生療法には、骨移植術、GTR法およびエナメルマトリックスタンパク質を応用した方法があり、さらに近年、FGF-2製剤であるリグロス®という歯周組織再生剤が販売され、注目されている。このような歯周組織再生療法を成功させるための重要ポイントは、丁寧な歯肉弁を形成して、緊密に歯肉弁を縫合することである。
神谷洋介
文化
江戸のお医者さん
第8回(最終回) 西洋医学の伝来
●小咄・落語・川柳と少々遊び過ぎたようだ。そこで最後に、伝統医学側からの圧迫に屈することなく西洋医学の導入に努め、近代医学の発展への途を切り開いた医師たちを取り上げて、このシリーズの結びとしたい。
笠原 浩
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 479
持続化給付金等の各種支援制度についての課税関係
益子良一
雇用問題 223
雇用調整助成金をさかのぼって請求できるか
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
VOICE
─6月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内