2020・No.1329
月刊保団連 9
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「道」
オンライン授業が問う「大学、何のために?」
貴戸理恵
特集
異常気象新時代
──医療機関は水害にどう備えるか
異常気象新時代、日本中に水害リスク
●想定外の豪雨が毎年のように起こり、水害が全国各地で発生する時代になった。水害では地域全体が被災するので、事前の各人の自助努力が役立たないような錯覚がある。しかし、知識を身につけ対策をすれば個人も組織も被害は確実に減る。浸水、停電、断水、通信不能などに備えれば、家族も、患者も、病院も大丈夫だ。被害は起こってみなければ分からないのではない。本論考を読み、医師や歯科医師なら常識として知っておかねばならない最低限の知識を用いて、水害被害を少なくすることができる。
河田惠昭
災害心理学から見た医療従事者に求められる対策
●医療従事者には一般の人たちよりも高い防災意識が必要である。災害時には高い職業意識を持ち状況の変化に対応する高いマネジメント能力を発揮することが求められる。水害時に適切な行動を取るためには、タイムラインを用いた対応マニュアルを作成することが有効である。緊急時には危険かどうかの判断に頼るのではなく、事前に決められた行動を取ることによって逃げ遅れを防ぐことができる。災害対策は有効性を実感しにくいため、災害自己効力感を高める工夫を日ごろの医療業務の中で取り入れていくことが重要である。
元吉忠寛
熊本の豪雨被災地を訪問して
〜我々は水害にどう備えるか〜
●2020年7月4日未明からの豪雨被害で熊本県南部の球磨川などの河川が氾濫し、県内では8月3日までに死者65人、行方不明2人、全半壊が606件、床上・床下浸水を合わせ7943棟と甚大な被害を受けた。大きな被害を出した人吉市、球磨村、八代市坂本町などの球磨川流域の医科・歯科医療機関も床上浸水し、建物や医療機器に重大な被害が出た。私たちは7月9日、九州自動車道の再開通を待って、人吉市中心部の被災医療機関を訪問した。その状況を報告し、今後の備えについても言及する。
森永博史
河川氾濫による医療機関の被害と備え
被災会員の声より
●2018年の「平成30年7月豪雨」で洪水被害にあった医療機関のインタビューや当時の声をもとに、被災時の状況や、医療継続の課題と備えについてまとめた。
●暴風雨による直接被害と異なり、小雨になって油断したところへ洪水が襲う危険性や、浸水の速さが語られた。浸水は免れても、断水や、職員・薬局・歯科技工所などの被災で診療が制限される。被災医療機関支援や診療報酬・患者窓口負担の取り扱い、医療機器の廃棄、職員の雇用継続支援など、国や自治体による施策は日々更新されるため、最新情報を入手する必要がある。
里村兆美
令和元年台風15号、19号、21号豪雨災害の実態と対策
●2019年9月に上陸した令和元年台風15号「令和元年房総半島台風」は過去69年間で関東地方に上陸した台風としては最強クラスであり、暴風域が非常に局所的、かつ急激に風雨が強まるものであった。県内は大規模な停電、断水が長期的に続き、災害救助法が適用された。停電を理由とした同法の適用は全国的にもほぼ前例がない。翌月には台風19号、21号豪雨が襲来し「連続災害」は甚大であった。千葉県保険医協会会員の2割超が被災し、停電や豪雨で診療に支障を来した。本稿では被災会員681人を訪問した概要をもとに、明日来るかもしれない大型台風に対する課題と備えを考察した。
吉川恵子
中小医療機関に求められる事業継続計画(BCP)
●近年水害は、その発生頻度が増え、また被害の大きさも甚大化しているが、医療機関の備えは決して十分とはいえない。医療機関は、水害が発生した際も浸水被害から患者・職員を守るとともに、その医療サービスを継続し続ける必要があることから、事業継続計画(BCP)を策定し、それを的確に実践することが求められている。
●本稿では、水害を意識したBCPのポイントとして、避難行動を含めた事前準備の概要、そして被災後に行うべき重要業務について説明する。
本田茂樹
論考
新型コロナウイルス感染拡大の中での防災・災害対策
●本稿では、新型コロナウイルス感染症流行下での避難について、主に、避難行動についてまとめた。まず、命を守る避難行動の具体的考え方を示し、ハザードマップや避難タイミングを考える際に活用できる情報について紹介し、福祉施設などの被災事例に基づいて、計画があっても避難するとは限らない状況、自宅療養・宿泊療養場所が洪水・土砂災害の危険度が高い場所だった場合の対策、避難所における困難さと活用できる資料について紹介する。
小山真紀
患者の意思決定支援のあり方
〜今こそ求められる医療者の多様性と柔軟性
●本格的な「多死社会」を迎える日本において、患者の意思決定支援は重要な問題である。終末期医療において、例えば認知症患者が言葉で適切に表現できないことは、決して自己決定ができないということではない。患者の意思は、介護する側に立つ人との関係や取り巻く環境、身体状況、精神状態に影響を受ける。「患者と家族の気持ちは揺れる」ということを念頭に、患者の意思を深いレベルで推し量る必要がある。
●患者・家族の意向と価値観を相互に理解し、理想的な支援を実践していくために、医療者に求められる多様性と柔軟性について述べる。
八巻孝之
診療研究
小児の歯の外傷と歯内療法
●小児の歯の外傷は、歯と歯髄と歯周組織を同時に損傷する点が、他の歯科疾患に見られない特徴である。また、損傷の実体は当初に把握できるものが限られ、一定の時間を要することがまれではない。従って、的確な応急対応を行うことで児の疼痛を緩和した後も、予約診療と経過観察を継続し、タイミングの良い診査と治療を継続することが重要である。そのためには、外傷が与えた損傷を正確に診断するとともに、被害を最小限にする対応と歯内療法を遅滞なく行う必要がある。
宮新美智世
文化
本当はすごい!トイレの力
第1回 災害時、命にかかわることも
●汚い、臭いといったイメージから何かと忌避されがちですが、私たちにとってトイレはなくてはならないものです。もし、トイレがなかったら、どれだけ困ることになるかを想像すれば明らかでしょう。この連載では、そんなトイレにまつわる事柄にあえて正面から向き合うことで、そこに秘められた「すごい力」を発見していきます。第1回目は災害時について。近年、災害が多発していますが、災害時のトイレについて備えていますか?
加藤 篤
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 480
新型コロナ対策「家賃支援給付金」
益子良一
雇用問題 224
退職代行サービスから職員の退職の意思が伝えられた
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
コラム
まさか私が…! 医師も「コロナ失業」する時代
伊藤一之
書評
パオロ・ジョルダーノ著『コロナの時代の僕ら』
森下繁美
ドクターの課外活動
第7回 材料いろいろ、ジオラマには「物語」がある
鵜飼 伸
VOICE
─7月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内