2021・No.1341
月刊保団連 3
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巻頭グラフ
濁流に飲まれた町の記憶
大槌の開業医は何を見たのか
 2011年3月11日午後2時46分、岩手県大槌町の開業医・植田俊郎氏(当時55歳)はいつものように診察していた時に、突然、強い揺れに襲われた。その後、道端に高齢女性が倒れているとの知らせを受けて現場に急行。通りがかりの住民に託して避難所に送ってもらった後、町が騒然とし始めた。「津波だ!」。状況がよく飲み込めないまま医院兼自宅に戻り、屋上に避難した時に信じられない光景が広がった──。津波の姿をカメラに収めた植田氏に、当時の様子を聞いた(聞き手・構成:編集部)。
植田俊郎
「道」
遠い原発避難者の「人間復興」
国・電力会社は恒久救済機関の設置を
山中茂樹
特集
災害の記憶を語り継ぐために
──東日本大震災・原発事故から10年
座談会
医療者として「記憶」を語り継ぐために
震災後10年、被災地の傷跡は今……
 2021年3月、未曾有の被害をもたらした東日本大震災から10年の節目を迎える。被災地はどこまで立ち直っているのか。また、この震災の経験から、医療者として何を語り継ぐべきか。今一度、大きな揺れをもたらした発災時にさかのぼって震災の「記憶」を振り返り、被災3県、被災地支援の立場から語ってもらった。座談会は1月19日、web形式で実施した(司会進行・構成:編集部)。
小山田榮二・井上博之・松本 純・住江憲勇
復興はどのような教訓を残したのか
避けられたはずの死と生活再建の困難
●東日本大震災の被災地では復興が進められてきたが、この10年間でゆがみも見られた。未曽有の大災害の中を生き延びながらも、関連死・孤独死・自殺など復興の過程で亡くなる被災者も少なくない。これらの死は支援が行き届いていれば避けられたものであり、今もなお、被災者が困難を抱えていることがうかがえる。本稿では、生活や住まいの再建に対する支援で生じた問題点や、復興予算における被災者への直接支援の乏しさを指摘するとともに、この10年間の復興がどのような教訓を残したのかを考える。
塩崎賢明
災害の歴史から何を学ぶか
東日本大震災は「予知」されていた
●地震の繰り返し性から見れば、東日本大震災を引き起こした地震は869年の「貞観地震」の繰り返しであり、その到来はほとんど予知されていた。地震があと10年遅ければ予知の精度も上がり、人類史上初めての大地震予知の事例となっただろう。本稿では、こうした「予知」が生かされず、多くの人々が命を失い、原発事故をも誘発した経過を振り返るとともに、現在、COVID-19感染拡大の真っただ中にある私たちが「災害の時代」を乗り超えるためには、歴史学を含めた人文科学と自然科学との連携が求められていることを述べる。
保立道久
双葉郡の消防士たちが直面した苦難と葛藤
それを「なかったこと」にしないために
●福島県双葉郡の消防士たちは発災直後の極限状態の中で、原発事故による被ばくの恐怖と闘いながら住民の救助や救急搬送に当たった。その壮絶な体験は長い間、知られることなく埋もれたままだったが、筆者は「なかったことにしたくない」との思いから取材に取り組み、一冊の本『孤塁』にまとめた。原発事故と同様、新型コロナウイルスという目に見えないものに命を脅かされている現在、知られざる事実を掘り起こし、記録する意味を考える。
吉田千亜
論考
避難所の健康被害を防ぐ「TKB48」
市民社会保護の理念で避難環境の改善を
●近年、日本では災害が多発する中で、災害時の劣悪な避難所環境での健康被害が問題になっている。日本の避難所では、雑魚寝による避難生活やトイレの少なさ、画一的な食事内容を強いられ、被災者が活力を取り戻せるような環境になっていない。本稿では、イタリアの避難所を例に被災者の日常生活を守る避難所のあり方を紹介し、「TKB48」により避難所環境を改善し健康被害を解消することを述べる。
榛沢和彦
診療研究
調剤薬局と多剤投薬削減に取り組んで
●多職種連携、中でも薬剤師との協働は有用で、日常診療に欠かせない。多剤投薬削減の取り組みで、40歳代では、生育歴・生活歴・生活環境にも目を配る必要がある。
●社会保障と税の一体改革の実現のため、薬局に「薬局ビジョン」が示され、かかりつけ薬局の実現が迫られている。
北村龍男
糖尿病治療の最新の話題
〜糖尿病診療ガイドラインにふれて
第2回 糖尿病腎症の病態と対策
●糖尿病に併存する腎臓病(DKD)の中で、狭義の糖尿病腎症(DN)は瀰漫性結節病変を有する糸球体硬化病変を呈し、臨床上は高度の蛋白尿と進行性腎障害を特徴とする。DNにおいては腎内RAS活性は亢進しており、発症早期から糸球体内圧が亢進し過剰濾過がみられる。DN治療の三原則は、血糖管理、ACE阻害薬/ARBの選択、生活習慣修正である。また、腎性貧血、脂質異常症、高尿酸血症などの管理も必要となる。最近の話題としては、KDIGOガイドラインでSGLT2阻害薬が第三の腎保護薬として新たにDNの推奨薬として加わった。
栗山 哲
水疱症と口腔病変(前編)
●水疱や粘膜のびらんを誘因なく生じ、皮膚の表皮細胞間結合や表皮─真皮結合に関わる分子に対する自己抗体を病変部や循環血中に検出できる疾患を自己免疫性水疱症と呼ぶ。口腔でも、難治性のびらんやアフタを生じた場合、自己免疫性水疱症の鑑別を要する。診断には病変部の生検が必須となる。粘膜病変では上皮が失われていることが多いため、病変部に接し、上皮が保たれる部分からの生検が望ましい。口腔病変を生じ得る自己免疫性水疱症の診断および治療について前編、後編の2回に分けて紹介する。
大日輝記
文化
続・まなざしの力
第3回 なかにし礼
失われし時を求めて
渡辺 考
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 486
2021年度税制改正大綱と税制改正
益子良一
雇用問題 230
同一労働同一賃金で、効率の悪い職員の給料はどうなるのか
曽我 浩
会員
書評
本田茂樹『中小医療機関のためのBCP策定マニュアル』
富田 威
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
VOICE
─1月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内