2021・No.1355
月刊保団連 10
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「道」
水俣病の記憶を語り継ぐ
永野三智
特集
ポリファーマシー解消へのアプローチ
──かかりつけ医の役割と実践
●高齢者は複数の疾患を併発していることが多く、服用する薬剤数の増加に伴う有害事象が問題になっている。医療・介護の現場でポリファーマシーの解消に向けた試行錯誤が続けられる中で、見えてきた課題は何か。
●特集では、院内外での多職種連携や、処方見直しの基準づくりなどの実践を紹介するとともに、医師・薬剤師それぞれの視点から課題と対策を考える。
高齢者の医薬品適正使用指針と課題
●かかりつけ医向けのポリファーマシー対策ガイダンスとして、厚生労働省から「高齢者の医薬品適正使用の指針」が発表されている。ポリファーマシーは、(潜在的な)害を伴う多剤服用を指すため、高齢者総合機能評価などを用いて患者の病態、生活、環境などから包括的に適正処方を判断することが求められる。同指針には薬剤起因性老年症候群や服薬管理への留意といった基本的事項は網羅されているが、医療現場での実践には職種間の連携や患者・家族の理解などまだ課題が多い。
秋下雅弘
薬剤適正使用に向けた医薬連携
──兵庫県宝塚市の取り組み
●兵庫県宝塚市では2015年以降、多職種が連携し地域全体で多剤処方の適正化に取り組んでおり、地域連携の研修会も頻回に開催して、薬剤の適正使用に必要な知識や具体的な症例への対応法を修得し、顔と顔が見える関係も生まれている。地域医療支援病院である宝塚市立病院が中心となり、入院中に減薬した経緯や理由を記載した退院時薬剤情報提供書を送付して地域へ引き継いだり、保険薬局からのトレーシングレポートで情報のフィードバックを受けたりして情報共有が充実してきた。行政が実施する服薬適正化勧奨事業にも当院薬剤部が積極的に支援し、市内医療機関が協力できる体制を構築して効果が出てきている。地域連携のさらなる推進により、薬物療法の適正使用を目指したい。
吉岡睦展
老人ホームでの薬の適正化が入居者のQOL・ADLに与える影響
●老人ホームにてポリファーマシー解消対策を行うには、入居者の訪問診療を行う在宅医や訪問服薬指導を行う薬剤師だけではなく、入居者本人および家族、介護施設の看護師や介護スタッフの理解と協力が不可欠である。また、「減薬」を強調するあまり、過少医療となることは避けなければならない。本稿では、介護付き有料老人ホームにおいて行った薬剤の適正化の例を紹介し、その最適化プロセスとそれによる患者のQOL・ADLに与える影響、介護負荷の変化についての研究結果およびその他の副次的効果を解説する。
熕」義昌
在宅医療での多剤処方の見直し基準の検討
大川義弘
ポリファーマシー解消に向けた院内多職種チームの取り組み
●ポリファーマシーは、薬剤の数が多いだけでなく多剤処方に関連したあらゆる問題につながる状態である。2020年4月からは、多職種によるカンファレンスを行い、処方が変更となれば保険診療点数の薬剤総合評価調整可算が算定可能となり、一律の減薬ではなく、適切な処方を見極めることが重要であることが示された。多職種チームで対応する大きな理由としては、ポリファーマシーの解消には、処方内容の調整だけでなく服薬支援や生活環境の調整や患者家族を含めた指導など包括的な対応が必要となるためである。また、院内で対応した内容をいかに情報共有し地域とつながるかが重要であると考える。
溝神文博
ポリファーマシーに関する医師・薬剤師の意識実態調査
──神奈川県の内科・外科・整形外科を対象に
●神奈川県保険医協会では、会員の内科医、外科医、整形外科医と県薬剤師会の協力を得て、ポリファーマシーについての意識実態調査を行った。ポリファーマシーの解消に向けては、単に減薬すればよいという固定観念にとらわれず、可能な限りエビデンスに基づき、適正に薬を使用することが望まれる。この考えは、昨今、話題になっているチュージングワイズリー(賢い選択)の理念にも通じる。今回のアンケート調査の結果、医師、薬剤師ともポリファーマシーに対する関心度は予想以上に高く、今後、ポリファーマシー解消に向け、患者を中心に据えた、多職種による連携が期待される。
湯浅章平
インタビュー
小説家・平野啓一郎が描いた近未来の日本 @
──格差の果てに生きる希望は
●小説家・平野啓一郎氏は、京都大学在学中の1999年にデビュー作『日蝕』で芥川賞を受賞。20年以上にわたって多彩な作品を世に送り出してきた。最新刊『本心』は、2040年代初頭の日本を舞台とし、死に時を自分で決める「自由死」が認められるという設定だ。格差と貧困、社会保障の崩壊などのテーマも盛り込みながら、母親を失った悲しみを克服し、社会に目が開かれていく青年の姿が描かれる。同作について、保団連の天谷静雄理事が話を聞いた。(インタビューはウェブ上で行った)
(聞き手:天谷静雄)
診療研究
頭痛診療のコツ
〜一次性頭痛を中心に〜
第2回 二次性頭痛を見逃さない
●頭痛患者が受診した場合、「増悪している頭痛か」「突然発症の頭痛か」「これまで最悪の頭痛か」の3つの質問で危険な頭痛かどうかのトリアージを行う。医師による診察の優先順位が高く、緊急を要する頭痛と判断したら専門医へ紹介する。雷鳴頭痛ではくも膜下出血をまず考えるが、頭痛が軽度あるいは頭痛がないくも膜下出血もある。「経験したことのない頭痛」あるいは「いつもと違う頭痛」にも注意する。二次性頭痛を疑うSNNOOP10リストも活用する。
橋本洋一郎
歯周組織再生剤リグロスを中心とした再生療法の臨床(2)
●リグロス®を使った再生療法の術式を解説する。歯肉弁の切開・剥離を慎重に行い、必要に応じて骨整形や根面処理を行う。症例1では、術後12週で根分岐部と遠心に歯周組織の再生像を認め、歯周ポケット深さは術前の6mmから術後36週で2mmに改善。歯槽骨の増加率は36週で105.94%だった。
小方衷ケ
文化
疫病の文化史
第7回 戦陣の熱病
●新約聖書の『ヨハネの黙示録』の騎士たちが象徴しているように、「戦争と疫病」は人類に下された最大の災厄であり、両者はしばしば密接に結び付いている。実際にも巨大な軍事行動は、多数の人々の集中と移動、非衛生的な生活環境、生命の尊厳に対する軽視などによって、常に恐るべき疫病の温床となっていた。古代から近代に至るまでの世界各国の歴史をひもとく中で、いくつかの悲惨な実例を拾ってみよう。
笠原 浩
続・まなざしの力
第10回 吉田勝廣(1)
「サーフ・サイド」の数奇な出会い
渡辺 考
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 493
インボイス制度と医療機関の対応
益子良一
雇用問題 237
明確な基準のないハラスメントをどう防止すればいいのか
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
書評
日本グラフィック・メディスン協会編『日本の医療マンガ50年史』
宇都宮健弘
VOICE
─8月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内