2022・No.1358
月刊保団連 1
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巻頭グラフ
アジア・アフリカ納豆を巡る旅
●納豆は日本独自の発酵食品ではなかった──。ノンフィクション作家の高野秀行さんはアジアやアフリカの辺境で多様な納豆に遭遇してきた。日本人におなじみの糸引き納豆だけでなく、種類、調理方法、食べ方もバラエティー豊か。その驚きに満ちたアジア納豆とアフリカ納豆を高野さんに紹介していただく(高野さんは今号の特集にも寄稿しています)。
高野秀行
「道」
「まず成長戦略」ではなく、分配を
住江憲勇
特集
驚きの発酵文化
●近年の健康志向の高まりに加え、新型コロナ流行をきっかけに健康維持のため食生活を見直す気運も高まり、発酵食品に注目が集まっている。とりわけ、日本は発酵食品が豊富で、味噌・醤油・納豆はもとより、ローカルな発酵食品までも、全国で知られるようになってきた。また、パンやチーズ、ヨーグルト、キムチなど、外来の発酵食品も定着し、食生活に彩りを添えている。ついつい胃腸を酷使し、「正月疲れ」になりがちなこの時期、新たな年の奮闘に向けて体を整えるためにも、発酵食品を上手に取り入れることは有益だろう。発酵によってどんなことができるのか、なぜ発酵食品は健康に良いと言われるのか。その驚きに満ちた発酵文化を垣間見る。
発酵パワーを生かす知恵
微生物の性質を知り抜いた伝統の技
●味噌、醤油、納豆など、日本人にとってなじみ深い発酵食品にとどまらず、発酵の技術は価値の低い物を価値ある物に変え、猛毒を無毒化するなど、まるでマジックや錬金術のように驚異的な力を発揮することがある。これらの発酵文化の中で、最新のバイオテクノロジー顔負けの特殊能力を発揮する超能力微生物も発見されており、医療分野などでの活用も期待されている。巨額の費用と多大な労力をかけて新しい技術を開発するばかりではなく、伝統的な発酵技術から新たな可能性を「発見する力」も重要だ。本稿では、長年にわたって発酵学に取り組んできた筆者が極め付きの発酵技術を紹介する。
小泉武夫
日本の発酵食品を支える麹菌
伝統のバイオテクノロジーと食文化
●発酵食品には、@食品の保存性を向上させる、A食材の旨味(うまみ)を引き出す、B食材の栄養価を向上させるなどの効能がある。和食の調味料のうち、酢・醤油・味噌の3つが発酵食品であり、3つとも麹菌と呼ばれるカビを使って生産される。和食の根本を支える麹菌は、生産性は高いが手厚い面倒見が必要な厄介なカビである。それを日本人は室町時代に純粋培養技術の確立とともに麹菌を飼(か)い慣(な)らすことに成功し、今日の食文化を築いてきた。
中島春紫
チーズに秘められた生命の力
●日本でチーズが本格的に作られるようになったのは、ヨーロッパから製法が伝えられた明治期以降のことだ。近年、日本人のチーズの消費は伸びており、伝統的な発酵食品にチーズなどの外来の発酵食品が加わることで、日本人の腸内細菌の多様性はより豊かになっていると言えるかもしれない。乳を発酵させるチーズの製造過程で、どのような栄養成分や機能性成分が生成されるのか。本稿では、健康維持の上で期待されるチーズの効用について、最新の知見も含めて紹介する。
齋藤忠夫
菌の多様性が生み出す発酵の力
──酒種を使ったパン作りを通して
●小麦と水、イースト(酵母菌)、塩をこねて作ったパン生地を発酵させて、焼いたものがパンである。近年、パン作りにおいて純粋培養された画一的な酵母菌が使われることが多くなっている。しかし、筆者は純粋培養の酵母菌に頼らず、天然酵母や、自家採取した麹菌で作った酒種を使うことで、オリジナルのパンを生み出してきた。なぜ、不安定で揺らぎのある野生の菌をあえて使うのか。本稿では、野生の菌による動的な発酵のダイナミズムや、さらに菌との関わりの中で見えてきた持続可能な社会のあり方について述べる。
渡邉 格
知られざるアジア・アフリカ納豆
時空を超えたワンダーランドへの誘い
●納豆は日本独自の伝統食品として考えられがちだが、筆者はアジア大陸やアフリカ大陸の辺境地帯を歩く中で、実に多様な納豆と遭遇してきた。日本の納豆のようにそのままご飯にかける糸引き納豆もあるが、炒め物や煮物などのダシや調味料として使われることも多い。中には、私たち日本人が抱いている納豆の概念を覆すような驚きの納豆も存在する。その豊富なバリエーションから何が見えてくるのか。そこには、時間と空間を超えた壮大なロマンが秘められていた。
高野秀行
診療研究
頭痛診療のコツ
〜一次性頭痛を中心に〜
第5回(最終回) 薬剤使用過多による頭痛の慢性化を予防
●頭痛診療では慢性化しないような対応が必要である。特に薬剤(急性期治療薬)の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)に陥らないように注意する。頭痛の頻度が高かったり、急性期治療薬の内服日数が多い場合は生活習慣の修正を指導し、予防薬を積極的に使用する。特に反復性片頭痛から慢性片頭痛にならないようにする。片頭痛、特に前兆のある片頭痛では喫煙やピルの内服で10倍ほど脳梗塞のリスクが上昇するので注意が必要である。
橋本洋一郎
特発性下顎頭吸収とは何か
●特発性下顎頭吸収は、成長期にもかかわらず下顎頭の著しい吸収・変形が生じ、下顎枝高の減少が生じる極めてまれな病態である。無痛性に進行することが多く、下顎枝高径の短縮に伴う下顎骨の後退や二次的前歯部開咬が顕著になって初めて歯科を受診することも少なくない。2009年に難治性疾患に認定され、発症機序や原因については不明な点が多いが、下顎頭吸収の進行を回避し重症化を防ぐためには、特発性下顎頭吸収を正しく鑑別する知識と検査体制の確立が不可欠である。
田中栄二
文化
病魔退散
──病と祈りのイマジネーション
第2回 民俗社会における習俗と玩具
●コロナ感染拡大の中、未知のウイルスは近代医学が発達した現代に生きる私たちにも、少なからず不安や混乱をもたらした。ましてや、感染症についての治療や予防方法が確立していなかった時代、疫病に対する恐れは比べものにならないほど大きかったに違いない。そして、こうした災厄を逃れるための切実な祈りは、豊かなイマジネーションによって表現されてきた。日本人は災厄とどう向き合ってきたのか。今回は「疫病芸術」として民俗社会における習俗や子どもの玩具(がんぐ)などから紹介する。
畑中章宏
Q&Aシリーズ
経営・税務誌上相談 496
帳簿書類の保存方法はどう変わるのか
益子良一
雇用問題 240
出産予定のスタッフの有給取得を断ったらパワハラと言われた
曽我 浩
会員
ドクターのつぶやき川柳
〈選者〉植竹団扇
VOICE
─11月号を読んで─
詰碁・詰将棋
編集後記・次号のご案内