【談話】コロナ禍で深まった歯科医療の危機打開のためにも 歯科医療費の総枠拡大と診療報酬の改善を求める

※全国保険医団体連合会は、2月9日に答申された2022年度歯科診療報酬改定について、下記の談話をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:302KB])

2022年2月15日
全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏

1.5回連続の実質マイナス改定、更なる歯科医療の役割発揮や医院経営の困難解消には不十分

厚労省は、昨年12月22日に2022年度の診療報酬改定率を発表し、技術料本体に相当する「診療報酬」部分は、+0.43%(「不妊治療の保険適用」などの項目を除いた真水部分+0.23%)とした。しかし、「薬価等(薬価、材料価格)」を-1.37%とし、ネット(全体)での改定率は-0.94%となった。安倍政権下で強められた医療費抑制が岸田政権でも継続され、薬価引下げ財源の本体への振替を一方的に反故にした5回連続のネットマイナス改定となる。

歯科では、これまでも一般診療の点数が低く抑えられており、基本診療料における医科・歯科間の格差是正や技術料の抜本的な点数引き上げが長年求められてきた。政府は、この間の「骨太方針」において、5年連続で歯科関連の記述を入れて「歯科重視」をアピールしていたが、2018年度の歯科改定率+0.69%、2020年度の+0.59%を大きく下回る+0.29%となった。

これでは、様々な疾患の重症化予防への寄与など、コロナ禍でより鮮明となった歯科医療の役割発揮を評価するには不十分である。また、もともと低歯科医療費による脆弱な歯科医院の経営基盤は、コロナ禍での患者の受診控え、院内感染防止対策による経費増などの影響により困難を極めている。その困難を解消し、より良い歯科医療提供を実現するには程遠い改定率である。

2.今後の新興感染症への対応も含めて、院内感染防止対策を基本診療料で評価

標準予防策および新興感染症への対策をふまえて、研修要件が見直され、初診料が261点から264点(+3点)に、再診料が53点から56点(+3点)に引き上げられた。中医協の議論では、支払側から院内感染防止対策は必要としながらも、基本診療料の引き上げには否定的な意見が出されたが、最終的には歯科医療機関での院内感染防止に係る対応が評価された。

ただし、今回の基本診療料の引き上げは、歯周基本治療処置(P基処)の廃止・包括による財源が原資となっており、単純にプラスに評価されたとは言い難い。今後の新興感染症を含めた院内感染防止対策に係る経費が十分に補填される評価となるよう検証と対応が必要である。

3.口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上などの観点から評価

地域の関係者との連携体制を確保しつつ、口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上を推進する観点で関連点数の対象患者、疾病、年齢などの要件が改善された。

例えば、口腔機能管理料では対象年齢が「65歳以上」から「50歳以上」に、小児口腔機能管理料では、「15歳未満まで」が「18歳未満まで」に変更され、より患者の状況に合わせた管理ができるように改善された。また、総合医療管理加算などでは、HIV感染患者が対象に追加され、実際の診療に不要な施設基準が廃止された。初期の根面う蝕に罹患した患者へのフッ化物歯面塗布処置では、在宅患者に加えて、65歳以上の外来患者にも対象が拡大された。

診療現場の実態に合わない不適切な取り扱いの改善などを求めた保団連要求が一部実現した。

4.かかりつけ歯科医機能の評価のあり方は引き続き検討・改善が必要

かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の施設基準では、歯周病重症化予防処置(P重防)が歯周病治療関連の実績要件に追加された。また、歯周病安定期治療(SPT)では、か強診が算定できるSPT(Ⅱ)がSPT(Ⅰ)の算定要件に揃えるかたちで一本化された。

SPTの一本化については、算定要件の整理を求めた保団連要求が実現した。しかし、SPT(Ⅱ)にあった「算定期間の短縮」や「(Ⅰ)に比べて高い点数」といった特徴は、例外規定やか強診加算などに形を変えた。改定前と変わらず、機能評価のあり方に不明瞭な点が問題として残存しており、引き続き、検討・改善が必要である。

5.診療の質と量を勘案して濃淡をつけた在宅歯科医療の評価に

在宅歯科医療を実施する歯科医療機関を増やす狙いもあり、在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の施設基準について、歯科訪問診療1および2の実績要件が、歯援診1は18回(+3回)、歯援診2は4回(-6回)に見直された。歯科訪問診療料では、診療時間が20分未満であった場合の70/100減算が見直され、歯科訪問診療1は80/100、2は70/100、3は60/100と濃淡がつけられた。この他、在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導管理料などでは、点数の引き上げとともに対象疾患や対象年齢の拡大がされた。

また、非経口摂取患者口腔粘膜処置100点は、110点(+10点)に引き上げられた。保団連として実態調査を行い、厚労省に改善を要請した成果である。

6.歯科用貴金属価格改定の見直しは「逆ザヤ」解消に向け一歩前進、運動の成果が実る

歯科用貴金属価格の随時改定が見直され、①現行の5%超の価格変動で実施する随時改定Ⅰと15%超の価格変動で実施するⅡを整理して、3カ月おきに改定すること、②現行では素材価格の参照期間が改定実施の3か月より前であったのが、2か月より前になり、改定実施時により近い価格が改定に反映されることとなった。

保団連では、「金パラ『逆ザヤ』シミュレータ」による実勢価格調査や会員署名、各協会と協力しながら継続的な厚労省要請を進めてきた。今回の見直しの内容は、保団連要求を取り入れた内容であり、この間の取り組みが実を結んだ。「逆ザヤ」解消に向けて一歩前進となる。

ただし、今回の見直しは現行制度の枠内での緩和策であり、引き続き金パラが適正に保険償還される制度改善が必要である。

7.マイナンバー制度の推進に反対する

オンライン資格確認システムを活用して、患者の薬剤情報等を取得・活用した場合の評価として、電子的保健医療情報活用加算(初診料+7点、再診料+4点)が新設された。政府はマイナンバーカードによるオンライン資格確認をマイナンバーカード普及策のため強引に進めてきた。そのシステムを使った医療情報の取得・活用を診療報酬で評価することは、医療費を使ってマイナンバー制度の普及・定着を推し進めようとするものであり、容認できない。保団連は、待合室でのマイナンバーカードの使用は個人番号漏洩のリスクを高めるとして、マイナンバーカードを用いた資格確認に反対してきた。オンラインでの資格確認や情報活用のシステム整備は、個人番号制度とは切り離して進めるべきであり、マイナンバーカードありきのシステム使用の評価は凍結すべきである。

8.今後に向けて

この間、全国の保険医協会・保険医会、保団連は、「歯科医療費の総枠拡大」を求めて、厚労省要請などの運動を進めてきた。また、「保険でより良い歯科医療を求める請願署名」の取り組みを行い、26万4,174筆が集まり、106人の国会議員が紹介議員となった。

私たちはこれからも、患者さんに寄り添った歯科医療を継続・発展できるよう、歯科医療費の総枠拡大と診療報酬の改善に向けた取り組みをさらに大きくしていく決意である。