問われる税制・安全保障

参院選 各党の政策

参院選では、コロナ禍で疲弊した医療・社会保障の立て直し等に必要な税制のあり方、9条改憲と軍備拡大に傾斜する安全保障政策の是非も大きな争点となる。岸田政権の対応と各党政策を解説する。

 

岸田政権は消費税減税を否定

法人税減税の穴埋めに

コロナ禍で落ち込む経済回復に向け、91の国と地域が消費税(付加価値税)の減税を実施・予定している。野党各党は生活必需品を含む物価高騰への対策として消費税減税が最も有効と主張している。

自由民主党の茂木敏充幹事長は6月26日のNHK討論会で「消費税引き下げで年金財源を3割カットしなければならない」と年金削減にも言及し、消費税減税を否定した。

消費税導入から34年間で消費税総額は476兆円に上る。その間、法人税は総額で324兆円、所得税・住民税も289兆円の税収減となった(図)

安倍政権下では社会保障のためとして消費税増税が2度実施された。消費税率が8%に引き上げられた14年に復興特別法人税が廃止され、法人税率(国税)は28%から25・5%に引き下げられ、その後、さらに23・2%まで引き下げられた。消費税増税分は社会保障ではなく、法人税や所得税・住民税減税の穴埋めに使われた形となった。

 

税制のあり方への態度に違い

参院選の各党公約では、税制のあり方や消費税減税への態度に違いが出ている。

自民党は25年までのプライマリーバランスの黒字化、財政健全化目標を堅持し、歳出改革努力を進めるとした。賃上げに積極的な企業への法人税優遇措置を強化するとした。

公明党は、これまでの経済・財政政策は、成長と分配の好循環、社会保障制度の持続可能性の確保、財政健全化に向けて一定の成果を上げたとし、経済再生と財政健全化の両立を図るとした。

立憲民主党は所得税最高税率の引き上げ、金融所得課税は累進税率を導入した上、総合課税化を掲げた。

国民民主党は、時限的に消費税減税とガソリン税の引き下げを求めた。

日本維新の会は消費税減税、中小企業の最低法人税率を15%とし、社会保険料減額等を掲げた。

日本共産党は法人税率を28%に戻し、所得税・住民税の最高税率、富裕層の株取引の税率を引き上げるとした。

れいわ新選組は、消費税・インボイス廃止、ガソリン税ゼロを掲げた。

社会民主党は、消費税3年間ゼロ、所得税累進課税を機能させ、法人税金融所得課税の見直しを掲げた。

 

防衛費倍増で財源5兆円

世界3位の規模に

政府・与党は、9条改憲、敵基地攻撃能力の保有を含む防衛費の抜本増強など軍事大国化の道を切り開こうとしている。

岸田政権は骨太の方針2022で、防衛費倍増(GDP比2%)を念頭に、5年以内に防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出した。22年度の防衛費は、約5兆4000億円と10年連続で増加しており、さらにGDP比2%以上へ防衛費増額には追加で毎年5兆円の財源が必要となる。

ストックホルム国際平和研究所が4月に発表した「世界の軍事費」によると21年の日本の軍事費は世界第9位。防衛費倍増で11兆円規模となれば、米国、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国となる。東アジア諸国との緊張関係をさらに高め、軍拡競争に道を開くことが強く懸念される。

自民党の茂木敏充幹事長は、参院選後に9条改憲を含めて「早期に改憲を実現したい」と発言しており、9条改憲や専守防衛の放棄で歯止めなき軍拡競争に進む恐れがある。

 

社会保障削減も

政府は、骨太の方針2022でもこれまでの医療・社会保障費の抑制路線を推進するとしている。一方で、毎年5兆円に上る「防衛費倍増」に関する財源はいっさい示されていない。

財源は、消費税などの増税、医療・社会保障などへの支出削減、赤字国債の発行しか選択肢がない。仮に医療費削減で捻出するとなれば患者窓口負担が現行の3割から6割に大幅引き上げとなる。約4000万人が受給する年金削減で賄う場合、一人年12万円の削減となる。消費税増税で財源を確保する場合、2%増税が必要だ。物価高騰、年金引き下げの中、医療・社会保障の削減につながる防衛費倍増方針は撤回すべきだ。

 

防衛力強化か外交努力か

自民は、敵基地攻撃能力の保有や、防衛費のGDP比2%以上への増額を念頭に5年以内に「防衛力の抜本的強化」の達成を目指すとした。

公明は、北朝鮮のミサイル技術の向上などに対応する必要性を指摘。9条を堅持しながらも、自衛隊明記の「検討を進める」とした。

立民は、防衛費は「総額ありきではない」とする一方、「日米同盟の役割分担を前提としつつ着実な防衛力整備を行う」とした。

国民は、専守防衛を前提とした「打撃力」の整備へ必要な防衛費を増額するとした。

維新は「GDP2%を一つの目安として増額を目指す」とし、米国との「核戦力共有」に関する議論を開始するとした。

共産は、防衛費の増額は「際限のない軍拡競争に陥る」とし、東アジア全域で集団安全保障の枠組みを構築するとした。

れいわは専守防衛と徹底した平和外交による周辺国との信頼醸成が重要としている。

社民は防衛力の増強や敵基地攻撃能力の保有に反対し、外交の力で平和を実現するとした。