国民巻き込み株価つりあげ アベノミクス回帰

アベノミクス回帰

政府は6月7日、2022年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。国民に資産運用するよう強調するが、賃金・年金改善こそ急務だ。

 

自己責任の勧め

骨太の方針2022では、投資による資産所得倍増を目指して、一定の株式売却益・配当は非課税とするNISAの抜本的拡充、個人で資産運用して公的年金に追加するiDeCo(個人型確定拠出年金)制度の改革、さらに「国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設」など総動員し、「貯蓄から投資へのシフト」を大胆・抜本的に進めるとした。年末に資産所得倍増プランを策定する。

元本割れの危険をはらむ金融投資により生活改善を行うよう求めるものだ。要は自己責任の勧めだ。

 

投資で生活改善は幻想

当初、岸田氏は自民党総裁選時に「令和版所得倍増」を力説し賃金倍増を期待させたが、「骨太」では、預貯金の資産運用を進める「資産所得倍増」に変質した。1億円を超える所得では逆に税負担が軽くなる金融所得課税の見直しも棚上げされている。

資産所得倍増は、投資に回すお金がない人には無縁な話だ。貯蓄のない世帯が13・4%に及び、貯蓄300万円未満の世帯は35・2%に及ぶなど(厚労省「国民生活基礎調査」、19年)、資産運用自体が困難である。

資産所得倍増と言うが、総務省「家計調査」(21年)では、単身者を含む平均的な勤労者世帯(年収5分位別の第3分位)は、年間実収入575万円に対し、資産所得に相当する「財産収入」は年1万弱である。これが2万円に倍増したところで、物価高やATM手数料などで吹き飛び減りさえする。むしろ金融リテラシーが低い国民に損失覚悟の資産運用を推奨する結果、生活が悪化した上、所得格差も広がる恐れが強い。資産所得倍増で生活改善は幻想どころか、国民をさらなる困難に追い込みかねない。

アベノミクスが開始された12年度から20年度にかけて、働く者の実質賃金は22万円減少した。安倍政権から現在に至るまで、年金給付水準の引き下げは実質6・7%(約4兆円)に及ぶ。他方、アベノミクスにより大企業の内部留保は133兆円積み増しされた。株価が上昇し資産家や大企業が潤えば皆が豊かになるとするアベノミクスの破綻は明らかである。

しかし、岸田政権は、株価つりあげを狙い、公的年金積立金や日銀資金だけでは足りず、国民の預貯金まで株式投資に投げ込む構えである。完全なアベノミクス回帰だ。大企業・資産家に応分な税・保険料、雇用負担を求め、賃金・年金改善を図ることこそが急務だ。