国際エイズ会議・カナダ

HIV/AIDS 再び危険水域に

 第24回国際エイズ会議(AIDS2022)が7月29日から8月2日、カナダ・モントリオールで開催されエイズウイルス(HIV)感染者、医師・歯科医師ら世界150カ国1万人が現地で、数千人がウェブ上で参加した。性的弱者LGBTIQ+の人々など「鍵となる弱い立場の人たち」(Key Populations)への支援策や、歯科関連、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)対策、サル痘(Monkeypox)等で最新知見が発表され活発に議論が展開された。(カナダ・モントリオールで杉山正隆 写真も)

対策の成果失われ数百万人に命の危険

国際エイズ会議は感染症における世界最大の会議。日本からは感染者・支援者や研究者ら約10人が参加した。1981年に米国で感染者が報告されてから40年が経過した2021年、国連エイズ計画(UNAIDS)の推計では、HIVに新たに感染したのは150万人、死者は65万人。死者は20年の68万人から微減だったものの、新規感染者数は横ばいとなり、年次報告書のタイトルも「危機的状況(In Danger)」になった。コロナ禍がHIVの感染予防や治療への取り組みに悪影響を及ぼしていると懸念を示したものだ。エイズの21年の総患者数は3840万人。うち67%に相当する2560万人がサハラ以南のアフリカに集中。次いで多いアジア太平洋地域(600万人)では新規感染者数が増加に転じた。
「コロナ禍によりエイズ対策は後退を続け資金も縮小。何百万という人たちの命が危険に曝されている」。「2030年にエイズ終結」としてきた国際的な約束がウクライナ戦争の影響もあり崩れつつある。「緊急に対策の再構築を図る必要がある」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は各国指導者に強く呼び掛けた。

U=Uが世界的流れに

「U=U」(検出限界値未満=HIVに感染しない)を強調する発言も相次いだ。抗HIV療法を継続することで、血中のウイルス量が200copies/mL未満の状態を6カ月以上維持する陽性者は(「Undetectable:検出限界値未満」)他の人に性行為を通じてHIV感染させることは一切ない(「Untrans
mittable:HIV感染しない」)と科学的に証明された事実を示す。IAS(国際エイズ学会)が声明を出し国連なども認めている。

日本は感染者減少、梅毒は急増

日本ではHIV新規感染者の減少は続く一方、梅毒感染者は急増しており、HIVと梅毒、またサル痘もCOVID‐19の影響との関連を指摘する声も上がる。梅毒は男性が大半を占め、2000年代後半から増加傾向だったが2015年ころからペースを強め女性の感染者も目立つように。
サル痘は接触感染が主で、特に男性との性的関係を持つ男性の間で感染が拡大するが、キスなど口腔からの感染リスクもある。偏見や差別が根深いエイズの歴史を思い出すべき、と指摘も上がる。コロナ禍で医療機関にかかりにくくなっているうえ、U=Uが一般化するに連れて、HIVに感染しても問題はないと危険な性行為で他の感染症に罹かる懸念がある。
新たなる感染症への対策は特に重要だ。COVID‐19対策でも後手後手に終始した日本政府は、「エイズでの失敗を活かす時だ」(ビヤニマUNAIDS事務局長)との発言を重く受け止める必要がある。