ブックタイトル医の倫理

概要

医の倫理

特別講演・731部隊の戦後と医の倫理っていたが、友好国としてのジェスチャーとしてソ連には尋問を許すことにした」という対応をした。非常に政治的です。そのための専門家として送られてきたのが、ノバート・フェル博士です。彼は石井たちに戦犯免責を約束して、非常に詳細な調査をしました。彼は３人に向かって、ソ連に何を話してよいか、何を話してはいけないかを事細かく打合せました。人体実験、ノミの大量生産、中国に対する実験については一言もソ連に漏らさぬように。またアメリカ側から指示を受けたということは、決していうなと。こうして石井らはソ連の尋問に応じましたが、ソ連は何も引き出せず、たいへん悔しい思いをしたということです。この時、フェル博士は石井の副官だった増田知貞から「人体実験は1933年から始められていた」ということを聞き出します。背陰河の東郷部隊から既に人体実験が行われていたことが明らかになったのです。そして増田の提案で、「19人の医師による60ページに及ぶ英文の人体実験リポート」が作成されました。しかしそれは、まだ発見されてはいません。こうやってフェルリポートが完成し、その間に病理標本8000枚も出てきました。それらを解明し、医学的文書をつくるために、次のエドウイン・ヒル博士とジョセフ・ビクター博士が送られてきました。こうしてアメリカの調査は一応終わりました。開業医として再スタートした増田知貞このように731部隊の軍医あるいは技師は誰一人として追求されず、戦後を生き長らえるようになりました。そのなかで、増田知貞という副官の戦後は非常に興味深いです。増田は終戦後の９月に自宅に戻ってくると、家族に「とにかく逃げなくてはいけない」といって千葉の辺鄙な田舎に引っ越しました。知り合いは誰もいなかったそうです。そこで民家を借りて開業しました。軍医は公職追放になっているので、大学には戻れず、開業するしか、他になかったのです。石井メモには、増田の住所、どうやってバスに乗りついでいくかという詳細や地図が描かれています。しかしある日突然、米軍のジープが現われて連行された。この時増田は「一生の別れだ」と家族に言い残して連れ去られていったのですが、なんと無事帰ってくる。そして「これでもう終わった、大丈夫だ」と家族にいった。恐らく、その時フェル博士の尋問が終わったのでしょう。それで「そのうち大学の教授になるつもりだ」とまでいっていたそうです。彼はオートバイを使っていたのですが、1952年、往診に出かける途中、彼のオートバイがトラックと接触して横転、51歳で亡くなりました。後のミドリ十字を設立した内藤良一内藤良一も戦後、大阪府茨木市に戻って開業しました。「その時に、緊急時にすぐ入手できる血液あるいは乾燥人血漿があればと臨床医の立場で痛感した」と後にミドリ十字の社史に書いています。それによると、元731部隊の二木秀雄軍医と、濾水機などの製作をしていた会社の宮本社長が訪ねてきて、３人でブラッドバンクの話をしているうちにすっかり意気投合し、「それではブラッドバンクをつくろうではないか」ということで話がまとまった。ところが、私が野口医師にお聞きしたところ、「内藤さんは実はGHQに言われてブラッドバンクを始めたんですよ」というのです。表向きには日本人が始めたようにしたが、実はアメリカが朝鮮戦争のためにどうしても血液が必要だったため「ブラッドバンクを始めよ」と内藤にいって会社をつくらせたのだということです。それが後に「ミドリ十字」になりました。そこに２代目部隊長の北野政次や、他の元731軍医などが顔を揃えるようになったということです。ちなみに石井四郎もなんとか仕事をしたいと思っていました。それで、どうも内藤のところに押しかけていったらしい。しかし内藤は「北野さんは謙虚な方ですから」と言って石井には断ったようです。ということは、戦後ここまでくるともう部隊長でも断ることができたということですね。中国から帰還した篠塚良雄その頃になると占領も終わり、抑留されていた731部隊員も中国やソ連から帰ってきました。そのうちの一人が篠塚良雄さんです。彼は中国人民解放軍に逮捕されて撫順戦犯管理所へ収容されましたが、下級部位ということで不起訴になったそうです。1956年８月に帰国。なんと32歳になっていました。彼が帰ってくると、部隊員が731部隊というのぼりを持って駅まで迎えに来たといいます。そして「部隊長に帰還報告せよ」という。篠塚さんが「なぜワシが帰還挨8