ブックタイトル医の倫理

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医の倫理

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医の倫理

特別講演・731部隊の戦後と医の倫理結局、石井メモには、医師として人間的に恥じるようなことをしたというような記述は何一つありませんでした。いかに戦犯から逃れるか、それに関してはいろんなことが書いてあります。ソ連のことも、アメリカのことも書いてある。サンダースもトンプソンも出てくる。しかし、どうして自分があんなことをしたのか、医師としての倫理については一言も書いていない。ところが石井四郎は晩年になって、上智大学の学長だったヘルマン・ホイヴェルス神父に洗礼を受けたという話があります。私がそのことをイグナチオ教会へ問い合わせたところ、「そういう記録はない」ということでしたが、禅問答をしたり、キリスト教に傾倒したということは、恐らく最後の最後になって気持ちが揺らいできたのでなかろうかと私は想像します。咽頭がんだということが分かった後かもしれません。享年67でした。日米ともに731の教訓を未来へこの取材を始めた翌年、2001年9月11日の後、炭疽菌事件が起きました。私はその時ニューヨークの貿易センタービルの近くに住んでいましたので、南タワーが崩壊するところを目撃し、1週間で1冊の新書『アメリカ崩壊』(文春文庫)を書きました。その後、まさか炭疽菌が入った封筒がテレビ局やワシントンの上院議員のところへ送られるなど、思いもしなかった。それで少なくとも22名が感染し、5名が亡くなりました。今も事件は未解決です。随分たくさん報道されましたが、結局、マレー・サンダースやアーヴォ・トンプソンを送ってきたフォート・デトリックの細菌戦研究施設の炭疽菌専門家、ブルース・アイバンス博士の単独犯行だということになりました。この博士も薬物で自殺を図っています。アーヴォ・トンプソンも自殺を図っていることを考えると、関係者には変な形で死ぬ人が多いように思います。アメリカには、731部隊についてかなりマニアックに調べたいと思う人が多いらしく、グーグルで「Unit731」「Shiro Ishii」を検索してみると、かなり詳しい報告が出てきます。私に来た最近の問い合わせで少しビックリしたのは、アメリカ合衆国国土安全保障省からのものでした。911の後すぐにできた大きな組織ですが、そこが石井四郎の「終戦メモ」を読みたいといってきたのです。私が「持ち主に連絡しなければいけません」といったら、それ以降何も言ってきていませんが。アメリカに住んでいると、こういうことがあったということでアメリカ政府は多くの文書を解禁にしています。にもかかわらず、日本政府は何もしていない。アメリカに住んでいると日本政府が過去を正視しようとしないので、忸怩たる思いがします。政府でなくとも、何かできることはあるのではないかと。たとえば、以前、難病等の研究をしているアメリカの医師が中国へ行って、glanders(馬鼻そ)にかかった中国人患者を治療したアメリカ人医師たちがいるそうです。これも731部隊で研究したものです。そこでアメリカ人医師は日本へ連絡をとって、日本の医者に協力してもらえないかと頼んだところ、けんもほろろだったと聞きました。連絡先が悪かったのだと思います。なかなかそういう医師たちとうまく繋がっていくことができない。しかし、日米の医師が協力して一緒に研究するなどといったことはできないものでしょうか。現在は既にそういう時代に入ったのではないかと私は思います。10