ブックタイトル医の倫理
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医の倫理
対談・青木富貴子氏×近藤昭二氏にも、何が手に入ったのかが詳しく列挙されています。19人の学者が書いたという英文のリポートもそうですが、まだ一つも出てきていない。青木アメリカ政府もまだまだ出していないということですね。香山日米がお互いに開示しないというところに、何か密約的な取り決めが介在している可能性もあるということでしょうか?青木アメリカでは、ブッシュになってからいろいろな文書が出なくなったんです。その後オバマになってからも同じです。日本の政府といちいち口裏を合わせて、ということまでは多分やっていないと思うのですが、その時々の体制によって「こういうものは全部出さない」ということになる可能性はありますね。特に日本政府はずっとそうです。近藤「出さない」と言わず「行方不明」と言うんですよね。もしくは「調査中」「確認中」という返事ばかりです。97年に、細菌戦の被害に遭ったという中国の被害者たちが日本政府に対し訴訟を起こしました。その判決で、細菌戦をやったという事実が認められた。既に時効が成立しているので賠償は認められませんでしたが、事実は認定したのです。その最高裁での判決文の中で、「これ以上の判断は、もっと高次な判断を国会の場で対処してもらう」という結論が出されました。ところが、法の世界ではそのようにはっきり認定しているのに、政府の方は全く何の動きも示さないという状態です。香山先ほどの鳥越さんが出てきた映像は10年くらい前のものですか?近藤そうです。香山あれを作製していく段階では、どのようなご苦労がありましたか?近藤肝心の政府の記録が出てきていないので、結局アメリカや中国、ロシアの資料で紐解いていくような作業でしたね。そうやって確定していくしかないところが一番苦労しました。青木日本側の資料は随分焼却されたんですよね。近藤ええ。陸軍省の美山要蔵という副官や、先ほどの朝枝繁春参謀が焼却命令を出していますね。2晩かけて焼いたという話です。香山資料を焼却したり建物を破壊しろと言ったということは、その当時から、これは倫理的に問題があるという自覚があったということでしょうか?近藤あったと思います。ただ研究者の習性として、あおき青木ふ冨き貴こ子氏貴重な記録や資料、データ、分析結果などはやはり残しておきたい。それでそうしたものは持って帰ったのだと思います。今も当時の研究者の自宅などに埋もれている可能性はあります。それを探すしかない。香山倫理的には違反だから消し去った方がいいけれど、「こんな貴重なデータを捨てるのはもったいない」という科学者的な心理が働いたことが幸いして、今もまだ見つかる可能性が残っているということですね。近藤これもまだ見つかっていないのですが、731部隊の内藤良一が提唱して研究会を設け、月末に731でいろいろな研究会をやっていました。それを論文化したものを「防疫研究報告」という形で毎月まとめていたらしいのです。そこに731の研究者が論文を出している。論文の内容にはランクがありまして、防疫研究報告第一部と第二部に分けられています。細菌兵器に関する非常に機密性の高い記録に関しては、外に見られちゃまずいということで第一部資料。その重要な論文が出てきていません。第二部の論文は800本くらいアメリカから出てきています。香山番組の中では、取材映像が終わった後にマンガ家の江川達也さん達がスタジオでトークしていますよね。今見ると割と自由闊達に意見を言っています。私もたまにテレビでコメントをしますが、今は本当にコメンテーターが萎縮していて、別に押さえつけがあるわけではないのですが、皆が忖度し合って無難な話になりつつあります。近藤あの世代の方たちは、ある程度の知識を持っていらっしゃいます。ところが今は一世代若くなって、それがちゃんと伝わっていないですね。香山それに加え、今はたとえ知識があってもそれを言えないというか、なんとなく政府批判みたいなことは言いづらい雰囲気があると思います。鳥越さんにして12