ブックタイトル医の倫理

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医の倫理

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医の倫理

歴史を踏まえた日本の医の倫理の課題こんどう近しょうじ藤昭二氏NPO法人731部隊・細菌戦資料センター共同代表「戦争と医の倫理」の検証を進める会世話人ているんですね。それを追求されていくと、朝枝参謀が言うように戦犯訴追の恐れがある。それを何としてでも押しとどめなきゃいけないというのが、アメリカの目的にも沿っていました。アメリカ側も天皇制は維持して日本の代替統治占領をする必要があったわけですから。それがずっと尾を引いていると思います。香山他の作戦ではなく、731部隊は特にターゲットだったということですか?近藤そうですね。青木特殊部隊だからね。香山医師だからということは関係ないでしょうか?近藤これほど多くの医師や技師が、倫理の問題があるにも関わらずにどんどんやってしまったというのは、一つは「大義」という問題があります。お国のため、科学の進歩のため、社会のためにやっていることだからという大義に保護されて、倫理の歯止めが切れてしまった。それは今でも同じことが起きているんじゃないかという気がします。医学の進歩のため、たとえば、臓器移植の可能性追求という大義が立てば…香山確かに、その時は勝手に良かれと思ってやっている治療でも、後で振り返ってみれば「間違っていた」ということはあり得ますよね。青木新薬開発などそうですよね。薬というのは所詮毒ですから、いくら有効な新薬が出ても、副作用に問題があって結局は回収されたりするわけです。要するに新しい薬を飲まされるというのは、ある種の人体実験ですよね。そういうことは日常茶飯事に起きています。日本でもアメリカでも。香山その時その時は「これが最先端の治療だ」とか「こうすることが患者および人類のためになるんだ」という風に思い込んで施すのですが、後に歴史を振り返ると、とんでもない人道違反だったということはいつの時代でもあり得ます。ただ、動機はともあれ結果に関してはきちんと受け入れ、反省と再発防止を考えなければ前に進めない。正論ですが、そうした部分はあると思います。しかしこの731に関しては、なぜここまで完全否定を貫こうとしているのか。政府の問題と医学界の問題が両方あると思いますが、日本という国としてはどのようなことが考えられるでしょうか?青木やはり石井四郎という人が、異常ですよね。彼がいなかったらこんなことは起こらなかったでしょう。私が恐ろしいと思うのは、何かものすごく強烈な意見を持つ人が突然現れた時に、そっちにスーッと引っぱられてしまうことです。現在の私たちが戦前の日本を顧みた時、「なぜ私たちの両親の世代は何もしなかったの?」と思うわけですが、実際はそんなことできなかったわけです。あの頃満州ではこれほどの人体実験が行われていたことも、内地の人は知らなかった。それを「そういう狂気が普通にまかり通ってしまうのが戦争だ」と言ってしまうと、そこで話がストップしてしまいます。戦争だから全て仕方ないと言ったら、何も進まない。今の日本をアメリカから見ていると、なんだかそういう状態になっているのではないかと思ってしまうのですが…。香山きちんと事実認定をしていくことは難しいのでしょうか?近藤戦後直後に、やはり学会で、このことはちゃんと検証しなきゃいけないという意見が出たことがあります。昭和27年の日本科学者学術会議で、第4部会の人たちが「細菌兵器使用の禁止を訴えることを決めたジュネーブ議定書の批准を国会に迫ろう」と運動を起こしました。しかし、当時はまだ石井の恩師にあたる戸田正三や木村廉などがいて、それを妨害したわけです。それで結局、何の検証もしないままに終わってしまった。その3年くらい前の学術会議でも、戦時中の医学問題をきちっと検証しようという動きがありました。ところがやはり、医学界の幹部等が「あんな馬鹿なことは今や実用的じゃありませんし、そんな研究はやらないでしょうから、もしやるような節があったら止めるように私がちゃんと勧告しますのでご安心ください」と言って打ち止めにしちゃうんですね。香山外の世界から見て、特に医学の世界でこれが起きたということと、医学の世界がそれをなかなか認めようとしないということについて何かお感じになります15