ブックタイトル医の倫理

ページ
23/48

このページは 医の倫理 の電子ブックに掲載されている23ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

医の倫理

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

医の倫理

歴史を踏まえた日本の医の倫理の課題オにもあった通りです。一方でアメリカはやっていなかったのかというと、アメリカも国内でいっぱいやっていたというのが次のスライドです。たとえば末期の患者さん、養護施設に入っている障碍児、アフリカ系アメリカ人の梅毒の患者さん、こういった人たちを使った研究が有名です。ただ、それらがバレて大騒ぎになったことから、連邦政府はインフォームド・コンセントや相互審査を制度化してきました。プルトニウムの注射実験は、90年代になって大騒ぎになりました。先ほど青木さんのお話にあった「クリントン政権の時にたくさん資料が出た」というのは、実はこれが大騒ぎになって当時の人体実験のデータや資料が一気に公開されたのです。それが9.11以降、一気にシャットダウンされましたので、状況によって変わるということにはそれなりの理由があります。末期患者を使ったことについて正当化が図られたのですが、実際には末期患者ばかりではなかったようです。表の黄色い網掛けをしたところは末期患者ではありません。生き長らえてずっと被爆を受け続けた方達がかなりいたということが分かっています。人体実験スキャンダルへの対応の違いそういった人体実験スキャンダルに対して、各国はどのように対応してきたか。ドイツは戦前から医学が発達していますので、そういった問題もたくさん出ていました。プロイセンの時代、それからワイマール時代にもこういった指針を出しています。アメリカも食品医薬品化粧品法をつくって20世紀から対応してきました。国際法の範疇では、ニュルンベルク綱領やEUの臨床試験指令などがあります。世界医師会のヘルシンキ宣言、国際医学団体協議会の基準など、専門職としての倫理指針も出ています。ちなみにヘルシンキ宣言は有名ですが、実は5つの医療倫理のうち、医学研究しか扱っていません。被験者保護というのは個人情報保護も含まれています。また、動物実験はもちろん苦痛を減らすことが必要だということで、これも研究倫理の中に入っています。「正しさ」の回復を皆さんもお分かりのように、日本では医学犯罪が裁かれてこなかったということが非常に大きい。今回のシンポジウムも本来なら医学会総会のまん中で行われるべきなんです。それは我々実行委員会がずっと働きかけてきたし、8年前の大阪の時からずっと働きかけているのですが、今回もまた逃げられました。だからまだまだタブーだといえますし、京大での展示も731関係は出してすぐ引っ込めるという状況が未だに続いています。それでいいのか?ということです。私は倫理屋ですので、やはりちゃんと事実を認めること、謝罪すること、償いをすることがない限りは、永遠に日本と日本の医学会は不正な状態のままです。しかもそういった状況の中で、「インフォームド・コンセントの取得や研究審査は被験者保護のためだ」ということを、国や医学部で教育する。じゃあ自分たちの先輩や先生たちが昔やったことは放っといていいんですか?日本の国と医学界は、医学研究倫理を語る資格なんて、まだ持っていないのではないかと私は思います。さらに、そもそも被験者保護が大事なんだということが伝わらない、分からないだろうということです。そして研究と診療の区別も分からないだろう。インフォームド・コンセントの取得や研究審査は、単なるめんどくさい手続き、足かせ、方便でしかないでしょうということです。では何のために過去の医学犯罪を検証するのか。それは、「誰のために」というところが大事だと思っています。この会場の中にもおられるかもしれませんが「731部隊などは全部嘘だった」とか「全部デマだ」とかいう意見が既にあります。しかし、別に被害国におもねって自虐しているわけではありません。それは実際に被害に遭った方たちのためであって、中国政府や韓国政府のためにやるわけではないのです。研究倫理や医療倫理の意義を分かっていただくためには、やはり、「正しさ」を回復するしかないという風に考えています。ご清聴ありがとうございました。そういった規制ができている以上、研究機関は危機管理の一環として研究を管理しなきゃいけないということも認識される必要があります。また研究者自身がそれを守らなければ、自分に跳ね返ってくるということでもあります。なお、私が当日映写したスライド最終版は、PDFにして、以下の私のサイトで公開しています。http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/user/tsuchiya/gyoseki/presentation/150412symposium.pdf21