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医の倫理

シンポジウムドイツの変化に影響を与えたのはではドイツの戦後の世論は、一貫して過去との取り組みを促してきたのかというと、必ずしもそうではありません。世論調査の統計資料などを見ると、どの時代も、過去との取り組みに関しては世論は分かれていました。「もういい加減やめろ」とか「まだまだやらなきゃいけない」という意見が伯仲しています。これは現在も変わらないと思います。しかし西ドイツにとって幸いだったのは、この問題に対して非常に感性の鋭い、これをきちんと政策として位置づけることのできる政治家が、登場してきたことです。ブラント、シュミットです。コールはどうでしょうか。彼は16年間首相を務めましたが、後半になってこうした問題に非常に積極的になっていきます。またドイツの過去の取り組みは、一国の事業ではありませんでした。これは非常に重要なことで、基本的に国際共同事業と考えていいだろうと思います。ユダヤ人に対する被害補償もそうですが、ドイツ人は自発的に補償しようとはしなかったのです。はじめはそんな余裕もなかったし、ナチ支配の被害者のことなどほとんど気にも留めていなかった。とりわけアメリカとイギリスの強いイニシャティブがあって初めて動き始めました。特に賠償について、ドイツは分断されていたために講和会議がなく、賠償問題に決着をつける機会がなかった。それにも関わらず、主権を回復する時には連合国から「補償政策をするように」と言われているんですね。。つまり、全体としてみれば補償政策は外圧によって始まったものなのです。ですから、日本のように外圧のなかった国と比べると、やはり状況が違っているというのは確かです。ただ、日本は結果的に外圧がなかったことをいい事に、積極的に何もしないまま90年を迎えてしまいました。元慰安婦の金学順さんが日本に来られたのは、そうした局面だったのだと思います。世代交代も大きな役割を果たしてきました。特に68年世代に至っては、親の世代を敵のように憎みましたね。68年世代の家族関係は非常に刺々しいものだったと言われています。親がナチでありながらそれを反省していないことを知った子どもが親の元を離れて…ということはよく聞きます。その時にできた傷は未だに癒されていないという話も聞いたことがあります。それくらい大きな亀裂が、あの時期、社会を貫いたということです。しかしその後は、若い世代の流れが次第に広がっていった。そして市民運動や新しい社会運動といった形で影響を及ぼしていくことになります。ドイツによる裁判と補償過去の克服には大事な2つの柱があります。1つは国内裁判です。もう1つが、被害者に対する補償。これが2つの柱で、これ抜きに過去の克服ということは普通は語られません。それに加えて、再発防止。あるいは歴史教育、歴史認識、メディアの問題というものが乗っかってくるということです。現在は裁判はもうほとんど行われていませんし、補償も大きなところは皆済んでいます。しかし補償問題は残っていますね。ユダヤ人以外の強制断種の被害者や安楽死殺害の犠牲者の家族に対する補償は、実は最近始まったばかりです。ここで一言申し上げますが、実はドイツはニュルンベルク国際軍事裁判の判決を受け入れていません。日本は受け入れて、罪人とされた人たちの恩赦を勧告する権利を手に入れましたが、ドイツはそういうことはないんですね。ドイツはこの問題に対して非常に首尾一貫しています。ニュルンベルク裁判は事後法による裁きであるため、国として受け入れられないという姿勢をとりました。歴代の政府がこの問題について発言したことはありませんが、何もしていないかというとそうではなく、ドイツはもともとあった刑法に基づく国内裁判を続けているのです。今のドイツは、ニュルンベルク裁判を受け入れるとは言いませんが、その精神はすばらしいという風に立場を変えています。国際刑事裁判所(ICC)が出来上がった原点にニュルンベルク裁判があるということをドイツも認め、積極的に国際刑事司法に貢献するようになっています。ですから、日本の政府のように、東京裁判を一方で認めておきながら今になってそれにクエスチョンマークを呈するような姿勢をドイツは取っていません。国民的な時効論争と司法訴追ドイツ刑法に基づいて行われた裁判で重要なのが、アウシュビッツ裁判(1963~65年)と呼ばれるものです。この写真は、裁判のようですが、実はアウシュビッツ裁判をモデルにした舞台劇です。アウシュビッツ裁判はたくさんの人が傍聴しようとしても中に入れないので、28