ブックタイトル医の倫理

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医の倫理

シンポジウムがあります。それにドイツでは98年に政権交代が起きたんです。シュレーダー新政権は従来の政策を転換しその結果、強制労働補償基金が実現したのです。連立与党となった緑の党も非常に積極的でした。ですから、それはたった十数年前のことです。それ以前のドイツの評価はそれほど高くありませんでした。日本でもちょうどこの頃に市民の運動が活発化し、中国の戦争被害者の要求を「支える会」などいろいろな活動がでてきて、裁判闘争もはじまりました。数年前の最高裁判決で、今はほとんど動きが止まっていますが、あれはやはりやるべきだったのだと思います。教育とメディアの変化ドイツの歴史学はもともと非常に保守的で、国家主義的な学問でした。戦後初期はとりわけ保守的な雰囲気が強く、ナチズムのことなんて一言も語らなかった。ところが60年代になって変わっていきます。フィッシャーという学者が保守派にも関わらず第1次世界大戦を克明に研究し、第1次世界大戦と第2次世界大戦の連続性を明らかにして、ナチズムが「突然変異」で生まれたわけではなく、ある種歴史の必然的な発展であるという風にドイツ史を見直す新しい視点を出しました。新しい「批判的歴史学」の潮流が、60年代の終わりに出てくるのです。こうした立場の人が裁判にも協力し、学校の先生の中にもどんどん増えていきました。そして70年代には「国史から批判的歴史学へ」という潮流が西ドイツで主流になっていく。そして、ブラントの東方外交のもとでポーランドとの教科書対話などが始まりました。日本と決定的に違うのはメディアです。新聞もラジオもテレビも映画その他も、メディアがこの問題を全くタブー視していない。しかし先ほどの話と同じで、タブー視されていた時期もずっとありました。それを破ったのが1979年、ケルンにある西ドイツ放送が4夜連続で放映したアメリカのテレビドラマ「ホロコースト」です。これは西ドイツ社会に大きな衝撃を与えたといってよいと思いますが、メリル・ストリープが主演で視聴率が非常に高かった。これを突破口として、タブーが破られていきました。「ホロコースト」の放映を巡って西ドイツでは議論が行われました。結局、放送する方向に舵を切ったことが、メディアの在り方を大きく変えていった。メディアがアジェンダを設定するという本来の目的を果たすようになっていったということです。ホロコーストで視聴率がとれるという雰囲気が生まれたんですね。人権問題を過去から学ぶ姿勢を終わりに、今日の午前中の話で「戦争が人を変える」ということが話されていました。私もそう思います。その通りです。それは否定できません。しかし、要するに戦争がなければいいんだ、平和が大事なんだというのが日本の絶対平和主義の考え方だと思いますが、ドイツの場合は、戦争と大量殺戮が両方起きてしまいました。この2つのことが同時に議論されるわけですが、後半の方に重きがおかれています。つまり、「思想やものの考えやイデオロギーが人を変える」ということです。ナチズムというのはレイシズムです。差別思想。これが戦争と同時に大量殺戮を可能にした。このこと自体をどのように考えるか。ナチの場合、レイシズムを徹底することによって人間の尊厳を完全に否定しました。当時はそういう考え方だった。ドイツでは、そこを反省する意識が非常に強いのです。戦争そのものはやむを得ないという考え方が、今もドイツではかなり強いです。だから日本の絶対平和主義はなかなか理解されません。我々から見ると、どうかなとも思います。「アウシュビッツを繰り返さない」といってコソボに軍事介入するということが実際に行われたように、必ずしもドイツの議論は平和的ではないのです。そういうところは我々がきちんと見ていかなきゃいけない。しかし、人権の問題を過去から学んだのがドイツなんですね。日本の戦前にも人権は確かにありましたが、部分的には非常に制限されていたし、小林多喜二に代表されるような人たちに対する弾圧をどう考えるのかということについて、日本の政府は一言も発言していないと思います。戦争はもとより駄目ですが、それと同時に進んだ人権弾圧の問題にも向き合わないといけないと思います。人間の尊厳を尊重するということについて、ドイツの憲法=基本法第1条に書いてあります。基本法第1条「人間の尊厳を尊重し保護することはあらゆる国家権力の義務である」。よその国の憲法ではありますが、憲法はそもそも為政者に義務を課すものです。安倍さんも勉強してほしいと思いますね。30