ブックタイトル医の倫理

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医の倫理

特別講演・731部隊の戦後と医の倫理特別講演1731部隊の戦後と医の倫理講演青木冨貴子氏私が『731石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』(新潮社刊)という本を出してから、かれこれ10年になります。私は731の研究を専門にしているわけではありませんので、今回の講演のお話をいただいた時にどうしようかと迷いました。しかし、ニューヨークから日本を眺めていると、日本は大変な時代にさしかかっているように映ります。東日本大震災があり、津波があり、福島の事故があって、中国や韓国との関係も難しくなっている。そんな中で、731と医の倫理について考える非常に真面目なグループがあることにたいへん感銘を受け、お引き受けすることにいたしました。刊に追い込まれ、米国に帰り着いたパウエル夫妻は国家反逆罪に問われ連邦裁判にかけられました。結局、彼らの裁判が打ち切られたのは、ロバート・ケネディが司法長官になった1961年以降のことです。パウエルさんは大変な努力家で、情報公開法を駆使し、20年かかって731部隊と米軍が取引した文書を発掘しました。とても温厚な素晴らしい男性で、2000年に私がサンフランシスコに伺っていろいろ話を聞かせてもらったところ、「何か新しい発見があるのかね?」と聞かれたんですね。「何か一つでも新しいものがなければ、1冊書くのは難しいよ」と。本当にそうなんです。ノンフィクションを書くという仕事は、何か発見があって初めて「これで書ける」と確信できる瞬間がある。この頃はそれを探すため、もう一度、石井四郎の足跡をたどってみようと思って、千葉県の加茂を訪ねてみました。石井四郎の故郷・加茂を訪ねるパウエル氏との出会い私が取材を始めたのは2000年です。その年にサンフランシスコでジョン・パウエルさんというアメリカ人に会いに行きました。彼は上海で「チャイナ・ウィークリー」という英語の週刊誌を主管されていたジャーナリストです。朝鮮戦争の頃、米軍が朝鮮戦争で細菌兵器を使い北朝鮮を攻撃したというニュースを中国から報道した人です。その細菌兵器は日本の731部隊が開発したものに酷似していて、米軍は日本の専門家を雇ったと報じました。当時の米国はマッカーシー旋風に煽られていますから、英字紙は廃成田空港のすぐ近く、今の山武郡芝山町にかつての加茂村があります。石井四郎はその地域の大地主の息子です。家は宮大工が造ったような素晴らしい豪邸だったそうですが、私が行った時には既に取り壊され、跡地はただの野原になっていました。石井は内地から優秀な医師や技師を集めて、満州の一大施設に送り込んだのですが、この村からも貧しい小作人の次男や三男坊、少年から、大工、左官屋、運転手やコックなど多くの人たちが送れたのです。ソ連が満州へなだれ込んだ70年前の夏、命からがらに帰り着いた村人たちは「731部隊の秘密は墓までもっていけ」という石井の言葉にしたがって、いらい貝のように口をつぐんで全く語らなかった。彼らは「隊長さん」と呼んで石井をあがめ、もう彼の力は絶対だったようです。2