ブックタイトル医の倫理

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医の倫理

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医の倫理

歴史を踏まえた日本の医の倫理の課題れる」と受け取られてGHQを通ったのだろうと思われます。第2文「其ノ権利ハ」「至上考慮タルベシ」現行憲法は「国民の権利は最大の尊重を必要とする」。先ほども言いました、考慮から尊重へ。国民の権利、人権の格上げが起きているように見えますが、実は見かけ上のものです。英文は同じ。第1文での人間性、人間の尊厳の格下げと、第2文での人権の見かけ上の格上げのために、人権尊重という言葉が日本国民の人権意識として定着してきたんじゃないか。その後いろんな各省の思惑があって、こういう風になってきたんだろうと思います。権利の制限について第2文にありますが、草案の仮訳は「一般福祉の限度内において、一切の法律および一切の政治的行為の至上考慮」。それが現行憲法は「公共の福祉に反しない限り、最大の尊重」となっており、「一切」という言葉を削除しています。公共の福祉あるいは最大という言葉を使って曖昧さを残したということになろうかと思います。人権を尊重するだけで、公共の福祉を拡大解釈できる現行憲法になってきた。このような憲法の下で、自民党改憲案が出されてきました。自民党改憲案・増補版Q&AのQ2と14を見ますと、天賦人権説を否定しています。人権を誰かが与える天賦人権説でなければ、誰かが与えるということになります。そして現行憲法の「全て国民は個人として尊重される」を「人として尊重される」にしている。一括りの人になってしまったわけですね。となると、対応させるのは、他の家畜よりはという意味合いかという風に受け取るわけであります。そして「公共の福祉に反しない限り、最大の尊重」というところ、「公共の福祉」が「公の秩序」に反しない限りになっています。曖昧な「公共の福祉」から、権利を与える者が決めるところの「公益および公の秩序」に変更したわけです。その中でなら、最大限に尊重してやるという形のものだと思います。これは、人権擁護の歴史に逆行する、世界の非常識だろうと思います。以上をまとめますと、GHQの草案から閣議決定をもとに変更してきた過程で、人権擁護ではなく人権尊重という低い人権意識が日本の常識になってきたのではないか。そしてさらに公共の福祉の曖昧さなどから天賦人権説を否定し、人権を尊重するだけの自民党改憲案という世界の非常識が呈されてきた。これは日本医師会の医の倫理の欠点を憲法に持ち込むことで、患者の人権問題を国民全体の人権問題にするという風にも捉えることができると思います。国民の人権を守るためには、人権意識の改革が必要です。それが患者の人権にもなるわけですが、具体的にいいますと、戦後の民主化、日本の民主化はポツダム宣言の時代から始まったと理解しています。ポツダム宣言には2つあります。軍国主義の撤廃と、民主主義の確立。それに伴って日本国憲法第9条、第13条ができてきました。国内の民主化運動は「反戦・軍事大国化反対」。医療界の民主化は、「戦時下医学の検討・反省を」という今回のような運動がありました。一方で民主主義の確立を求める運動は、人権尊重というものを常識と考えてしまって上手くいっていない。国内では「人権尊重から人権擁護へ」。医の倫理でも医療界の民主化を図らなければならない。これを車の両輪としてやらないといけないということでありますが、「人権尊重から人権擁護へ」とは具体的にはどういうことか。またカントに戻ります。日本カント協会に、私の考え方を見てもらったところ、意訳ではあるが誤訳ではないという意見をいただきました。永遠平和のために必要なものは、人権を守ろうとする国民、そのような国民を守るための民主的な国家、そのような国家を支援するための国家連合、という考えで国連ができてきました。支援するとはどういうことかというと、民主的な国家間の相互評価。IRBと同じく相互評価です。人権に関する委員会の勧告としてその結果が報告されますが、その内容は「世界の非常識に陥るな」ということです。たとえば日本への2008年の勧告、あるいは同様のものが2014年にも出されましたが、要は公共の福祉の概念が曖昧だと。この概念を曖昧にしないような立法措置をとるべきだということを勧告されているわけです。誰も国民はこれに気づいていないだろうと思います。自民党改憲案は、「公共の福祉」を「公益・政府益」と定義することを危惧して出されているようです。だから国民の民主化運動は「人権尊重から人権擁護へ」、勧告をもとに行なうことが必要ではないかということです。曖昧な「公共の福祉」への補足のための立法措置あるいは第13条を、GHQ草案英文または仮訳に改めるというような改憲が求められます。これは護憲のための改憲という風に理解できるかと思います。人権意識の改革とは、具体的には第13条に対する補足立法あるいは護憲のための改革です。これを軍国主義の撤廃および民主主義の確立を車の両輪として、民主化の運動をやらなければいけない。そのモットーにするのが「人権尊重から人権擁護へ」という意識だろうと思っております。以上です。ありがとうございました。43