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中央社会保険医療協議会
会 長 遠藤 久夫 様
各委員       様


2009年12月9日
全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏

平成22年度歯科診療報酬改定への意見と要望


  謹 啓 
貴職の日ごろよりのご尽力に感謝申し上げます。
私ども全国保険医団体連合会(保団連)は、第一線を担う医師・歯科医師10万3千人の団体(内歯科保険医3万8千人)です。
さて、06年の診療報酬改定では歯科医療は「医療費の配分の中で効率化余地があると思われる領域の評価のあり方について検討する視点」に組み込まれ、この位置づけで改定が行われたことから、今日の歯科医療崩壊という事態を生じさせました。
一方、平成22年度診療報酬改定に向けた審議では、11月25日の社会保障審議会医療保険部会、医療部会に提示され、大筋了承された「平成22年度診療報酬改定の視点等について」では、「充実が求められる領域を適切に評価していく視点」の中に歯科医療の充実が位置づけられ06年改定とは歯科医療の位置づけが大きく変更され、同日の中医協・診療報酬基本問題小委員会に厚生労働省から、主な検討項目例として「歯科診療報酬について」が提示されました。
今後、歯科診療報酬改定に向けては、社会保障審議会で了承された「平成22年度診療報酬改定基本方針」と11月25日の診療報酬基本問題小委員会の「歯科診療報酬について」に基づき具体的な点数や算定要件等が中医協に諮問されるものと推察します。
つきましては、国民の生活の質の向上を目指す歯科診療報酬改定につきまして、当会では以下のような「意見と要望」をまとめまさせていただきました。次期歯科診療報酬改定の資料としてご高配賜りますよう、要請いたします。

「歯科診療報酬について」に対する意見と要望
1.「在宅歯科医療の推進」について
@在宅歯科医療については、「歯科医療の必要性と実際の受診に大きな隔たりがある」にもかかわらず歯科訪問診療を実施している医療機関は残念ながら減少しています。
これを、推進する上での障害は、設備、機材、人員確保、時間的負担等に対する診療報酬上の評価が低いことにあります。
A歯科往診料が廃止され、歯科訪問診療料を「常時寝たきりの状態」の患者とその対象を著しく制限したことで患者の要請に応え歯科医療機関が柔軟に対応することを困難にしています。
また、時間要件で歯科訪問診療料の算定がなされることは、患者の側からすれば同じ診療でもかかった時間で負担が異なることなど矛盾を抱えています。
B後期高齢者の在宅歯科を担う在宅療養支援歯科診療所は歯科衛生士の配置など施設基準のハードルが高く設定され、口腔機能管理料の評価を半分以下に引き下げられたため、これまで在宅歯科を行っていた多くの歯科医療機関を在宅歯科から遠ざける結果を生み出しています。
C病院歯科については、歯科医療機関が積極的に訪問歯科診療を行う上で、後方支援の機能を有する病院歯科との連携は不可欠です。しかし、現状では病院歯科の施設基準のハードルが高い割には、評価が極めて低いため、病院歯科は不採算となり減少に歯止めがかかっていません。
D地域における介護関係者等との連携促進の面では、介護保険では口腔機能の維持管理などでの評価があるが、これらは歯科医師、歯科衛生士に対する評価ではありません。医療保険、介護保険における口腔管理などに対して歯科医師が参画しやすい環境の改善が求められます。
以上のことから「在宅歯科医療の推進」に向けては、以下の診療報酬上の方策が必要です。

1.歯科の往診料を復活する。
2.往診料が復活しないなら、歯科訪問診療料に包括された初診料、再診料を平成20年改定前の取り扱いに戻す。
3.人数や時間による訪問歯科診療料の算定要件を廃止する。
4.訪問歯科診療における50/100の加算の対象を限定しない。
5.「常時寝たきり状態」との歯科訪問診療の規程を削除する。
6.在宅療養支援歯科診療所の施設基準及び後期高齢者在宅療養口腔機能管理料を廃止し、老人訪問口腔指導管理料を復活する。
7.地域歯科診療支援病院の人員配置の施設基準を大幅に緩和し、地域歯科診療支援病院歯科初診料、再診料の評価を抜本的に引き上げる。
8.医科医療機関、介護関係者と文書による情報提供を行った場合の評価を新設する。
9.口腔機能の維持管理などを担う、歯科医師、歯科衛生士の評価を新設する。

2.「障害者歯科医療の充実」について
障害者の口腔衛生指導は一般の患者に比べてはるかに、本人、家族に対する説明と協力を得るための手間と時間の考慮が必要です。また、病院を受診する障害者は重篤な場合が多々あります。
障害者を受け入れられるための病院歯科での経済的基盤整備など、特別の強化をすることなしには、障害者の受け入れは困難です。
以上のことから、以下のような診療報酬上の評価が必要です。
1.障害者へきめ細かく、また、頻繁に指導管理を行うため障害者の口腔衛生指導料の新設とともに、機械的歯面清掃についても評価する。
2.歯科治療が困難な障害者を受け入れる病院歯科に対する評価として、障害者加算を新設する。

3.「患者の視点に立った歯科医療」について
患者への情報提供については、過去の中医協の患者調査でも、全て文書による情報提供でなく口頭でも十分との意見があり、歯科医療の提供側でも患者の病態によっては口頭等での説明のほうが、患者の理解が得やすく効果的である場合もあるという臨床現場の実態にも配慮することも有効な指導を行ううえで必要です。また、算定回数や算定時期を画一的に規定してしまうことは、歯科治療の実態からも乖離しています。
以上のことから、「患者の視点に立った歯科医療」の実現に向けては、以下のような見直しが必要です。

1.患者が望む情報提供については、患者により分かりやすくするために、難解な歯科用語については見直しをはかり、的確に理解が図れるものに見直す。文書作成に当たっては本来必要とされる治療時間等に支障をきたさないよう、医療機関への過度な負担とならない内容に配慮するとともに、指導管理に関しては大幅に評価を引き上げることが必要です。
また、厚労省発出の告示・通知についても文言をわかり易く改善する。
2、患者への情報提供については、歯科疾患管理料や義歯管理料の算定要件から除外する。
3、患者に情報提供を行った場合は、指導管理料とは別に情報提供料の評価をする。

4.「生活の質に配慮した歯科医療の充実」について
高齢社会におけるブリッジ、有床義歯の需要は拡大しており、その役割は重要であることは言うまでもありませんが、良質な補綴物の作成と修理を行う歯科技工士の技術と労働の正当な評価が必要です。
歯科医療機関での歯科技工士の雇用はわずか13%、20歳台の8割が離職という状態が放置されており、歯科技工士の確保、育成は、高齢社会における「生活の質に配慮した歯科医療の充実」が極めて重要です。
以上のことから、生活の質に配慮した歯科医療の充実に向けて、以下の診療報酬上の評価が必要です。

1.歯科技工士を雇用している歯科医療機関に対して加算などの評価を行う。
2.患者の咀嚼機能を短期間で回復できるような義歯の修理を評価する。
3.口腔の状態が安定せず、変化をしやすい小児の義歯については、6ヶ月以内での再作成が可能なように改善するとともに、小児義歯の適用範囲を拡大する。
4.咀嚼機能の改善に義歯(床)型の口腔内補助床を用いることにより、咀嚼機能の改善が図られることは臨床上明確なエビデンスがあることから、咀嚼機能改善治療のための評価をする。

5.「歯科固有の技術の評価」について
@前回改定で導入された新規技術については「現状と課題」で指摘されているように、設備、材料や技術の難度が診療報酬で評価されていないことが普及を困難にしています。
技術の重要度、難易度、必要時間等を考慮した評価の見直しを行い、長期に亘って据え置かれてきた日常診療で行われる技術を正当に引き上げることが必要です。
A「現行の診療報酬上の評価」で示されている歯周疾患治療などは、2回目以降の評価の復活は臨床に即しているものの、従来より評価が低く、2回目以降の治療技術についても評価を高めることが必要です。
B「実際の義歯の調整回数等の診療の実態に合った評価」と義歯の調整料と管理料についても別々の評価にするなど診療の実際に即した見直しが必要です。
C補綴物維持管理料は、施設基準を届け出ない場合は、加圧根充加算、補綴に関わる一連の診療報酬が30%もカットされるというペナルティがあるため、98%の医療機関が届けざるを得ないというのが実情です。更に補綴物の2年間の再製作が事実上禁止されたため、歯科技工所(士)の経営は厳しさをましています。
D口腔内写真検査や補綴物維持管理料の簡素化を図ることの目的が、個々の診療行為の評価を実質的に評価をなくすよな包括を意図したものであるならば賛同しかねます。
E医科・歯科共通の医療技術のうち、医科診療報酬の検討と並行して検討するべき評価では、医科のエックス線時間外加算のように算定できるものが、歯科で算定できない項目の見直しの検討が必要です。
以上のことから、「歯科固有の技術の評価」については、以下のような診療報酬上の評価が必要です。

1.新規技術の保険導入にあたっては、普及が図れるよう技術料、材料料を適切に評価して導入を行うとともに、導入後、技術料、材料料等が低いために普及がすすまないものは、適切な評価に引き上げる。
2.長期(20年〜30年)に亘り据え置かれてきた、処置、手術など日常診療で頻繁に行われている基礎的技術料については、重要度や難易度、必要時間などを勘案した上、評価の引き上げを行う。
3.歯周病安定期治療は、必要と認められる患者には算定できるようし、病状に応じて月1回の算定を認め、算定期間制限をなくし、1年ごとに評価を下げずに大幅に引き上げる。
また、歯周治療用装置は、咬合回復の安定のために、歯周治療全般において不可欠なものであるため、算定要件を限定せず、必要と認められる場合は使用できるようにする。
4.有床義歯の治療については、有床義歯の調整と指導管理を別々に評価する。
義歯調整については、回数制限を設けず、必要に応じて行ったものはその都度算定できるようにし、1か月以降に行った義歯の調整評価についても引き下げない。
5.口腔内写真検査を簡素化の名目で包括するなど包括の拡大は行わず、個々の治療行為の技術と労働を適正に評価する。
6.補綴物維持管理料については、補綴物の2年間の再製作禁止及び施設基準を廃止し、補綴分野の技術料としてその財源を活用する。
7.レントゲン撮影の時間外加算のように、同じ検査・診断・診療行為で、医科において算定できるものについては、歯科でも同様に算定できるようにする。