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2020年度診療報酬改定特集

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2020年度診療報酬改定に関する医科談話

※全国保険医団体連合会は、2月7日に答申された2020年度医科診療報酬改定について、下記の談話をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:277KB])。


【談話】機能分化を強化し、「かかりつけ医機能」拡大を推進するマイナス改定

 

2020年2月12日
全国保険医団体連合会
副会長 武村 義人

1.4回連続の実質マイナス、物価・人件費の上昇にすら届かない改定
 今次改定は、本体部分を0.55%引き上げたが、そのうち0.08%を「救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応」とし、一方薬価は0.99%、医療材料価格は0.02%引き下げ、診療報酬全体の改定率は、0.46%のマイナス改定である。
 重大なことは、薬価引き下げ分の診療報酬本体への振り替えという従来の原則が、なし崩し的に形骸化されていることである。最低限、薬価財源は、本体部分に完全に充当し、物価・人件費の上昇に見合う水準を確保すべきである。
 直近の「第22回医療経済実態調査」結果では、病院では赤字基調が続いているとともに、医科・歯科診療所とも経営の改善が見られず、依然として医療・歯科医療従事者の給与水準も低い状況に留まっていることなどが示されている。
 今後高齢化なども背景に、複合的な疾患様態や様々な生活背景を抱える患者が増え、プライマリケアを支える地域の医療機関の役割発揮が求められている。またより多くのマンパワーを要する在宅医療に参入する医療機関を増やすことが喫緊の課題となっている。
 これらの課題解決のためには、医療従事者の人件費を保障し、患者・国民に提供される医療の質を担保する診療報酬の役割がますます重要である。しかし本体0.55%引き上げは、この間の物価・人件費の上昇にすら届いていない。保団連は改めて国民医療を守る立場から診療報酬の大幅引き上げを要求する。
 なお、極端に短い周知期間について「現在の改定の状況は大変異常で、社会的にみても非常識」だと訴えてきたが、現在まで目立った対応はなされていない。少なくとも改定後の混乱が生じないように対応することを強く要求したい。
 改定内容の詳細な分析と評価は、正式な告示・通知等を踏まえてあらためて行うが、現時点での主要な特徴と問題点を指摘する。

2.「かかりつけ医機能」の一層の明確化と算定要件の緩和
 外来では、初・再診料は据え置かれる中、「かかりつけ医機能」の一層の明確化と、更にすそ野を広げる改定が行われる。
 病院外来の専門外来化(一般外来縮小)に向けて、紹介状なしの大病院の受診時定額負担の対象病院を拡大する。地域医療支援病院については、許可病床400床以上から一般病床200床以上に広げる。ほぼ全ての地域医療支援病院が対象になり、新たに約250病院が増える。地域における外来医療のアクセス確保が危惧される。
 地域包括診療加算では、時間外対応加算Ⅲの届出でも要件を満たすこととされ、対象医療機関が拡大される。小児かかりつけ診療料と小児科外来診療料の対象患者は3歳未満から6歳未満に拡大された。他方、機能強化加算の届出に伴い必要な院内掲示に「専門医への紹介を行う旨」の追記と、掲示内容を記した書面を配置し、患者の求めに応じて交付することとされた。小児科外来診療料も届出が必要となる。「かかりつけ医機能」の周知・普及を更に進める狙いであるといえる。診療情報提供料Ⅲの新設は評価できる側面もあるが、「かかりつけ医機能」の評価点数を届け出ている場合などに限定された。全体として、「かかりつけ医機能」拡大中心の改定となっているが、依然、医療現場の実態に見合った評価とは言い難く、基本診療料含め医療機関全体の底上げを図る評価が必要である。

3.妊婦加算凍結の教訓を踏まえより一層の評価充実を求める
 凍結中の妊婦加算は、点数表より削除され廃止することとされた。しかし、妊婦の診療に対する診療報酬上の特別な手当が医科歯科問わず必要である。「妊婦がより一層安心して医療を受けられる体制の構築」実現のため、更に評価を充実させるべきである。
 他方、妊婦の診療に関わって、窓口の負担軽減策がないことは問題である。「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」の議論の取りまとめでは、「妊産婦が健診以外で医療機関を受診する際の負担が、これから子どもをほしいと思う人にとって、ディスインセンティブとならないようにすることが必要であり、他の受診者との均衡や政策効果といった点を勘案し、引き続き検討すべきである。」と指摘しているが、そのためには、妊産婦が安心して医療が受けられる環境整備として、国による妊産婦医療費助成制度の創設が必要である。

4.維持期リハビリテーション廃止に伴う問題への抜本的な対応を求める
 2019年3月末で要介護被保険者等の外来維持期リハビリテーションが廃止された。しかし、リハビリの現場では、介護保険による維持期リハとしての受け皿として想定されている通所リハ施設においても「PT、OT、ST の確保が困難」、「現状の介護報酬での評価では採算が取れない」などから、大多数が事業所の立ち上げを躊躇している実態が報告されており、受け皿の拡大がなされていない。更に、介護保険での維持期リハの利用状況の面でも、特に高齢者においては継続的なリハがADL維持に極めて重要な意味を持つ中、「介護保険の維持期リハでは、要介護者等に対する給付額が決まっており、リハが必要と医師が判断してもケアプランに位置付けられなければ実施できない」、「ケアマネの介入により優先順位が後回しになるケースが多く、対応に苦慮」など関係職種との意思疎通に手間取り、迅速なリハ実施が困難となっている実態も報告されている。昨年本会はアンケート調査を実施し改善を強く求めたが、中医協で検討されることなく廃止が明確化されたことは遺憾である。引き続き実態把握と抜本的な対応を求めるものである。

5.若干評価改善も依然低すぎる有床診の評価
 有床診については、地域で担う役割を踏まえ評価が改善される。入院患者受け入れを評価する一般病床初期加算は点数が50点引き上げられるとともに、算定期限が7日から14日まで延長される。手厚い体制を評価した医師や看護配置、夜間看護や看護補助者に係る加算も点数が各々10点~30点前後引き上げられる。しかし、有床診は、基本的に病院と同等の施設基準を求められるにも関わらず、一般病床で病院の4割減の入院報酬と入院医療の評価が低すぎる問題が依然として大きい。入院基本料の大幅な引き上げが必要である。

6.入院医療の機能分化の強化
 入院では、入院医療の機能分化の強化が目立ち、旧7対1看護に相当する急性期一般入院料1について、「重症度、医療・看護必要度」における該当患者割合がさらに引き上げられ、絞り込みが行われる。また、勤務医の負担軽減を要件とした「地域医療体制確保加算」が新設されるが、救急搬送数が多い大病院中心の評価となっている。
 地域包括ケア病棟は、入退院支援や地域連携業務を担う部門の設置や、自宅等からの入院割合の引き上げ、在宅医療等に関わる実績要件(選択要件)が増やされるなど、在宅復帰・在宅療養を支援する機能の大幅な強化が図られる。外来・入院に比べ多くのマンパワーを要する在宅医療をはじめ、地域に密着した様々な機能を求める以上、人員の確保・養成も含め診療報酬等における十分な手当てが必要である。
 回復期リハビリ病棟では、入院料1及び3の実績基準が引き上げられるなどアウトカム要件の強化が図られる。
 療養病棟では、経過措置病床1(25対1以上20対1未満)は2年間延長されたものの、減算幅が10%から15%に拡大され、2022年度改定時に経過措置の終了時点を検討するとされた。経過措置病床1は依然173病院(8,631床)あり、行き場のない療養患者が生まれないよう、医療現場の実情に即した柔軟な対応を行うべきである。

7.オンライン診療の拙速な対象拡大等は行うべきではない
 「オンライン診療」の対象拡大、施設基準要件の緩和が示された。具体的には対象疾患として慢性頭痛の追加、在宅自己注射指導管理料で特定疾患療養管理料の対象にもなっている疾患を対象とする、及び6カ月の対面診療要件を3カ月に短縮するなどである。
 しかし、点数が新設されてから2年も経ない状況にもかかわらず、改定実施直前の12月に対象疾患追加や要件緩和の提案では十分な検討には無理がある。また、慢性頭痛については、機器を用いたオンライン診療を実施する必要性が十分明らかにされたと言えるのか疑問であり、拙速な対象拡大等は行うべきではない。