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混合診療解禁で医療はどうなるのか(上)
株式会社参入など医療市場化と一体のもの
 小泉首相は、経済財政諮問会議などに「混合診療解禁の方向で年内に結論を得る」ことを指示、臨時国会開幕日の10月12日には、所信表明で改めて混合診療解禁を明言した。混合診療解禁とは何か、それを要求しているのは誰か、実施されると医療はどうなるのか、実際に行われている保険外負担はどうすべきか、など2回にわたって考える。
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混合診療の解禁とは何か

 混合診療とは、初診から治療終了までの疾病に対する一連の治療行為の中で、保険診療と保険外診療(自費診療)を併用することである。現行の医療保険制度のもとでは、原則禁止されている。
 健康保険法は、保険者は被保険者に対して医療サービスそのものを提供するという考え方を取っている。
 法文では「療養の給付」と規定され、一般的には「現物給付」と呼ばれている。(実際には、保険者は直接医療を提供できないので、医療機関にそれを委託している)

 医療サービスを保険で丸ごと提供することから、論理的に、その中には保険適用が認められていない治療行為や検査、薬などは含まれてはならない。したがって、図1の(1)のように、保険外の治療行為を併用して、その部分の費用のみを保険外負担として患者から徴収することは、違法となる。併用する場合は、すべてを自費診療扱い(全額患者負担)にしなければならない。
 この現物給付の原則のもとでは、図1の(2)のように、通常の保険診療において、法律で定められた一部負担金以外に割増料金などを患者から徴収することも禁止されている。
 低診療報酬のもとで苦しめられている医療担当者の中には、混合診療の禁止という原則に不合理を感じている方もいるだろう。しかし、この原則は、医療保険によって必要な医療を保障し、国と保険者はその責任を負っている、という理念によるものであり、憲法25条にもとづく社会保障としての皆保険制度を支える重要な原則である。
 なお、医療保険は疾病の治療を対象としているので、この原則は、医療機関が提供するものでも、それ以外の予防接種や健診、生活サービスなどについては適用されない。

例外規定が特定療養費制度

 原則禁止されている混合診療を法律で例外的に認めているのが、1984年の健保改悪の際に導入された特定療養費制度である。
 同制度は、高度先進医療と選定療養に分かれている。
 図2が、仕組みである。
 保険から給付される網かけ部分が、特定療養費である。その名称の通り、前述の「療養の給付」とは異なる療養費という費用の支給である。費用であるために、実際の療養に要した費用が特定療養費の額を超えた部分は、患者からの徴収(保険外負担)が認められる。特定療養費は、法律で「自己の選定」という患者の選択が原則とされている。
 導入当初、高度先進医療以外は、差額ベッド、歯科材料の2種類であったが、その後、診療報酬改定のたびに拡大され現在では、予約診療、金属床総義歯、薬事法による治験など13種に及んでいる(表1)。
 特に問題なのは、180日超入院の保険外負担である。厚生労働大臣が定める除外規定はあるものの、180日を超えた日以降の入院基本料が15%カットされ、そのカット分とプラスアルファの保険外負担の徴収が認められる。しかし、180日超の入院は、「自己の選定」であろうか。
 特定療養費制度は、導入当初、高度先進医療といわゆるアメニティ部分を対象にするものと説明されてきた。しかし、その後の事態は、厚生労働省の拡大解釈により同制度自体が変質され、保険給付削減の手段とされていることを示している。

混合診療解禁を要求する勢力

 混合診療解禁をめぐる議論の主な舞台となっているのは、経済財政諮問会議と規制改革・民間開放推進協議会である。
 経済財政諮問会議は、小泉首相が議長を務め、財務相、経済財政担当相などの5閣僚と日銀総裁、4人の民間議員で構成されている。民間議員の中には、奥田碩日本経団連会長、本間正明大阪大学教授などが名を連ねる。
 内閣改造後、初めて開かれた10月5日の会議では、民間議員より「今後の課題」が提示され、混合診療解禁については「解禁の方向で年内に結論を得る」方針を確認している。
 規制改革・民間開放推進会議は、8月3日に発表した「中間とりまとめ」で、「平成16年度中に措置」として「『混合診療』を全面解禁すべき」と提起した。
 同会議の議長は、宮内義彦オリックス会長である。オリックスグループは、傘下に生命保険会社を抱え、「入院保険fit(フィット)」を販売している。フィットは、「一生涯の入院保障」を掲げ、最近では「業界初、60歳以降、入院保障が3倍に拡大!」を売りにしている商品である。
 こうした事実からも明らかなように、混合診療の解禁は患者・国民の切実な要求から提起されたものではなく、もっぱら財界サイドからの要求によって、持ち出されたものである。

財界の要求とは何か

 財界の要求とは、何であろう。
 第1に公的医療費の縮小である。
 約31兆円の国民医療費のうち、保険料として事業主が負担している額は6兆7千億円である。この負担軽減をねらう財界は、保険給付を縮小し患者負担に転嫁したいわけである。
 その有力な手段が、混合診療の解禁である。9月21日に日本経団連がまとめた「社会保障制度等の一体的改革に向けて」と題する提言では、「保険診療と保険外診療との併用(いわゆる『混合診療』の容認)」の項を起こし、「公的保険の守備範囲は必要不可欠なものに重点化すべき」と提起している。要するに、保険診療は、最低限の医療サービスに抑えるべきという主張である。
 第2の要求は、医療分野での利潤追求である。
 株式会社が医療機関経営に参入しても、低診療報酬のもとでは利潤をあげることはできない。だからといって、診療報酬の引き上げは第1の要求に反する。そこで必要なのが、患者からの保険外負担徴収の自由化である。さらに、患者負担の増大は、民間医療保険の市場拡大にもつながる。
 前述の日本経団連の提言は、「公的医療保険の守備範囲を見直していく中で、医療・保健サービス分野において民間活力が発揮できる環境をあわせて整えていくべきである」と提案している。まさに、混合診療解禁と株式会社の医療機関経営参入などの医療の営利市場化は一体のものなのである。

〈続く〉

※次回は、混合診療解禁のために健保法改定は必要か、国民医療や医療機関はどうなるのか、などについてみてみます。

−全国保険医新聞2292号より転載−