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混合診療「実質解禁」で命の沙汰も金次第


 厚労相と規制改革相の混合診療に関する基本合意(2004年12月15日・以下「基本合意」)について、「自由診療と比べ患者負担が軽減される」、「ガン治療薬などが使いやすくなる」などの期待の声もある。むろん、ある部分では現状を改善する面はある。しかし、それは現在の医療保険の診療報酬制度が持っている弱点を、患者の負担増によって補うものである。国際的に見てもわが国の患者負担は重い。医療費に対する実効負担率は、3割自己負担によって18・3%(外来分・推計値)にまでなっている。それに加えて、薬剤料や技術料を自費で負担することになる。その負担に耐えられない患者にとっては、逆に負担増によって医療から遠ざけられることになる。「基本合意」について、いくつかの問題点にふれてみたい。

将来も保険導入せず
民間保険の販路広げるからくり

 「基本合意」の問題点の第一は、「患者選択同意医療(仮称)」を設け、将来とも保険導入しないものを創り出し、それを保険医療と並存させる仕組みを保険制度に持ち込むことである。これには、現行の選定療養をはじめ、保険診療で「制限回数を超える医療行為等」が盛り込まれた。さらに、範囲が拡大する危険性を含んでいる。

 「制限回数を超える医療行為等」について、患者負担による実施を解禁したことは、医学的な必要性の有無とは無関係に、保険給付水準を超えるものは患者負担とし、それを固定化するものといえる。厚労省は、「医学的な根拠が明確なものについては保険導入を検討する」としているが、検討の手順やその基準は一切明記していない。そもそも、「検討」をするのならば、この区分に組み入れることはない。

 医学・医療技術の進歩に対応して、根拠が明確なものは保険導入を行い、保険医療を充実することは当然のことである。

 現時点では、認定される項目の全容は不明であるが、現在、算定可能な点数について、回数や必要量を線引きして算定制限を行い、超えた分は「制限回数を超える医療行為等」の対象にした上で、患者から料金徴収を可能とする、ことに拡大される危険もある。「保険では制限が厳しく、良い医療ができない」ということで差額徴収が拡大し、民間保険の販路も広がる。

 一方で、保険点数は引き下げ・制限という悪循環が発生しかねなく「歯科差額時代」の二の舞となる恐れがある。こうした「技術料差額方式」の導入となれば、わが国の医療保険制度の根幹である現物給付の原則を崩すものである。

新技術の保険導入に障害
一旦は検討項目としてルール化

 第二に、高度先進医療や「必ずしも高度でない先進医療」、「国内未承認薬」などを「保険導入検討医療(仮称)」として位置づけたことである。

 保険導入の可否については不明だが、保険導入前に、一定期間は患者に保険外負担を求めるというルールを導入することになる。少なくとも速やかな新技術の保険導入の障害になることは確かである。

 「難易度が中程度の技術」(04年12月6日・読売新聞)という新規技術については、現在、想定されているものは100項目程度といわれているが、今後開発されるものは、一旦はここに組み込まれることになると見られる。

 保険導入の可否については不透明であり、医学会や専門医会から要望が出されている医療技術等で、有効性、安全性が確認できたものは迅速に保険導入するべきである。

 国内未承認薬については、「未承認薬使用問題検討会議(仮称)」を設置し、欧米で新たに承認され、国内では未承認の薬は自動的に検証の対象とする。未承認薬については治験段階だけでなく、「安全性確認試験」の期間を新設して、承認審査中も特定療養費の対象とすることになる。「医師主導治験」についても、薬剤料を患者負担にするという。

 治験という保険収載の前段が、特定療養費の対象となり、公的保険が一部給付することになる。一方で、未承認薬による副作用などの救済は当事者責任となる。本来、開発メーカー責任の治験が終了した後の運用であるならば、その結果を基に、保険導入の可否を判定すればよい。安全性と有効性が確認できれば、治験から承認、保険導入へとすすむのが当然といえる。そうしないところに混合診療としてのねらいがある。

原則療養費払い方式拡大
医療機関のランク付けで競争

 第三に、次のステップへの突破口の役割も持っていると見られる。

 「高度でない先進医療」については、厚労省は2000程度の医療機関が可能とするシミュレーションを行っている。厚労省が定める「医療技術ごとに一定の水準の要件」を満たす医療機関には診療所も対象に入っており、届出を行った上で実施できることになる。

 今回、「高度先進医療」を取り扱う特定承認保険医療機関(127施設)の見直しが盛り込まれた。「高度先進医療」の提供については、特定承認保険医療機関は、「原則療養費払い方式」(現在は、保険請求方式により現物給付と同じに扱われている)だが、今後、「高度でない先進医療」の提供についても、「原則療養費払い方式」を拡大することが考えられる。

 制度上、「原則療養費払い方式」の医療を取り扱う2000程度の医療機関と、現物給付を原則とするそれ以外の医療機関が併存する事態にもなりかねない。

 こうした方向は、医療機関のランク付けや、公的医療費抑制への有力な手段としての療養費払い制への転換に向けた大きな布石となる危険性がある。

 加えて、現在、厚労省内で議論されている、株式会社と比べ制限されているのは配当だけという「認定医療法人」制度と結びつけて考えると、先進医療を行う基幹病院を中心とする巨大な医療・福祉チェーンの創出につながりかねない。これは、実質的に株式会社参入と同様の効果をもたらすものである。

 また、このことは、保険外診療の患者負担を巡って「料金競争」、すなわち「医療機関競争」が始まることでもあり、医療の中に患者の経済力格差による差別を持ち込むことにもなる。そして、選択した結果については、医療機関と患者の当事者責任が問われることになる。

 医療産業から見れば、新しい医療機器・医薬品・材料の利益増大が見込まれ、その開発・販売、民間医療保険の販路拡大や「保険証付きクレジットカード」発行事業、医療情報提供産業の需要喚起、新医療機器導入などのための医療機関の資金需要拡大など、医療の市場性は益々高まるものとなる。

 業界紙の月刊『健康と医療』は、昨年11月5日の時点で、「混合診療解禁前夜」との見出しで、「自由診療とそれに係わる健康サービス産業は、今後ますます増大していくことは明白である。病院や診療所が保険診療だけを行っていた時代は既に過去のものとなりつつある。

 医療機関が提供するサービスのうち、保険医療はそのほんの一部分になる日が来ることは間違いない」と断言している。

「軽度医療」で給付外し
保険免責制度導入の受け皿へ

 現行の特定療養費制度の「保険給付前提、一部例外」という仕組みが、「保険給付と保険給付外の並存」という基本的な仕組みになり、高度先進医療でなくても新技術は原則、一定期間は保険外負担が前提とされることが十分考えられる。

 政府や経団連が検討している「軽度医療」や市販類似医薬品の保険給付外し、保険免責制度の導入などの受け皿として活用される危険性は大きい。

 第二内閣といわれている経済財政諮問会議の民間議員4人は、1月27日、同会議に「『基本方針2004』の取組状況について」を提出したが、重点事項に「医療制度改革(特に医療サービス効率化プログラム)」を挙げ、「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」などを推進することを要求している。

 一方、混合診療解禁については、「混合診療への対応は、平成16年12月に『基本的合意』。その他は、18年の医療制度改革における完全実施に向けて17年に検討」としており、すでに大筋は決着済みとの認識が見てとれる。

 このように、「基本合意」のめざすところは、特定療養費制度を根本的に改編して、混合診療の実質解禁へ足を踏み出し、技術料を含めた医療行為等への拡大や、新たな保険給付外しの受け皿としての活用をねらい、政府の「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」政策を一層すすめるものといえる。

 基本合意した個別課題を具体化する段階での対応とあわせて、政府が2006年の通常国会に提出を予定している医療保険制度「改革」関連法案の策定に向けて大きな争点となる。

 国保資格証明書問題や受診抑制の進行でも明らかなように、保険医療すら受けられない国民が増加している中で、『保険証一枚』で安心してかかれる医療制度の実現が強く求められている。