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06年医療制度「改革」の方向性を探る


  厚生労働省は、昨年の年金制度、今国会に提案している介護制度に続いて、2006年には医療制度「改革」を行う計画である。厚労省は今秋に「改革試案」を示す予定で、年内に政府・与党案をまとめ、来年の通常国会に関連法案の提出をめざしている。厚労省の社会保障審議会で議論が続けられている医療制度「改革試案」の方向性を検証する。

医療給付費の伸び6兆5000億円を削減

 厚労省は5月25日、社保審医療保険部会に医療制度「改革」の「基本的考え方」を示した。その柱は、第一に「給付と負担の公平な」制度をめざす、第二に、医療費「適正化」として、@生活習慣病の発症抑制、A医療機関の分化・連携などによる再編、B入院日数の短縮と在宅医療・介護への転換を進める、第三は、都道府県単位の制度運営と医療提供によって、県単位で保険料と医療費水準が見合ったものにしていく、という考えである。

 厚労省は「医療費の伸び自体を適正化」する提案をすでに3月25日、経済財政諮問会議へ提出している。経済成長と連動させた全国一律の総額管理は「適当でない」としながらも、医療給付費の伸びの「適正化」は必要とする立場から、来年の通常国会に向けて「医療費適正化計画(仮称)」を作成する。新たな管理指標を設け、5カ年計画で達成度を検証する仕組みをつくるとしている。

 中期・長期の対策によって、団塊世代が高齢化のピークを迎える2025年時点で、総額11%、6兆5000億円の医療給付費の削減が可能と推計している(医療費ベースでは7兆7000億円の削減)。

 「医療費適正化計画(仮称)」の柱は、第一に、「長期的に効果の現れる取り組み」として、生活習慣病発症の予防対策を掲げ、保険者に対し被保険者と家族の健診と保健指導を義務づける計画である。

 国の指針に基づいて都道府県が健康増進計画を作成、保険者は民間事業者も活用して、有病者、予備群が必ず健診と指導を受けるようにする。

 この保健予防は混合診療にするという意見も出ている。すでに、明治安田生命では、「疾病予防サービス事業」を立ち上げている。

 早期受診による生活習慣病予防や軽減への生活指導などの促進は重要である。国が十分な財源措置を行い、保健予防、健康増進の充実を図るべきである。

 第二に、「中期的に効果の現れる取り組み」では、@病院の平均在院日数の短縮、A医療機能の分化と連携、B急性期から回復期・慢性期まで視野に入れた「診療計画」の導入、などを提案した。「施設」から「在宅」への流れを入院日数短縮を軸に、診療報酬見直しなどにより推進するものと見られる。

 第三に、「短期的に効果の現れる取り組み」として、「公的保険給付の内容及び範囲の見直し」をあげ、朝日新聞5月7日付の報道では、@長期入院の居住費、食費の患者自己負担化、A一定金額以下を保険給付から外す「保険免責制度」の導入、B高齢者自己負担の2割への引き上げ、C高額療養費の見直し、などの項目が示された。

医療保険制度改革--県単位の高齢者制度を創設

医療保険制度については、@都道府県を単位とした保険運営と「医療費適正化計画(仮称)」の推進により、A保険者の基盤強化を図り、県単位の高齢者医療制度の創設につなげていく考えである。

 厚労省のねらいの第一は、国の責任を後退させ、財政的余裕がある保険者に対して、財政悪化の保険者を支援させる仕組みを導入し、国庫負担を絞り込む。

 第二に、生活習慣病発症の自己責任も強調して、都道府県単位で医療給付費の抑制を競わせることである。

 第三に、すべての高齢者から保険料を徴収することや、現役世代から新たに「社会連帯的な保険料」の負担を求めるなど、国の責任を後退させたところで、「給付と負担が公平な」保険制度に変えようとするものである。

 社保審医療保険部会の議論では、地方自治体代表の委員から「地域別にすれば競争が起こってよくなる、というのはいかがなものか」との批判が出され、全国市長会は、保団連の主張とも共通する「国を保険者とし、すべての国民を対象とする医療保険制度の一本化」を提言している。

第5次医療法「改正」で医療給付費伸び管理、計画

  厚労省は医療計画、医療提供体制の見直しについても、06年に予定している第5次医療法「改正」で実施する方針である。

 厚労省が示した方向性は、第一に、国は医療計画の基本方針と作業手順を定め、補助金を出すことを役割にし、都道府県が県民のがんや糖尿病の発生率を何%までに下げるという目標と、そのための方策を医療計画に盛り込むことを義務化するというものである。医療給付費の伸びの「適正化」を医療計画においても進めようとするものである。

 第二は、医療計画の見直しにおいて、新たに「日常医療圏」(厚労省の定義は、「日常の生活において、原則として、主要な疾病ごとに患者が必要とする外来医療及び入院医療が完結する圏域」)を設け、がんや糖尿病、高血圧など生活習慣病の主な疾病ごとに「診療ネットワーク」をつくり、急性期から回復期、在宅療養までサービスを提供する構想である。

 また、「日常医療圏」での「診療ネットワーク」の中心に「かかりつけ医」を位置づけ、他の医療機関や保健所などと連携する構想を示している。厚労省は、「現行のかかりつけ医と同じと考えてもらってよい」と説明しているが、新たに設ける「日常医療圏ごとの疾病別のかかりつけ医」の目的や機能、その資格要件や施設基準、診療報酬の評価など、肝心な内容は明確にされていない。疾病別のかかりつけ医の人数が制限されることも危惧される。

 さらに有床診療所の見直しも議論され、「四十八時間条項」や病院に比べて緩い設備・人員配置の基準、さらに病床規制の対象外であることなどが論点にあげられている。 

医療法人制度にも着手し事業拡大や企業参入促す

  医療法人制度については、厚労省がまとめた「たたき台」では、現行の「出資持ち分のある社団」を廃止し、出資額の払い戻しを制限する「拠出額限度医療法人」と、出資持ち分のない「認定医療法人(仮称)」の二つに限定、整理する方向が示された。これに対して、1人医師医療法人など、現在の医療法人社団を存続させる要求が出されている。

 「認定医療法人(仮称)」は、都道府県が作成する医療計画において、「住民にとって必要とされる公益性の高い医療」を実施する中核医療機関として位置づけられている。

 資金調達では、いわゆる病院債券の発行、企業が寄付を行い「資金面で支えることができるように」することが示されたほか、「医療サービスの充実にあてる」ことを目的とした収益事業、介護・障害者福祉事業(特養ホームは除く)なども行える。

 経営安定化のための事業拡大や企業参入を促す要素が含まれており、具体化によっては、福祉事業を含む大規模な医療法人の出現と資金提供を通じた企業の参入、これに伴う医療機関の系列化が懸念される。

財政審からは「建議」で高齢者の自己負担2〜3割

 財務省の財政審は6月6日に「建議」(意見書)をまとめるが、@医療給付費の伸びを経済・財政にあわせて抑制するため、A「公的医療保険と民間保険のカバーすべき範囲の根本に立ち返った見直し」を提案している。また、B入院の食費・ホテルコストの保険給付外し、C保険免責制の導入と市販類似医薬品の保険適用見直し、D高齢者自己負担の原則2〜3割化と保険料水準を見直す、などを盛り込む予定である。

 経済財政諮問会議は「日本21世紀ビジョン」をまとめ、「自立支援(健康増進、就労支援)型の社会保障制度への切り替え」を提言した。

 諮問会議の議論では、@医療給付費の伸びの管理・抑制を、GDPの伸び率に高齢者増を加味した指標を設けて、「総量規制」を行うため、A生活習慣病の発症抑制など健康増進・予防施策、医療の標準化とIT化という医療サービス向上プログラムの策定、B診療報酬・介護報酬の改定はGDPの伸び率に連動、公的保険給付の内容・範囲や患者自己負担の見直し、などを求めている。小泉首相は、6月にまとめる「骨太方針05」に「改革の方向性」を盛り込む予定だ。

 以上のように、医療保険制度と医療提供体制の全面的な見直しが検討されているが、政府がめざす「改革」の柱は、医療給付費の伸びの管理・抑制を行い、公的医療を縮小しながら、公私2階建て化による市場拡大をめざすものといえる。

 今、必要なことは、国民の生活基盤を重視する財政運営に転換し、大企業に相応しい社会的責任を求めることによって、社会保障制度の拡充を図ることである。そのことが日本経済再建への道でもある。