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どうなる後期高齢者医療制度−「年齢で区分」する問題はむしろ拡大



厚労省の新たな制度案を検証

後期高齢者医療制度に代わる新たな高齢者医療制度の検討が、厚労省の高齢者医療制度改革会議で進んでいる。8月に中間まとめ、今年末までに最終取りまとめを行い、11年の通常国会に関連法案を提出し、13年4月から新制度をスタートさせるというスケジュールだ。現在、4つの制度案が検討されているが、1年程度の議論で結論が出せるとは言いがたい。検討されている制度案を検証した。

示された4案はすべて都道府県単位の運営
高齢者医療制度改革会議には、新たな高齢者医療制度について、4つの案が示されている。
第1案は、市町村国保や組合健保などすべての医療保険を都道府県単位で一元化する案で、年齢構成や所得状況の相違による保険財政の格差をならす財政調整(「リスク構造調整」方式)を導入し、段階的に都道府県単位に統合・一元化する内容だ。
統合に当たっては、@市町村国保は都道府県単位に統合し、広域連合が運営する、A健保組合・共済組合は、都道府県単位に事業所を分割する、B都道府県単位で市町村国保と協会けんぽ、健保組合と共済組合をそれぞれ統合する、C都道府県単位ですべての保険者を統合する―という道筋が示されている。地域ごとの医療費と保険料が連動し、医療費抑制を競わせるという仕組みをすべての医療保険に拡大しようとするものである。
第2案は、一定年齢以上の「別建て」保険方式とする案で、65歳以上の高齢者を対象に一つの制度とし、都道府県単位で行政から独立した公法人が保険者を担うという内容である。
後期高齢者医療制度の根本問題である「年齢で区分するという問題を解消する制度」とはなっていない。しかも、銀行や保険会社の代表がメンバーになることが可能な「公法人」が運営するという案である。
第3案は、突き抜け方式とする案で、組合健保などの被用者保険の退職者は、市町村国保に加入せず、被用者保険グループが共同で運営する新制度(仮称「退職者健康保険制度」)に引き続き加入する。一方で、市町村国保と高齢者医療は都道府県単位とし、国保連合会、広域連合と一体的な運用を図るという内容である。
全勤労者に占める被用者保険本人の加入率が、非正規雇用者の急増によって10年間で10ポイントも低下している状況で、被用者保険に加入できない勤労者や自営業者などの高齢者を、国保と高齢者医療を一体化させた都道府県単位の新制度に加入させるものである。
第4案は、高齢者医療と市町村国保を一体として運営する案で、65歳以上は全員国保に加入し、市町村国保は都道府県単位に統合して、後期高齢者医療広域連合と一体的に運営するという内容である。
この案は目新しいものではなく、08年9月に舛添要一前厚労大臣が示した私案―市町村国保を都道府県単位の国保に統合し、後期高齢者医療制度と一体化させる―と枠組みは同じである。舛添私案の復活といってもいい内容だ。

10年前の検討案が再登場
4つの案に共通しているのは、新たな高齢者医療制度は原則、都道府県単位で運営するということである。その上で、別建ての独立制度とするのか、国保と一体化するのか、国保や被用者保険を含め統合・一元化するのか―という点の違いだけである。
高齢者医療制度をめぐる議論については、10年前から検討が行われている。00年11月30日、参議院の国民福祉委員会(現厚生労働委員会)では、「新たな高齢者医療制度の創設を検討する」ことを付帯決議として挙げている。翌01年9月に開催された厚労省の社会保障審議会で、新たな高齢者医療制度として4つの案が提示された。
A案は一定年齢以上でリスク構造調整を行う、B案は一定年齢以上の独立保険方式とする、C案は突き抜け方式とする、D案は「完全な一元化とする」(すべての医療保険を全国単位で一元化した制度とする)―であった。
このうち、B案の独立保険方式がベースとなって、後期高齢者医療制度が08年4月からスタートした。
現在検討されている4つの案と、10年前に検討されたA案、B案、C案はほぼ同じ内容である。今回はD案の代わりに、舛添私案と同様の第4案が提示されているのが目立った違いである。
第4案では、高齢者と現役世代が同じ国保に加入するので、保険証も同じものになるが、それだけでは、「年齢で区分するという問題」を解消することにはならない。

上がる保険料。医療費抑制を65歳以上に拡大
後期高齢者医療制度の窓口負担を除く医療費(医療給付費)の財源負担は、高齢者が負担する保険料が1割、現役世代が拠出する「支援金」が4割、国と地方自治体の公費負担5割の比率となっている(図1)。これは固定ではなく、厚労省は10〜11年度の保険料の比率が、1割から10・26%に上がる見通しを発表している。15年度には10・8%、25年度は13・2%(平均保険料は約15万円)まで増える計算である。
高齢者が負担する保険料が、地域の高齢者医療費とリンクして動く仕組みにされているため、保険料を上げ続けることが困難になれば、医療給付の抑制に向かわざるを得なくなる。


厚労省は第4案についてのみ財政試算を提出したが、その試算は「65歳以上は全員市町村国保に加入」(図2)し、「75歳以上の高齢者の医療給付費に約5割の公費を投入」するという前提で行われている。
医療費の財源負担の仕組みは、後期高齢者医療制度と同じで、現役世代とは別勘定にするということである。当然、保険料も別勘定で決められることになる。このことは、3月16日の参議院厚生労働委員会の審議で長妻昭厚労大臣も認めている。


65歳未満と65歳以上が同居する世帯(国保加入)だが、家計(医療費や保険料)はそれぞれの財布(別勘定)で賄う仕組みである。
さらに、被用者保険の被保険者および扶養家族であっても、65歳になれば被用者保険を強制的に脱退させられて、国保へ移行する案も示されている。
厚労省は、後期高齢者医療制度の「良いところ」を残して新しい制度をつくると言っているが、厚労省の考える「良いところ」とは、高齢者の医療を別勘定にして、高齢化の進行や医療費の増加に合わせて高齢者自身の保険料が、現役世代より大きく上がる仕組みのことである。
65歳という年齢になれば全員が国保に加入させられ、保険料は別勘定というのでは、今の後期高齢者医療制度の仕組みと同じである。根本問題を解消するどころか、その対象を65歳以上に広げるものである。
そもそも国民健康保険法の付則では、「高齢者医療制度については、制度の実施状況、保険給付に要する費用の状況、社会経済の情勢の推移等を勘案し、施行後5年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるべきものとする」ことが定められている。
ここでいう施行は08年4月なので、5年後は13年3月末になる。つまり、新たな制度への移行スケジュールは、新政権の提案というより、自民・公明政権が予定していた期日に合わせただけではないのか。
高齢者医療制度は国民皆保険体制の要であり、国民の医療保障を充実する視点から、「廃止は新制度とセットでの4年後へ先送り」ではなく、元の老人保健制度へいったん戻し、そこから新たな高齢者医療制度についての国民的な議論をおこし、合意形成を図ることが求められる。