社会保障と税の一体改革−−診療報酬改定、介護報酬改定に反映
(『全国保険医新聞』2011年9月5日号より転載)
「外来受診時定額負担」など給付削減・負担増
社会保障・税の一体改革案の問題点は表1の通りだが、この中で「公助」の限定化によって正当化しようとしているのが、「給付の重点化、効率化、選択と集中」である。
一体改革案では、医療について、@通院のたびに現行の窓口負担に上乗せする「受診時定額負担」、A70〜74歳の窓口負担の2割負担、B市販類似薬の患者負担引き上げ、C外来患者数の5%削減、D電子レセプトの縦覧・突合点検など情報通信技術の利活用による重複受診等の削減など、第一線医療を選別・直撃する給付削減・負担増計画が打ち出されている。
特に、「受診時定額負担」は、高齢者、乳幼児、慢性疾患患者など受診頻度が多い人ほど負担が重くなり、これまで以上に受診が抑制され、重篤化させかねない(図1)。
こうした給付削減・負担増を通じて、あらかじめ患者総数を削減することを数値目標化して計画に盛り込むこと自体が、言語道断である。国民の受療権を制限し、早期発見・早期治療を阻害するだけでなく、第一線医療を担う中小病院、診療所機能を弱体化させることが懸念される。
一体改革案は、6月2日の社会保障改革に関する集中検討会議における「医療におけるビッグリスクに備え、スモールリスクのカバーからシフトしていく」との意見に示されているように、初期医療を制限し、「高額・高度医療への給付重点化」を進めていく方針を打ち出している。混合診療の原則解禁や、外来患者の「カゼ」などを軽い病気と規定し、公的保険は適用しないという「保険免責制度」の導入の突破口にされる危険性がある。疾病で選別する医療に変質させることは、国民皆保険制度の根本を破壊するものである。
また、2002年改定の健康保険法の附則2条は、保険給付は「将来にわたり百分の七十を維持する」と規定しているが、上乗せ「受診時定額負担」は、これに反していることになる。しかも、これらの負担は、一旦導入されれば、負担額の引き上げが容易に行われるようになることは、これまでの歴史からも明らかである。
厚労省の「患者調査(2008年)」では、前回(2005年)と比べ患者数が外来で22万7000人も減少している(図2)。
保団連は、経済的理由によって医療、介護を受けられない事態が深刻化している状況で、「疾病の自己責任」と「受益者負担」主義を強める給付削減・負担増計画の撤回を求める。あわせて、窓口負担の大幅軽減を求め、当面、現役世代は2割、65〜74歳は1割、義務教育終了までの子どもと高齢者は無料、高額療養費制度を活用した長期・高額医療および低所得者の負担軽減を実現し、経済的な負担の心配がなく、受診ができるようにすることを要求する。
医療扶助に自己負担を導入
また、「低所得者対策」として、生活保護の「見直しを実施する」ことが盛り込まれている。基礎年金(月額最高6万6000円)との整合性を理由にした生活保護費の引き下げ、医療扶助を「受診率が高いため、1人あたり医療費は国保等よりも高額となっている」と問題視して、「現物給付の検討」の名で自己負担の導入を示唆している。
厚労省は、生活保護制度に関する国と地方の協議で、各自治体が医療扶助「適正化」計画を策定することや、指定医療機関を受診した際の「患者負担のあり方」、さらに、保護期間の「有期制」などを論点として示し、保護費全体の48%を占める医療扶助など生活保護費全体の削減を狙っている。しかし、受給者は自由に受診できるわけではなく、受診の必要性を決めるのは医師で、医療券を出すかどうかを決めるのは行政である。受給者全体の8割は、医療扶助を利用して治療をしており、自己負担が導入されたら、経済的な理由から治療を受けることができず、症状が悪化し自立から遠ざかる悪循環になる。
一体改革案で打ち出されている「貧困・低所得者対策」を実効性あるものにするためには、保護が必要な人が利用でき、自立に向かえるよう、生活保護制度を抜本的に拡充すべきである。
以上