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社会保障と税の一体改革で、医療・介護提供体制を抑制

(「全国保険医新聞」2011年10月5日より転載)


  政府は、医療・介護サービス提供体制に係わる基盤整備「改革案」を年内に取りまとめ、来年4月に予定されている医療・介護報酬の同時改定に反映させるとともに、来年の通常国会に基盤整備一括法案を提出する方針である。

平均在院日数短縮で病床削減を狙う

  厚労省の「長期推計」では、入院全体の1日当たりの患者数は、2011年の133万人から、2025年度には162万人へ増加し、現状の病床稼働率を前提とすれば、病床総数は2011年の166万床から2025年度には202万床が必要になるとしている。
  しかし、一体改革案は、団塊の世代が高齢化のピークを迎える2025年度に向けて、病床の充実を進めるのではなく、「平均在院日数の大幅短縮を実現する」ことで、入院患者数を2割減らし、病床総数を現状より少ない159万床に抑制する方針を打ち出している。
  具体案では、2011年の平均在院日数30日を2025年には24日に短縮し、特に「一般急性期」病床については、13〜14日から9日にまで大幅短縮する計画である。また、1日当たりの入院患者数も2011年より4万人減らし、うち1万人は急性期の入院ウ者を想定している。
  「長期推計」は、現在の一般病床について、2025年度時点で「高度急性期・18万床」「一般急性期・35万床」「亜急性期・回復期リハビリテーション病床・26万床」に再編。「長期療養(慢性期)」は23万床から28万床に増やし、精神病床は35万床から27万床に減らすことを打ち出している。また、人口5〜7万人未満の自治体に暮らす住民2000〜3000万人を対象に、「地域一般病床・24万床」を新設する案も示している。
  現在でも平均在院日数が減少(一般病床の平均在院日数は、2002年の22・2日から、2010年11月には17・9日へ4・3日短縮)しており、これ以上の平均在院日数の減少は、医療の安全を脅かし、新たな医療難民を生み出しかねない。一方で、在宅医療等の利用者数を1・7倍に増やすことが盛り込まれているが、具体策は示されておらず、患者不在のシナリオと言わざるを得ない。
  また、現状で推移すれば32万人が必要となる医師数を1万人程度減らす一方で、病院医師の業務量を2割削減するシナリオが示されている。「高度急性期」病床には医師を集中投入する方針であり、他の病床や第一線医療を担う医師が不足することや、医行為の看護師・介護職への拡大につながることが懸念さ黷驕B
  さらに、「地域間・診療科間の偏在の是正」が盛り込まれているが、2009年の財政審建議が提言した「公的な関与で開業を規制する」方向で具体化されるならば、わが国の国民皆保険制度の根幹である自由開業医制の否定につながる恐れがある。

介護サービス提供体制の制限

  一体改革案は、介護施設入所の待機者が増大を続けているにもかかわらず、施設整備を進めようとせず、2025年度までに要介護認定者数を3%減らす数値目標を掲げるとともに、居住系施設と在宅介護を大幅に増やす方針を打ち出している。
  「長期推計」は、介護施設入所者が現状の92万人分から2025年度には161万人分が必要になるとしている。しかし、介護施設への入所は「重度者」に限定し、全体の2割の131万人分に抑えるシナリオを示している。これ以外の8割、510万人の要介護認定者については、サービス付き高齢者住宅などの居住系や在宅での介護を想定している。施設不足状態を逆手にとって、在宅介護の利用者を増やし、サービス付き高齢者住宅の市場を拡大する計画である。

受け皿としての「地域包括ケアシステム」

  病床を削減した場合の高齢者医療・介護の“受け皿”として構想されているフが、厚労省の「地域包括ケアシステム」である。日常生活圏域内で、医療、介護、予防、住まい、生活支援サービスが切れ目なく提供され、医療(看護)と介護の一体的な提供で、医療・看護ニーズの高い患者や看取りの対応を地域で可能にするとされている。
  地域まるごとで24時間・365日の包括的ケアを保障することは当然だが、「地域包括ケアシステム」には、@訪問介護・訪問看護の「一体的提供」が24時間体制で保障されるのか、A同種の訪問介護、訪問看護が利用できなくなるのではないか、B定額報酬となればその範囲内でしかサービスを提供できなくなり、別のサービスで補えば限度額を超えた分は全額自己負担になる、Cサービス付き高齢者住宅には、営利企業が参入できるため、利益を株主配当に回し、利益が出なければ撤退・倒産というリスクがついて回るなど、重大な問題が内包されている。
  「施設・病院から住宅へ」「医行為は医師から看護師へ、看護師から介護職員へ」「生活支援はヘルパーから、『新しい公共』の名でボランティア・企業へ」の流れを促進し、高齢者の医療・介護提供体制を抑制しようとしていると言わざるを得ない。
  国と自治体の公的責任を明確にし、入院医療体制の確保や、要介護者を受け入れる施設や従事者の基盤整備、医療系介護サービスを医療保険制度に戻すなど、高齢者の生活全体を支える包括的ケアを保障する医療・介護体制の構築が必要である。