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社会保障費を消費税収と 連動させて押さえ込む


 一体改革案には、社会保障費と消費税収を連動させて、消費税収の範囲に社会保障費を抑え込むことで、社会保障費を抑制するという仕組みが盛り込まれている。国が責任を持つべき社会保障を、民間保険の原理をてこに抑制・削減し、公的給付を限定化するとともに、公的給付以外の医療、介護、福祉サービスを拡大し、新たな市場創出をめざす方針だ。

消費税は、貧富の格差を増大させる

 一体改革案は、当面の措置として、「社会保障4経費」(年金・医療・介護、子育て)へ消費税全額を充当し、消費税と連動させるとしている。そして将来的には、「社会保障給付にかかる公費全体について、消費税収を主たる財源」とする方針である。
 これは、3つの問題がある。
 第1は、社会保障の財源として必要な機能が失われることである。社会保障の機能とは、所得の再分配である。所得税は、今日では累進性が弱まってはいるが、それでも高額所得者がより多く税金を納付する累進性をとっている。この一般税収を財源とすることによって、社会保障は所得の再分配を実現できるのである。
 しかし、消費税は所得に反比例し、所得の低い者ほど負担率の高くなる傾向をもつ税金である。消費税を社会保障の財源にすることは、所得の低い者の税金を低所得者に再分配するという所得の水平的再分配とならざるを得ない。消費税は、貧富の格差を増大させる福祉に反する税なのである。
 第2は、日本の社会支出は先進国最低であり、社会保障費の増加は避けられないにもかかわらず、消費税を財源にすると宣言する限りは、消費税率を際限なく引き上げざるを得ないことである。消費税率を上げることができなければ、今度は社会保障費を先進国最低水準に据え置かなければならない。
 政府の「社会保障費用の将来推計」によれば、2015年度の社会保障の公費負担は約47兆円、公費を消費税収に限定するならば消費税率は18%(税率1%=約2・5兆円)に引き上がる。また、2025年度の公費負担は約61兆円、消費税率は20%以上(税率1%=約2・9兆円)に引き上がる試算が示されている。
 国民にとって、消費税増税か、社会保障給付の削減か、あるいは、その両方が迫られることになる。特に、被災地には大きな負担となり、復興の妨げになることは明らかである。
 第3は、実態として社会保障の財源には使われないことである。名目的には、社会保障のためとしながら、政府は同時に法人税率を引き下げるとしている。一体改革案の目的は、財政再建のはずである。一方で、消費税を増税しながら、他方では法人税を引き下げるのでは、消費税増税の目的は、法人税減税の穴埋めのためと言わざるを得ない。
 消費税が導入された1989年以降、2010年までの消費税収の累計は224兆円。一方、法人3税は1989年比で累計がマイナス208兆円となっている。また、1990年度(GDP452兆円)と2010年度(GDP479兆円)の税収を比べると、消費税は4・6兆円から10・2兆円と2・2倍増加しているが、法人税は18・4兆円から7・6兆円と6割も減っている。社会保障に使うためというのは、国民を欺くための便法にすぎない。

消費税増税は内需も 経済も悪化させる

消費税収が国税に占める割合は、日本は約22・1%。同様にイギリスは22・5%、スウェーデンは22・1%、ドイツは27%など、税項目のバランスとしては、すでに日本の消費税はヨーロッパ並みになっている。しかし、これらの国々の社会保障水準は日本を大きく上回っている。それは法人税、事業主の保険料負担など大企業が応分の負担をして、社会保障の財源としているからである(野口悠紀雄氏、神野直彦氏コメント参照)。
 政府の財政赤字が膨らんだ主要な原因は、1990年代以降、「小さな政府」政策が推し進められ、税制では、グローバル化を前提にした、所得税のフラット化、法人税減税、金融資産の優遇税制によって税収が切り縮められてきたことにある。
 GDPは1990年が452兆円で、2010年は479兆円と、ほとんど横ばい状態であるのに、政府の歳出に占める一般会計税収の割合は、1990年の86・8%から2010年には38・4%に低下し、法人税・所得税・消費税の税収額も49兆円から30・6兆円に18兆円も減少している。税収が減った最大の理由は、法人税率が40%から30%に引き下げられたためである。
 1997年の橋本内閣当時に、消費税率5%への増税や、サラリーマン本人の医療費窓口負担2割への引き上げ等の結果、日本のGDPはマイナス2%に落ち込んだ。このことからも明らかなように、消費税を引き上げ、社会保障給付を抑制・削減すれば、国民の安心と生活を壊し、内需を冷え込ませ、経済も財政も悪化させ、日本はさらに立ち行かなくなる。