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被爆地の「黒い雨」1万3000人分のデータ存在…直ちに公開を

(「全国保険医新聞」2011年12月15日号掲載)


保団連の本田孝也理事(長崎県保険医協会副会長)は12月1日、厚生労働省内で記者会見し、自ら突き止めた「黒い雨」データ1万3000人分が放射線影響研究所(放影研)に存在するとして、「被爆体験者のために直ちに公開を」と訴えた。朝日、読売、毎日、日経、中国各紙と共同通信、NHKが取材した。NHKは広島と長崎で発表の様子を放映した。本田理事の会見の概要を紹介する。

 

放影研のデータをもとに作成した長崎市の「黒い雨」マップ。DS86は黒い雨は
西山地区だけに降ったとしているが、より広範囲に降雨が見られる。



米研究所で分析されていた「黒い雨」の影響
長崎協会では、長崎の爆心地から7・5キロ離れた被爆地域外の間の瀬地区で、原爆投下時に黒い雨が降り、脱毛が多発したとの住民の訴えに基づき、2011年3月8日よりその聞き取り調査を開始していた。7月9日から10日にかけては、広島大学原爆放射線医科学研究所の星正治教授らに依頼し、間の瀬地区の土壌調査も行った。

これらの資料を整理していた9月26日、ネット上で、米国・オークリッジ国立研究所のある「リポート」を発見した。 リポートは広島7万5100件、長崎2万4900件のABCC(原爆傷害調査委員会)のコンピューターリストのデータをもとに、放射性物質を含んだ、いわゆる「黒い雨」の人体に及ぼす急性期症状を分析したものであった。 リポートには広島の爆心地から1・6キロ以上離れた地点で黒い雨を浴びた236人で、発熱や嘔吐(おうと)、下痢、血便、紫斑、脱毛などの急性症状が高率で認められたと記述されていた。

このリポートはABCCからオークリッジ研究所に出向していたHiroaki Yamada(山田広明)氏が筆者の1人であった。山田氏は、旧厚生省原爆放射線量研究チームのメンバーで、この研究チームは「原爆放射線量再評価DS86」の作成にかかわっていた。
DS86は被爆者個々の被爆線量を計算する計算式で、従来のT65Dに代わって1986年より使用されている。原爆症認定集団訴訟はこのDS86との闘いといってよく、原告側が残留放射線の人体影響を主張しているのに対し国側はDS86を根拠にこれを否定し続けている。DS86は残留放射線の人体への影響を否定しているからである。
しかしDS86の作成にかかわった山田氏は、黒い雨の急性症状を分析した「オークリッジ・リポート」の筆者の1人だった。さらに言えば、オークリッジ・リポートのディストリビューション(配布先)として明記されているジョージ・カー氏は、DS86作成の中心人物である。

放影研がデータの存在認める
長崎協会でヘ10月27日、広島の放影研にオークリッジ・リポートの内容について照会した。同研究所研究員とのやりとりの中で、放影研が広島と長崎で黒い雨を浴びた1万3000人のデータを保有していることが判明した。 11月8日、長崎協会は、放影研が1万3000人分のデータを持っていることを発表した。

このことを知った広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会は15日、放影研に対して資料の公開を求める要請書を提出した。 佐伯区黒い雨の会の高東征二事務局長は、新聞社の取材に「これまでどれだけの人が苦しみながら死んでいったか。国ぐるみの隠蔽(いんぺい)であり、責任を取ってほしい」と怒りをぶつけた。長崎の被爆体験者からも同様の声が上がっている。

放影研は11月21日に急きょ記者会見を開き、@寿命調査(LSS)対象者12万321人の基本調査データの中に黒い雨に遭ったと答えている人が約1万3000人いること、A大久保利晃放影研理事長は「このデータはあまり役に立たないだろうという認識でいた」ことを明らかにした。
福島原発事故を受け、低線量被ばく・内部被ばくに対して国民的な関心が集まっている。「黒い雨」データはまさに低線量被ばくの人体影響を示すものであり、「役に立たない」と「うことはありえない。

放影研は、厚生労働省の所管で、21億4000万円の国庫補助金(2010年度)が投入されている。このように国民の多額の税金が放影研に投入されていること、広島県の被爆体験者がデータ公開の要請書を提出していることから、放影研は直ちに1万3000人分の「黒い雨」データを公開すべきである。
現在、広島市などの要請を受けて、厚労省では黒い雨地域の見直しが検討されている。しかし11月25日に開かれた同省の検討会には、データは配布されなかった。

以上