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「社会保障制度改革推進法案」のここが危ない

 

社会保障制度改革推進法案は、「改革」の基本理念を定める初めての法律で、閣議決定や従来の社会保障審議会の勧告や報告などより、位置づけは数段高くなる。社会保障制度改革推進法案の“ここが危ない”を解説した。

第1 法律の目的は?
法律の目的は、「受益と負担の均衡がとれた」社会保障を確立するため、「その基本的な考え方」と「基本となる事項を定める」ことを、「総合的かつ集中的に推進する」ことである。そして、「制度改革に関する施策を策定し、実施する」ことを国の「責務」としている。
社会保障の給付を「受益」とみなし、受ける利益に見合う負担をさせることを基本方針としている。社会保障は一人ひとりの必要に応じて給付するものであり、負担は「受益」に応じてではなく、「能力」に応じて課されなければならない。推進法案はこの社会保障の大原則から逸脱している。

第2 社会保障の理念は?
「基本的な考え方」では、「国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互、国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していく」と規定している。自助と自己責任が原則で、それを助け合い=共助によって支援することを社会保障の基本に据えている。
自助と共助で成り立っているのは民間保険であり、民間保険のような仕組みが社会保障とされて、そうした仕組みを運営するのが国の役割だとなりかねない。国の責任と負担を放棄する狙いが込められている。

第3 給付の「重点化」とは?
公費負担については、医療、介護、年金制度では、社会保険料の「負担の適正化に充てる」という枠をはめ、公費負担を限定化していく方向である。
社会保険料の引き上げにつながることは必至で、「負担の増大を抑制」するために、従来以上に給付を「重点化」し、運営を「効率化」すると定めている。「重点化」の名で全体の給付削減を推進しようとしている。

第4 社会保障を消費税収の範囲内に?
社会保障の財源について、「公費負担の費用は、消費税収(国・地方)を主要な財源とする」と枠をはめた。社会保障給付を事実上、消費税収の範囲内に抑えることになる。
社会保障給付が増えれば消費税率を引き上げなければならなくなり、逆に、消費税増税が嫌ならば社会保障給付を抑制するしかなくなるという「二者択一」を国民に迫ることになる。
一方で、消費税は大企業には実質的な負担がないため、大企業の税・社会保険料負担だけが大幅に減らされる。

第5 保険給付の範囲は縮小?
医療保険制度については、「財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保、保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等を図る」と明記している。
小泉政権時代に国民的運動で断念させた風邪などを軽い病気と規定して、保険給付から外し、全額自己負担にする「保険免責制」の導入や、2011年に国民と医療界の共同の運動で撤回させた原則3割の定率負担に100円程度を上乗せする「受診時定額負担」、さらには先進医療を中心とした混合診療の拡大などが狙われている。厚生労働省は2013年度から、70〜74歳の高齢者の1割負担を2割負担へ引き上げようとしている。
法案は、「全ての国民が加入する仕組みを維持する」としているが、国民から保険料を徴収する仕組みの維持が目的である。保険料負担の「公平の確保」も、国保や被用者保険の保険料を高い方にあわせる平準化が懸念される。『いつでも、誰でも、どこでも』受けられる国民皆保険医療ではなく、名ばかりの「国民皆保険」となることが危惧される。
また、「医療の在り方」として、「人生の最終段階を穏やかに過ごすことができる環境を整備する」としている。長期療養状態や終末期の医療に対して、医療費抑制を目的に、病床の稼働率アップと「住宅」での医療・介護サービス拡大を強引に推進する方向である。
介護保険制度についても、「保健医療サービス」と「福祉サービス」を「介護サービス」の範囲に含めた上で、その「適正化」を打ち出している。公的介護給付を限定化・縮小する方向であり、厚労省の社会保障審議会では、利用料引き上げなどの負担増メニューが検討されている。

第6 高齢者医療制度はどうなる?
「今後の高齢者医療制度」は、「状況等を踏まえ、必要に応じて」、「社会保障制度国民会議において検討し、結論を得る」としている。自民党は後期高齢者医療制度を「廃止して混乱を招く必要はない」(毎日新聞6月1日付)との立場であり、75歳以上の高齢者の医療費(給付)と保険料(負担)が連動する仕組みを残した制度とする方向である。

第7 生活保護医療はどうなる?
「生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化」を「早急に行う」ほか、「生活保護制度の見直しに総合的に取り組む」としている。厚労省は、生活保護医療の制限を強化し、当面の対応として、▽電子レセプトによる重点的な点検指導▽複数医療機関による受診結果の確保を行うとしている。生活保護制度の見直しでは、▽自治体の医療機関に対する指導権限の強化▽医療機関の指定要件、有効期間、取消要件などの見直しを行うとしている。医療扶助への自己負担の導入も検討されている。

第8 共通番号制は?
公的年金制度の改革において、「社会保障番号制度の早期導入を実施する」ことが明記されている
すでに、国民一人ひとりに個人番号を付けて、年金、医療、介護、納税、金融口座、住民基本情報などを一括管理する共通番号制=マイナンバー関連3法案が、今国会に提出されている。

第9 国民会議の権限は?
法律の施行後「1年以内」に、「社会保障制度改革国民会議」での議論を踏まえ、「必要な法制上の措置」を行うとしている。社会保障改革に必要な法律は、国民会議にかけることが必要となる。「基本法」の範囲内で医療、介護、年金など個別法の「改革」案を策定する計画だ。
国民会議は首相の任命する国会議員や民間人など20人以内の委員で構成し内閣に設置する。小泉首相(当時)と日本経団連が中心となって、社会保障費の毎年2200億円削減を推進した経済財政諮問会議を上回る権限を持っている。

第10 社会保障の削減を法制化?
事実上の民主、自民、公明の3党大連立で、社会保障の削減と負担増を国民に押し付けようとしている。社会保障制度の解体ともいうべき路線を敷こうとしている推進法案は、憲法にも抵触する重大問題を内包している。国会審議を形骸化させて、拙速に法案成立を強行することは許されない。患者、国民に法案の問題点を広く知らせ、廃案を目指すことが緊急課題である。

以上