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社会保障改悪に反対する
…日本弁護士連合会 武井副会長と懇談

 

 社会保障・税一体改革関連法案の参議院での採決を目前に控えた8月9日、保団連の住江憲勇会長は日本弁護士連合会(日弁連)を訪れ、武井共夫副会長と懇談した。日弁連は「社会保障制度改革推進法案に反対する」との山岸憲司会長の声明を公表(6月25日)したほか、マイナンバー法案の廃案を求めている。懇談は保団連より日弁連に申し入れ、実現した。日弁連から市毛由美子事務次長も同席した。懇談の概要は以下の通り(文責・編集部)。


日弁連会長声明に各方面から注目

 住江会長 山岸憲司日弁連会長の「社会保障制度改革推進法案に反対する」声明を、「わが意を得た」という思いで読みました。社会保障制度改革推進法(以下、推進法)や消費税増税の問題点をずばり指摘し、私たち医療関係者や国民、患者さんにとって、本当に心強く、勇気づけられる内容だったと思います。かなりの反響があったのではないですか。
 武井日弁連副会長 会長声明は、衆議院での法案可決の前日に公表したものですが、国会議員や各種団体など、多くの方々に注目されました。
 議員や商工団体の勉強会などに呼ばれたり、保団連から国会内集会へのメッセージの依頼を受けたりと、多くの人たちが推進法の問題点について、真剣に考えていることがわかりました。私たちとしても勇気づけられています。

社会保障制度の理念を否定する推進法

 住江 推進法は、働く人々が今日まで築き上げてきた社会保障を根底から変えようとするものだと、私たちは考えています。医療界からは国民皆保険制度を破壊しかねないとの声も上っています。
 弁護士の立場から見て、推進法の問題点はどこにあるでしょうか。
 武井 「安定した財源の確保」「受益と負担の均衡」「持続可能な社会保障制度」(推進法(以下同じ)1条)の名の下に、国の責任を、「家族相互及び国民相互の助け合いの仕組み」(2条1号)を通じた個人の自立の支援に矮小化するものです。これは国による生存権保障、社会保障制度の理念そのものを否定するに等しい。憲法25条1項、2項に抵触する恐れがあると言わざるを得ません。
 住江 社会保障給付に要する財源に消費税を充てることとしていますね。なぜ消費税なのか。
 所得再分配という税の機能の面から見て、おかしいと思うのですがいかがですか。
 武井 推進法2条4号は「主要な財源には消費税及び地方消費税の収入を充てる」と明記しています。これでは「社会保障をとるのか、消費税の増税をとるのか」というように、どちらにしても国民に負担を強いることになりかねません。
 また、社会保障に関する公費負担を大幅に低下させることが懸念されます。
 財源の確保は、憲法から導かれる応能負担原則、つまり「負担能力のある人が負担をする」という原則に基づいて行われるべきです。社会保障の財源は、所得再分配や資産課税の強化などにより、担税力のあるところからされなければなりません。消費税を社会保障の主要な財源に充てることには、反対しなければと思っています。
 住江 憲法から見て疑義のある、問題をはらんだ法律であるということですね。
 武井 日弁連としては、憲法25条が生存権を保障している以上、これをなおざりにするようなことは許されないと、常に考えて行動しています。

生活保護への攻撃は、法の狙い浮き彫りに

 武井 推進法でとりわけ見過ごせないのは、生活保護基準を引き下げることを示唆していることです。付則2条1号では「保護を受けた者等への厳格な対処、生活扶助、医療扶助等の給付水準の適正化、保護を受けている世帯に属する者の就労の促進その他の必要な見直しを早急に行うこと」としている。推進法の狙いはここにあるのではないかと思われるほど、問題が浮き彫りになっています。
 住江 「不正受給」を口実にした生活保護切り捨ての論調が、声高に叫ばれていますね。
 しかし、705万世帯が生活保護基準以下の生活を強いられているといわれている。貧困と格差の拡大の中で、生活保護をはじめとする社会保障の拡充こそ必要なのに、推進法はこれにまったく逆行する内容です。
 武井 会長声明では、生活保護受給者の増加は不正受給者の増加によるものではなく、無年金・低年金の高齢者の増加と非正規雇用の置き換えで、不安定就労や低賃金労働が増加したことが主たる要因であると指摘しています。
 その上で、本来生活保護が必要な方に保護が行き届いてないことこそが問題だとしています。
 また、いわゆる「不正受給」の問題についても、その割合は保護費全体の0・4%程度です。この中には高校生の子どものアルバイト料の申告漏れなど、「不正」とすることに疑問のあるケースも含まれています。
 「不正受給」問題を取り上げて、一部の政治家が、一部のマスコミと一緒になって問題視することは非常に問題です。日弁連としては、上記のデータなども示して、6月14日に会長声明を発表し、冷静な報道と慎重な議論、検討を求めています。
 住江 推進法は、改革を具体化する立法措置を、新設する社会保障制度改革国民会議の審議を経て行うとしています。
 この国民会議には国会議員も、医療や社会保障の現場の関係者も入れないとする方針も出されています。国民不在で決められようとしており、重大な問題と考えています。
 武井 ご指摘の通りです。会長声明の中でも批判していますが、社会保障制度改革をめぐる国民的議論は、全国民の代表である国会で、すべての政党や会派が参加し、しかも審議の過程を国民にオープンにして議論、審議すべきです。
 内閣総理大臣の任命したわずかの委員による審議に委ねることは、民主主義という観点から不適切で、見直すべきです。

目的自体が破たん――マイナンバー法案

 住江 日弁連主催の社会保障・税共通番号制(マイナンバー法案)に反対する院内集会にお招きいただき、医療関係者の立場から意見を述べたことがありました。そのとき患者の診療情報の漏えいやプライバシー侵害の問題、とりわけ民間業者による利活用を非常に危惧していると指摘しました。
 また、共通番号制度を導入しても、正確な所得把握はできず、そもそも制度目的に合理性がないという問題提起をさせていただきました。
 武井 ご指摘のように、同法案の問題は、重大なプライバシー侵害の危険のある点、それから制度の目的自体が破綻している点です。民主、自民、公明の3党合意で、一体改革の当初の目的だった「社会保障充実」、「公平な税制の実現」という目的・理念が著しく後退したのですから、共通番号制の目的は破綻しています。
 さらに、問題がもう1点。法案が審議される段階になっても、共通番号制導入による費用対効果がいまだ明らかになっていないことです。このままでは、一部の官庁、一部の企業の利益のための箱物事業になりかねません。

「社会生活上の医師」としての役割に期待

 住江 日弁連のホームページで、弁護士の役割を「『社会生活上の医師』として」とあるのを見て、とても共鳴、共感しました。
 私たち医師、歯科医師は、一人ひとりの命と健康を守るために、日々地域で診療に当たっています。その私たちからみて、今ほど人々が地域で安心して生活していくということが脅かされている時代はないと感じています。
 「社会生活上の医師」である弁護士、日弁連の役割に大いに期待しています。また、ともに「医師」として、さまざまな課題で情報交換や懇談ができればと思っています。
 本日は、ありがとうございました。