ホーム

 

社会保障制度改革推進法
皆保険は空洞化、医療にも格差


(「全国保険医新聞」2012年9月15日号)


 社会保障制度改革推進法は、社会保障・税一体改革関連法案として、8月に可決成立した。しかしその中身はいまだ十分に知られていない。今回は「推進法」の医療分野における問題点を重点的に解説する。

「範囲の適正化」は給付の縮小
 法律には国民皆保険制度を堅持するという文言は使われず、原則加入という、例外を作ることを認めるかのような条文が入った。
「範囲の適正化」は、これまでも給付の拡充というよりも給付の縮小の意味で使われてきた。法律に明記したことは制度見直しによる保険給付の縮小まで踏み込む方向を示すものだ。
 これまでに登場したことのある▽一定額以下の医療費は保険から給付しない保険免責制▽1〜3割の定率負担に一定額を上乗せする受診時定額負担▽市販薬と類似している医薬品を保険給付の対象から外す―などが復活する可能性がある。
 さらに、最新の医療技術や医薬品等の先進医療の範囲を拡大し、それ以外の基礎部分の医療は給付を縮小するということや、薬剤の差額負担を強いる参照価格制(医薬品の保険給付に上限を設け、上回る分は患者負担とする)の導入なども考えられる。
 また、保険料については▽国と地方の公費負担は、保険料の「負担の適正化に充てる」(第2条3項)だけに限定化する方向で、給付の拡充という選択肢をあらかじめ排除することが懸念される。▽「公平の確保」の名目で、国民からの保険料徴収を、保険料水準の高いところに合わせる平準化を示唆している。
 財源については「公費負担の費用は、消費税収(国・地方)を主要な財源とする」(第2条4項)としている。所得税や法人税から、消費税に置き換えていくならば、事実上、社会保障給付を消費税収の範囲内に抑えることになる。

医療を営利産業化
 今後、20人の委員で構成される社会保障制度国民会議で、保険給付の対象となる療養の範囲が議論される。
 保険給付の縮小という方向で具体化されるならば、国民皆保険制度の特徴である▽全国民が加入対象・給付対象▽全国一律の保険給付▽フリーアクセス▽医療の現物給付―など公平、平等な給付を保障することから大転換し、混合診療の全面解禁に向かうことが強く懸念される。
 医療が営利産業化し、患者の財力によって受けられる医療に格差が生じる社会となる。国民皆保険制度の空洞化を招く危険性がある。