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韓国の医療情勢とFTAの脅威


(「全国保険医新聞」2012年9月25日号)


 TPPや米韓FTA(自由貿易協定)は、ISD条項やラチェット条項など、協定そのものの制度が問題視されることが多い。しかしこれらの協定の本当の危険性を理解するには、協定の加盟国がそもそも持っていた社会問題や社会保障制度の不備などを考慮する必要がある。今回は人道主義実践医師協議会編集局長の李相潤(イ・サンユン)医師に、韓国の医療を取り巻く状況について聞いた。

高齢化の進展と貧困の拡大
韓国社会が抱える問題は、日本ととても似ている。
まず、高齢化が問題だ。国内の65歳以上人口が7%以上から20%以上なるまで、日本は30年以上かかった。しかし韓国では2000年から2026年の20年数年しかかからないと予測されている。近年、高齢者の生活保障などの問題が噴出している。
貧困の拡大も深刻だ。近年、所得格差が拡大している。最も富裕な層の所得が増しているのに対して、中間層の所得が低下し、貧困層へと転落していく傾向にある。貧困問題の研究者によれば、韓国内の貧困層は人口の15%に達するという。

社会保障の脆弱
問題となってくるのが、公的な医療保障制度の脆弱性だ。
対GDP比で見た医療費支出割合は、OECD(2009年)平均が9・5%で、このうち3分の2が公共支出となっている。しかし韓国では医療費支出が6・9%。うち公共支出は約半分しかない。
医療への公共支出の少なさは、公的な医療保険制度の不備として現れる。韓国では混合診療が一般的だ。全医療行為における公的医療保険のカバー率は約60%にとどまる。総医療費のうち、約40%が患者の自己負担で賄われている。そのため、多くの国民は複数の民間医療保険に併せて加入する。
しかし、近年の貧困の深刻化によって、十分な医療を受けられない人、保険料を支払えない人が増えてきた。そのため、風邪などの軽い疾病なら受診できても、手術が必要な重い疾病の場合、高額な医療費負担のためにほとんど受診できない実態がある。
必要な医療行為が保険適用されていない問題もある。例えばエコー(超音波)検査は公的保険の適用外。韓国の死亡原因の1位はがんだが、肝臓や心臓にがんの疑いがあるときのエコー検査は患者の自費負担となる。貧困層の患者は自費と聞くと「もういいです」となる。
近年、貧困の拡大や高齢化によって、韓国の医療費支出は増加している。2000年から2009年までの医療費の増加はOECD(2009年)での平均が4・8%であるのに対し、韓国では約9%増加してる。


FTAの追い打ち
こうした状況の下で米韓FTAが発効した。高齢化や貧困の拡大によって、社会保障としての医療への要求が増す中、ISD条項などで公的医療保険の拡充なども難しくなる。
米韓FTAそのものの内容も問題だが、そもそもの韓国の未発達な社会保障体制に追い打ちをかけるものとなる。